- 告白
- 耳かき
- 学校/学園
- 切ない
- 少女
- 後輩
- 年下
公開日2024年08月31日 00:02
更新日2024年08月31日 00:02
文字数
4524文字(約 15分5秒)
推奨音声形式
バイノーラル
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
部活の後輩
視聴者役柄
失恋したばかりの先輩
場所
少し手狭な部室
あらすじ
彼女ができた、と友人が言った。
その人は自分の好きな人だった。 仕方がない。あいつはいい奴だ。あいつら自分と同じかそれ以上に彼女のことが好きで、自分よりずっと行動力があったんだ。
そう言い聞かせながら、放課後、部活に向かう。
部員2名の文芸部。
小さな部室には、少し生意気な仲のいい後輩が1人いる。
「もう、遅いじゃないですか、先輩」
いつだって自分を迎えてくれる、健気で、明るくて、とても寂しそうな少女が、1人、いる。
その人は自分の好きな人だった。 仕方がない。あいつはいい奴だ。あいつら自分と同じかそれ以上に彼女のことが好きで、自分よりずっと行動力があったんだ。
そう言い聞かせながら、放課後、部活に向かう。
部員2名の文芸部。
小さな部室には、少し生意気な仲のいい後輩が1人いる。
「もう、遅いじゃないですか、先輩」
いつだって自分を迎えてくれる、健気で、明るくて、とても寂しそうな少女が、1人、いる。
本編
(部室のドアを開ける)
あ、やっと来ましたね!
もー、遅いじゃないですか、先輩。
2人っきりの文芸部、先輩が現れないと私は1人ぼっちにやっちゃうんですからねー?
遅れるなら遅れるって連絡してくれないと心細いじゃないですか。可愛い後輩に寂しい思いをさせるなんて、先輩はいつからそんな罪な男に......ん?
......あー。
なーんか、そういう気分じゃないって顔してますね?
ま、座ってください。
もし必要ならコーヒーでも淹れましょうか。
......要りませんか。
そうですか。
......うーん。結構重症っぽいなぁ、これは。
(パイプ椅子に座る)
それで?
何があったんです?
話なら聞きますよ、いくらでも。
いやまぁ、正直なんとなく察しはついてるんですけど、こういうことは先輩自身が言葉にした方がいいんじゃないかって思うんですよね。
喋ってみてくださいよ、私に。
どんな内容でも引いたりしませんから。その代わり、アドバイスを期待されても答えられませんよ。そんな資格は、私にはありませんので。
ただ、聞くだけです。
きっと、その方が先輩も楽でしょう?
さ、教えてください。
先輩は、なんでそんなに落ち込んでるんですか?
(じっと見つめられ、観念して答える)
......そうですか。
失恋、しちゃいましたか。
あの人でしょう?
先輩のクラスメイトの、いつもポニーテールの人......ええ、知ってますよ。喋ったことはないですけど、たまに見かけてましたから。
さもありなん、って言ったら失礼なのかもしれませんけど、不思議ではありませんね。
あの人、見るからに人気者でしたから。
そりゃあ、いつか誰かが声をかけますよ。
よくある話ではありますけどね。
誰からも好かれるその人は、誰のことでも好きになれる人だった、ってことです。
いい人なんですよ、きっと。
短所より長所を見れる人で、貶す言葉より褒める言葉を多く知ってる人。良いとこ探しの達人で、だからどんな人でも愛せて多くの人から愛される天性のムードメーカー。
たまにいるんです、そういう人が。
まあ大抵その手の人は高嶺の花になるんですけど、皆んな遠慮してるだけで、ちょっと勇気を出したら案外手が届いちゃったりするものです。
早い者勝ち。
先着一名様。
平等にチャンスはあったけれど、先輩は少しだけ遅かった。それだけの話。
......やれやれ。
私の先輩をこんなにしてくれちゃって。
我慢してる方の身にもなってほしいよ、まったく。
(鞄から何かを取り出し、立ち上がる)
先輩。
ちょっとこっち来てください。
(手を引っ張られ、部室の端へ)
よいしょ、っと。
(その場で正座する彼女)
さ、先輩。
横になっちゃってください。
膝枕ってやつです。
......は? じゃないですよ。
可愛い後輩が、傷心の先輩を慰めるために一肌脱いであげようって言ってるんです。
泣きたい時や叫びたい時こそ、誰かに思いっきり甘えるべきだと思いますよ?
さあさあ。
私の膝に、頭を乗せてくださいな。
今なら特別サービスもつけちゃいますよ。
......じゃーん。
耳かき棒です。
......なんでそんなもの持ってるのか、って聞かれても、普段から持ち歩いてるから、としか答えようがありませんね。
女の子の物持ちの良さを舐めてもらっちゃ困ります。
私の鞄には大抵のものは揃ってますよ。入ってないのは教科書だけです。
......うんうん。
その「仕方ないなぁ」って顔。
それでこそ先輩ですよ。
(言われた通りに、寝転がる)
床が硬いのは、まあ、我慢してください。
それが気にならなくなるくらい、耳かきでリラックスさせてみせますので。
じゃ、始めますよー。
(右の耳かき開始)
ふふ、どうです。
気持ちいいですか?
......なら、よかった。
他人の耳掃除なんて初めてですからね、もし力加減とかミスっちゃったらちゃんと文句言ってくださいね?
......そりゃ初めてですよ。
逆に聞きますけど、先輩は経験あるんですか?
ないでしょ?
私も同じです。
普通ありませんよ。
歳の離れた兄弟がいる......とかなら、まあ、やったことがあってもおかしくないと思いますけど、そうじゃないならそうそう機会が巡ってくるものじゃありませんって。
家族でもない人に膝を貸すのも。
異性の先輩の耳かきをするのも。
そんな軽々しくできることじゃないんですよ?
先輩だからやってるんです。
誰にでもやるわけないじゃないですか。
私は、先輩の失恋相手のあの人みたいな博愛主義者じゃありませんからね。
先輩も知っての通り、私って結構自分勝手なんです。
些細なことで腹を立てるし、嫉妬するし、人を嫌いになることだって珍しいとは言えません。
もちろん、四六時中拗ねたり怒ったりしてるわけじゃありませんけど、要するに誰彼構わず仲良くなることは私にはできない、ってことです。
けど、だからこそ。
好きな人のことはとことん特別扱いしたくなっちゃうんです。
例えば、今みたいに。
先輩が凹んだ顔してたら、ついお節介を焼きたくなっちゃうんですよ。
何かできることないかな、どうにかして笑顔にできないかな。膝枕はいくらなんでも大胆すぎる気がしてちょっと恥ずかしいけど、いいや、それで少しでも元気になってくれるなら。
......そんな風に思ってしまうんです。
たとえ先輩の心の傷の原因が失恋だったとしても。
私じゃない誰かに恋をした先輩が、私の見てないところでフラれたからだとしても。
あれほど「私にしておきませんか」って言ったのに、結局、こうなったからだとしても。
それでも先輩は、私の大好きな人だから。
辛そうな姿を見せられたら、居ても立っても居られないんですよ。
(耳かき棒が抜ける)
さあ、こっち向いてください、先輩。
反対側もやっちゃいましょう。
......いやいや。片方だけで終わるわけないですって。
爪を切るときに右手の爪だけ切って左手は放っとく、なんて人はいないでしょ?
耳かきだって同じですよ。
もう右はやっちゃったんですから、左もやらないと気持ち悪いじゃないですか。
ほらほら、往生際が悪いですよ、先輩。
無駄な抵抗はやめて観念してください。
大人しく私に耳かきされちゃってください。
(膝の上で寝返りを打つ)
......くふふっ。
その顔。
やっと気づきました?
それとも最初からお見通しだったとか?
ま、どっちでもいいです。
私にとっては同じことですから。
......ええ、そうですよ?
まだまだ逃す気はありません。
もうちょっと、この時間を楽しませてくださいね?
(左の耳かき開始)
ねえ先輩。
私、今どんな顔してますか?
多分、笑ってると思うんですけど。
......ほほう、さすがですね。
その通り。
形としては笑ってますけど、内心じゃ少し怒ってるんです。
先輩に、じゃありませんよ?
あの人......先輩を袖にしたあの人と、それから、私に怒ってるんです。
まあ、前者はいわばただの嫉妬ですよ。
私が手を伸ばしても届かなかったものを。
欲しくて欲しくてたまらなかったものを。
何度も何度も諦めようとして、それでも追いかけ続けたものを。
そんなのいらない、って捨てた贅沢者に、黒い気持ちが抑えきれません。
けど。
それ以上に。
何も悪く無い幸せ者なんかより、私の方がよほど許せません。
だって、私、よかったって思っちゃったんですもん。
先輩がフラれて。
落ち込んでて。
まだ諦めなくていいんだ、って、そう思っちゃったんです。
ほんと、嫌になりますよ。
好きな人の不幸を喜ぶだなんて、私はいつからそんな性格の悪い人間になっちゃったんでしょうね?
......おっと、何も言わないでください、先輩。
もし今、先輩が優しい言葉や頼もしいセリフを口にしてしまったら、私は私の醜さを先輩のせいにしてしまいそうなので。
いけないのは、私です。
先輩のことが好きだって気持ちはとっくのとうに自覚してて、なのにいつまで経っても踏み出す勇気が持てなくて。
真正面から告白する度胸がないから、こういうズルい方法しか取れなくて。
......おまけに、ここまで来てなお、返事を聞くのを怖がってる。
もう心臓バクバクです。
今すぐ逃げ出したいくらいですよ。
でも、この体勢じゃ、それはできません。
耳かきしながらなら、いくら根性なしの私でも、何処へも隠れられません。
ですから、今のうちに。
一つだけ、お願いがしたいんです。
答えを聞く覚悟はまだできていないけれど、せめて、普段はとても言えない丸裸の思いを伝えさせて欲しいんです。
先輩。
あなたはこれからも、いくつかの恋をするんだと思います。
それが成就するのか、儚く散るのか、私には知る由もありません。
だけど、もし。
今日みたいに、思い破れて、夢が弾けて、傷ついて。
全てに見放されたような気がして、世界が灰色に見えてしまった、そんな日には。
どうか、思い出して欲しいんです。
あなたを大好きな私が、いつだってここにいるってことを。
隣にはいないかもしれない。
振り返っても見つからないかもしれない。
それでも必ず、私はあなたのそばにいます。
あなたが笑ってくれるなら、空の果てでも駆けつけてみせます。
あなたがそう望むなら、海の底にだってついていきます。
どんな時でも、先輩はひとりぼっちじゃない。
私が絶対、そうさせない。
......その代わり、ってわけじゃ、ないんですけど。
あなたの後輩がいつかこう言っていたことを、頭の片隅に置いておいてくれませんか。
......本当は、もっともっと、欲張りたいんですけどね。
とりあえずは、それで十分です。
今は、まだ。
(耳かきが終わる)
さあ!
起きてください先輩。
両耳とも、もうすっかり綺麗になっちゃいましたよ。
(体を起こして、彼女と目を合わせる)
どうです?
少しは癒されました?
......ふふふ。
いいですねぇ。
全然癒されて無さそうなのに、ここに来た時よりちょっと元気になってる。
よかったよかった、そういう顔をしてくれるなら、心を込めた甲斐がありますよ。
......お礼なんて要りませんよ。
むしろ私が謝らないといけないくらいです。
失恋に付け込んでズルいことをした自覚はありますし、だから、さっきはああ言いましたけど、今日のことは忘れてくれて構いません。
あんまり深く考えないでください。
気にしないで、次の恋を探してください。
大丈夫、先輩は自分で思ってるよりずっと魅力的な人ですから。
私が保証してあげます。
一度の失恋で全部終わった気になるのは早すぎる、ってね。
だけど......まあ、そんな日が来るかどうかはわかりませんが。
もうお前でもいいや、って思ったら、いつでも声をかけてください。
期待しないで待ってますから。
いつまでだって、待ち続けますから。
(立ち上がって、スカートの埃を払う彼女)
さて。
それじゃ、始めましょうか。
......なーにきょとんとしてるんですか。
部活ですよ、部活。
忘れました?
ここは文芸部の部室で、先輩と私は2人だけの部員なんですよ?
雨が降ろうが風が吹こうが、失恋しようが耳かきしようが、部員が部室に集まってるなら、部活動はちゃんとしないと。ね?
さあ、今日の活動内容はどうしましょうか。
下校時刻まではまだ時間がありますから。
私たちの放課後を、もう少しだけ続けましょう?
あ、やっと来ましたね!
もー、遅いじゃないですか、先輩。
2人っきりの文芸部、先輩が現れないと私は1人ぼっちにやっちゃうんですからねー?
遅れるなら遅れるって連絡してくれないと心細いじゃないですか。可愛い後輩に寂しい思いをさせるなんて、先輩はいつからそんな罪な男に......ん?
......あー。
なーんか、そういう気分じゃないって顔してますね?
ま、座ってください。
もし必要ならコーヒーでも淹れましょうか。
......要りませんか。
そうですか。
......うーん。結構重症っぽいなぁ、これは。
(パイプ椅子に座る)
それで?
何があったんです?
話なら聞きますよ、いくらでも。
いやまぁ、正直なんとなく察しはついてるんですけど、こういうことは先輩自身が言葉にした方がいいんじゃないかって思うんですよね。
喋ってみてくださいよ、私に。
どんな内容でも引いたりしませんから。その代わり、アドバイスを期待されても答えられませんよ。そんな資格は、私にはありませんので。
ただ、聞くだけです。
きっと、その方が先輩も楽でしょう?
さ、教えてください。
先輩は、なんでそんなに落ち込んでるんですか?
(じっと見つめられ、観念して答える)
......そうですか。
失恋、しちゃいましたか。
あの人でしょう?
先輩のクラスメイトの、いつもポニーテールの人......ええ、知ってますよ。喋ったことはないですけど、たまに見かけてましたから。
さもありなん、って言ったら失礼なのかもしれませんけど、不思議ではありませんね。
あの人、見るからに人気者でしたから。
そりゃあ、いつか誰かが声をかけますよ。
よくある話ではありますけどね。
誰からも好かれるその人は、誰のことでも好きになれる人だった、ってことです。
いい人なんですよ、きっと。
短所より長所を見れる人で、貶す言葉より褒める言葉を多く知ってる人。良いとこ探しの達人で、だからどんな人でも愛せて多くの人から愛される天性のムードメーカー。
たまにいるんです、そういう人が。
まあ大抵その手の人は高嶺の花になるんですけど、皆んな遠慮してるだけで、ちょっと勇気を出したら案外手が届いちゃったりするものです。
早い者勝ち。
先着一名様。
平等にチャンスはあったけれど、先輩は少しだけ遅かった。それだけの話。
......やれやれ。
私の先輩をこんなにしてくれちゃって。
我慢してる方の身にもなってほしいよ、まったく。
(鞄から何かを取り出し、立ち上がる)
先輩。
ちょっとこっち来てください。
(手を引っ張られ、部室の端へ)
よいしょ、っと。
(その場で正座する彼女)
さ、先輩。
横になっちゃってください。
膝枕ってやつです。
......は? じゃないですよ。
可愛い後輩が、傷心の先輩を慰めるために一肌脱いであげようって言ってるんです。
泣きたい時や叫びたい時こそ、誰かに思いっきり甘えるべきだと思いますよ?
さあさあ。
私の膝に、頭を乗せてくださいな。
今なら特別サービスもつけちゃいますよ。
......じゃーん。
耳かき棒です。
......なんでそんなもの持ってるのか、って聞かれても、普段から持ち歩いてるから、としか答えようがありませんね。
女の子の物持ちの良さを舐めてもらっちゃ困ります。
私の鞄には大抵のものは揃ってますよ。入ってないのは教科書だけです。
......うんうん。
その「仕方ないなぁ」って顔。
それでこそ先輩ですよ。
(言われた通りに、寝転がる)
床が硬いのは、まあ、我慢してください。
それが気にならなくなるくらい、耳かきでリラックスさせてみせますので。
じゃ、始めますよー。
(右の耳かき開始)
ふふ、どうです。
気持ちいいですか?
......なら、よかった。
他人の耳掃除なんて初めてですからね、もし力加減とかミスっちゃったらちゃんと文句言ってくださいね?
......そりゃ初めてですよ。
逆に聞きますけど、先輩は経験あるんですか?
ないでしょ?
私も同じです。
普通ありませんよ。
歳の離れた兄弟がいる......とかなら、まあ、やったことがあってもおかしくないと思いますけど、そうじゃないならそうそう機会が巡ってくるものじゃありませんって。
家族でもない人に膝を貸すのも。
異性の先輩の耳かきをするのも。
そんな軽々しくできることじゃないんですよ?
先輩だからやってるんです。
誰にでもやるわけないじゃないですか。
私は、先輩の失恋相手のあの人みたいな博愛主義者じゃありませんからね。
先輩も知っての通り、私って結構自分勝手なんです。
些細なことで腹を立てるし、嫉妬するし、人を嫌いになることだって珍しいとは言えません。
もちろん、四六時中拗ねたり怒ったりしてるわけじゃありませんけど、要するに誰彼構わず仲良くなることは私にはできない、ってことです。
けど、だからこそ。
好きな人のことはとことん特別扱いしたくなっちゃうんです。
例えば、今みたいに。
先輩が凹んだ顔してたら、ついお節介を焼きたくなっちゃうんですよ。
何かできることないかな、どうにかして笑顔にできないかな。膝枕はいくらなんでも大胆すぎる気がしてちょっと恥ずかしいけど、いいや、それで少しでも元気になってくれるなら。
......そんな風に思ってしまうんです。
たとえ先輩の心の傷の原因が失恋だったとしても。
私じゃない誰かに恋をした先輩が、私の見てないところでフラれたからだとしても。
あれほど「私にしておきませんか」って言ったのに、結局、こうなったからだとしても。
それでも先輩は、私の大好きな人だから。
辛そうな姿を見せられたら、居ても立っても居られないんですよ。
(耳かき棒が抜ける)
さあ、こっち向いてください、先輩。
反対側もやっちゃいましょう。
......いやいや。片方だけで終わるわけないですって。
爪を切るときに右手の爪だけ切って左手は放っとく、なんて人はいないでしょ?
耳かきだって同じですよ。
もう右はやっちゃったんですから、左もやらないと気持ち悪いじゃないですか。
ほらほら、往生際が悪いですよ、先輩。
無駄な抵抗はやめて観念してください。
大人しく私に耳かきされちゃってください。
(膝の上で寝返りを打つ)
......くふふっ。
その顔。
やっと気づきました?
それとも最初からお見通しだったとか?
ま、どっちでもいいです。
私にとっては同じことですから。
......ええ、そうですよ?
まだまだ逃す気はありません。
もうちょっと、この時間を楽しませてくださいね?
(左の耳かき開始)
ねえ先輩。
私、今どんな顔してますか?
多分、笑ってると思うんですけど。
......ほほう、さすがですね。
その通り。
形としては笑ってますけど、内心じゃ少し怒ってるんです。
先輩に、じゃありませんよ?
あの人......先輩を袖にしたあの人と、それから、私に怒ってるんです。
まあ、前者はいわばただの嫉妬ですよ。
私が手を伸ばしても届かなかったものを。
欲しくて欲しくてたまらなかったものを。
何度も何度も諦めようとして、それでも追いかけ続けたものを。
そんなのいらない、って捨てた贅沢者に、黒い気持ちが抑えきれません。
けど。
それ以上に。
何も悪く無い幸せ者なんかより、私の方がよほど許せません。
だって、私、よかったって思っちゃったんですもん。
先輩がフラれて。
落ち込んでて。
まだ諦めなくていいんだ、って、そう思っちゃったんです。
ほんと、嫌になりますよ。
好きな人の不幸を喜ぶだなんて、私はいつからそんな性格の悪い人間になっちゃったんでしょうね?
......おっと、何も言わないでください、先輩。
もし今、先輩が優しい言葉や頼もしいセリフを口にしてしまったら、私は私の醜さを先輩のせいにしてしまいそうなので。
いけないのは、私です。
先輩のことが好きだって気持ちはとっくのとうに自覚してて、なのにいつまで経っても踏み出す勇気が持てなくて。
真正面から告白する度胸がないから、こういうズルい方法しか取れなくて。
......おまけに、ここまで来てなお、返事を聞くのを怖がってる。
もう心臓バクバクです。
今すぐ逃げ出したいくらいですよ。
でも、この体勢じゃ、それはできません。
耳かきしながらなら、いくら根性なしの私でも、何処へも隠れられません。
ですから、今のうちに。
一つだけ、お願いがしたいんです。
答えを聞く覚悟はまだできていないけれど、せめて、普段はとても言えない丸裸の思いを伝えさせて欲しいんです。
先輩。
あなたはこれからも、いくつかの恋をするんだと思います。
それが成就するのか、儚く散るのか、私には知る由もありません。
だけど、もし。
今日みたいに、思い破れて、夢が弾けて、傷ついて。
全てに見放されたような気がして、世界が灰色に見えてしまった、そんな日には。
どうか、思い出して欲しいんです。
あなたを大好きな私が、いつだってここにいるってことを。
隣にはいないかもしれない。
振り返っても見つからないかもしれない。
それでも必ず、私はあなたのそばにいます。
あなたが笑ってくれるなら、空の果てでも駆けつけてみせます。
あなたがそう望むなら、海の底にだってついていきます。
どんな時でも、先輩はひとりぼっちじゃない。
私が絶対、そうさせない。
......その代わり、ってわけじゃ、ないんですけど。
あなたの後輩がいつかこう言っていたことを、頭の片隅に置いておいてくれませんか。
......本当は、もっともっと、欲張りたいんですけどね。
とりあえずは、それで十分です。
今は、まだ。
(耳かきが終わる)
さあ!
起きてください先輩。
両耳とも、もうすっかり綺麗になっちゃいましたよ。
(体を起こして、彼女と目を合わせる)
どうです?
少しは癒されました?
......ふふふ。
いいですねぇ。
全然癒されて無さそうなのに、ここに来た時よりちょっと元気になってる。
よかったよかった、そういう顔をしてくれるなら、心を込めた甲斐がありますよ。
......お礼なんて要りませんよ。
むしろ私が謝らないといけないくらいです。
失恋に付け込んでズルいことをした自覚はありますし、だから、さっきはああ言いましたけど、今日のことは忘れてくれて構いません。
あんまり深く考えないでください。
気にしないで、次の恋を探してください。
大丈夫、先輩は自分で思ってるよりずっと魅力的な人ですから。
私が保証してあげます。
一度の失恋で全部終わった気になるのは早すぎる、ってね。
だけど......まあ、そんな日が来るかどうかはわかりませんが。
もうお前でもいいや、って思ったら、いつでも声をかけてください。
期待しないで待ってますから。
いつまでだって、待ち続けますから。
(立ち上がって、スカートの埃を払う彼女)
さて。
それじゃ、始めましょうか。
......なーにきょとんとしてるんですか。
部活ですよ、部活。
忘れました?
ここは文芸部の部室で、先輩と私は2人だけの部員なんですよ?
雨が降ろうが風が吹こうが、失恋しようが耳かきしようが、部員が部室に集まってるなら、部活動はちゃんとしないと。ね?
さあ、今日の活動内容はどうしましょうか。
下校時刻まではまだ時間がありますから。
私たちの放課後を、もう少しだけ続けましょう?
クレジット
ライター情報
シチュエーション台本やASMR台本を主に書いています
シチュボというかボイスドラマというか、リアリティラインは微妙な塩梅ですが、楽しんでいただけると嬉しいです
シチュボというかボイスドラマというか、リアリティラインは微妙な塩梅ですが、楽しんでいただけると嬉しいです
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