0
【ストーカーだった後輩にもう逃げ場がないことを告げられる話】
written by うずにわ
  • 告白
  • 学校/学園
  • ヤンデレ
  • 後輩
公開日2025年07月23日 02:53 更新日2025年07月23日 02:53
文字数
6015文字(約 20分3秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
文芸サークルの後輩
視聴者役柄
先輩
場所
馴染みの喫茶店
あらすじ
学祭で発行する文芸サークルの部誌、それに掲載するための作品を書くために行きつけの喫茶店でパソコンを開いていると、仲の良い後輩が現れた。

「せっかくばったり遭遇したんですし、センパイ、ちょっと相談に乗ってくれません?」

断る理由もなく、快く彼女の創作の相談に乗ってやることにした。

……それが間違いだったかもしれないだなんて、どうして想像ができるだろう?
本編
(馴染みの喫茶店)

(いつも通り、観葉植物に半ば隠れた席で、キーボードと向かい合う)

(軽いベルの音が来客を告げる)


 あれっ、センパイ!


(聞き慣れた声は、サークルの後輩のもの)


 まさか、軽い冒険のつもりで初めて入った喫茶店に知ってる人の姿を見つけるなんて。
 いやはや驚きです。

 ……相席、いいですか?


(対面に座る後輩)


 して、センパイはこんなところで一体何を……なんて、聞くまでもありませんでしたね。

 そのノートパソコンを見れば一目瞭然。
 執筆作業の真っ最中……でしょ?

 学祭も目前に迫ってきてますしねぇ。
 センパイは我らが文芸サークルの麒麟児ですから。今年どんな新作を見せてくれるのか、実に楽しみですよ。


 ……ああ、私ですか?

 もちろん、鋭意製作中です。
 進捗はあんまり芳しくないですけど……大丈夫、締め切りまでには間に合わせます。


 ……ああそうだ、ちょうどいい。

 せっかくばったり遭遇したんですし、センパイ、ちょっと相談に乗ってくれません?
 
 まだ形にしてない、アイデアの段階なんですが……感想程度でいいんで、ご意見伺えたら嬉しいなー、って。


 ……やった。
 ありがとうございまーす!

 それじゃ……っと、その前に、とりあえずコーヒー頼んでいいですか?


(アイスコーヒーを待ってから)


 えーーっと……どう話したものかな。

 そう……私って、いつも小説じゃなくてシナリオ書いてるじゃないですか。
 今度の学祭の文集もそうするつもりなんですけど、それはそれとして、少しばかり趣向を変えてみようとは思ってまして。

 今までやってた、掛け合いがメインのボイスドラマとか演劇のシナリオじゃなく……なんていうんでしょう、一人芝居? シチュエーションボイス? まあ呼び方は様々あると思いますが、とにかく、そんな感じのものに挑戦したいな、と。

 それで……ですね。

 肝心の内容なんですが、ここは気を衒わずに、恋する女の子を主人公にする予定で。

 同じ大学のサークルの先輩に焦がれる女の子の葛藤と告白。
 まずまずオーソドックスな筋書きではあると思うんですが。


(数度、小さな咳払いで声を整え)

(少し芝居がかった口調で、彼女は語り始める)


 『主人公とは我々同様』なんて言葉があるように、目が覚めるような美人でもなけれな性根が腐っているわけでもない、いたって気楽でどこか情けない女の子がいる。

 これといって秀でた何かを持たない彼女は、ごく当たり前に大学に入り、気に入ったサークルを見つけ、そして、そこで出会った先輩にありきたりな恋をするのです。

 何に惚れたか、どこに惹かれたか。
 多分、本人ですら曖昧でしょう。

 一緒に過ごすうちに、同じ趣味を共有するうちに、いつしか目で追う時間が増え、知らず知らずに姿を求め……ありふれた春の始まりは、珍しくもない道を通ってありがちな気持ちに辿り着く。

 しかし、そうと自覚はしたものの、胸の中の思いを言葉にする勇気はまだ持てない。色恋沙汰に不慣れな者の悲しさですね。

 今日打ち明けるか。
 明日伝えるか。

 踏ん切りがつかないまま悩みに暮れる日々が続いて……そしてある時、ふと、脳裏を小さな疑問が掠めるのです。


 私は、先輩のことをどのくらい知っているのだろうか、と。


(小さくため息をついて)


 少しくらいは、知っているつもりだったんです。

 同じサークルに属しているのだからお喋りする機会は多いですし、時折一緒にご飯を食べに行くくらいには仲も良いので、食べるものの好みや時間の使い方の傾向などは何となくわかっている。

 しかし、それらはいわば外側の、枝葉に過ぎない一面でしかない。


 ……気づかなければ、もっと暢気でいられたのでしょう。

 でも、一度目に映ってしまった不安のつぼみは、忘れようとすればするほど大きくなり……花が開くのを止めることは決してできない。


 先輩と恋愛の話をしたことはないけれど、ひょっとすると気になる人がいたりするのではないか? だとしたら、それは……誰だ。私ではないなら、誰だ。

 私がいない場所で、先輩は私をどんな風に言っているのだろうか? いや、そもそも、私を話題にすることなんてあるのだろうか。

 先輩は私とよくお喋りしてくれるけれど、それは先輩が優しい人だからで、本当は鬱陶しさを我慢していたりするのではないか。


 ……恐れはやがて焦りとなり、それが執着に形を変えるまで、さほど時間はかかりませんでした。


 知らなければ。

 理解するために、愛されるために、寄り添うために……もっと、もっと、知らなければ。


 そのためには?

 単純な話です。

 目を、離さなければいい。


(ハハ、と小さく乾いた笑い声)


 ……おや。

 どうしました?
 センパイ。

 難しい顔してますが。

 真剣に聞いてくれるのは嬉しいですけど、そんなに眉間に皺をよせちゃ喋りにくいですよ。


 ……話を続けますね。


(わざとらしい咳払いで仕切り直す)


 大学にいる間やサークルの時間に目を離さないのは簡単にできますが、問題はプライベートの時間ですよね。

 当たり前ですけど一緒に暮らしているわけじゃないのだから、どうしても、離れ離れになってしまう。


 しかし。
 往々にして、僥倖とは意図せず巡り合えるもの。


 その先輩は親元を離れ一人暮らしをしていて……そして、彼が暮らすアパートの部屋、その隣室が、都合よく空き家だったのです。


(ふっ、と意地悪に笑って)


 ……ああ、そういえば。
 センパイの家も、そうでしたっけ?

 ははは。
 偶然、偶然。

 まあ、そんなこともありますよ。
 お気になさらず。


(どこかニヤけた顔のまま、「さて」と気を取り直して)


 とはいえ、急に隣に引っ越したら驚かれてしまいます。

 それをきっかけに仲が深まる、なんてストーリーもないことはないでしょうが、そんな幸運を期待するには、先輩のことをまだ知らない。まだ足りない。

 なので、気づかれないようにこっそりと……なるべく空き家のままに見えるように、表札は出さず、カーテンもかけず、可能な限り持ち込む物を減らして、息を潜めて移り住むことにしました。


 そして始まった観察の日々は……まさに、発見の連続でした!


 学生向けのワンルームアパートの壁が分厚いわけありませんから、何もない部屋の中で静かにしているだけで、隣の家の物音がそれはもうよく聞こえるのですよ……わざわざ盗聴器なんか仕掛けるまでもなく、ね。

 ……おかげで、色々なことがわかりました。

 起きる時間、寝る時間はもちろん、平日に学校へ向かうタイミング、帰ってくる頃合い、部屋を掃除する間隔、お友達が訪ねてくる頻度。

 当然、家の中のことだけじゃありませんよ?

 出かけたどうかだってハッキリわかりますから、ついていくのは簡単です。

 いつも使っているスーパーのこと、顔馴染みのラーメン屋、入ったことはないけれど時折足を止めるペットショップ……それから、定期的に通っている目立たない店構えの喫茶店。


 ひとつ知るごとに、先輩に近づく。
 少しずつ詳らかになるたびに、もっともっと、愛しくなる。


 その喜びったら、ありませんでした。


(これは本当に空想の話なのか)

(計りかねて、目が泳ぐ)


 アハハ。

 ダメですよ、センパイ。
 そんなに顔を青くしては。

 私、怖い話なんかしてないですよ?

 怯えてなんていないで、ちゃんと最後まで聞いてください?
 

(背筋に薄寒いものを感じ、否応なく頷く)


 さあ、そうしてふた月ほど、夢のような生活が続いたわけですけれど、だんだんと目新しい出来事や情報は減っていきます。

 相変わらず手の届きそうな距離に先輩を感じられるのは幸せの一言ですが、心のどこかで、ちょっとした倦怠感やもどかしさも感じ始めました。

 ちょうどその頃です。


 先輩が、窓に鍵をかけていないことに気がついたのは。


 ……ありがちな油断、だったのでしょう。

 なにしろ先輩の部屋は4階です。
 下からよじ登って侵入するのは、まあ、不可能ではないでしょうが、ほぼあり得ない選択肢と言って良い。

 窓から何者かが侵入してくるだなんて、想定しないで当たり前。
 
 隣の空き家が実は空き家ではなく、そこには自分のことをずっと観察している後輩がいるだなんて……むしろ、想像できたら狂ってますよ。


 だから、仕方がなかったんです。


 先輩が戸締りをおろそかにしたことも。

 この気づきが、後輩の品性のタガをあっさり外してしまったことも。


 ……まるで……。

 まるで、手招きされてる気分でしたよ。

「ああ、じゃあもう我慢しなくていいや」

「漏れ聞こえる音だけで満足だ、って自分を騙す必要は、もう、ないんだ」

 奇妙な納得感に急かされて、その日の夜、先輩が寝静まったころを見計らって、侵入者は行動を起こしました。

 いとも容易く辿り着いたその部屋は……今までにない、仄暗い夢の空間とでも言いましょうか。

 あの薄い壁を一枚隔てた向こう側に、こんなにも素敵な場所があったなんて!

 どこから見ればいいのか、何から感じればいいのか、わからなくなって泣き出しそうになるくらい、そこには全てがありました。


 ……しかし、はしゃぐわけにはいきません。

 今まさに、すぐそこのベッドの上で、先輩が寝息を立てているのです……その寝顔をいつまでも見ていたいという衝動は、押さえつけるのに痛みを感じるほどでしたけれど、それでも、自制しなければなりません。

 もし、ここで。

 先輩がふと……例えば尿意であるとか、寝返りで手をぶつけたであるとか、とにかく何らかの理由で目を覚ましたとする。

 その時、家の中に、いるはずのない後輩の姿があったとしたら?

 今までの苦労も、これからの夢も、全ては水の泡になってしまいます。


 ……姿を隠さなければ。

 そう考えて、部屋を見渡してみると……ええ、ありました、おあつらえ向きの場所が。


 ウォークインクローゼットです。


 部屋にはそれとは別にハンガーラックがあって、普段着る服はそっちにかかっていますから、クローゼットの中には季節外れの、衣替えを待つ衣服しか入っていないに違いありません。


 ここならば……。
 先輩は滅多に開けようとしない。

 夜の間だけでなく……先輩が起きている間でも、ここならば……。

 誘惑に導かれるまま、なるべく音を立てないようにクローゼットの戸を開けて……想像通りの、時期のズレた洋服たちの間にすっぽり埋まって、また、静かに、戸を閉めて……。


 そして大きく息を吸い込んだ瞬間の、脳みそが千切れるような多幸感!


 いかにも人の家らしい少しカビ臭い湿った空気と溺死しそうなほどの先輩の匂いが肺の奥の奥まで染み込んで……歓声を堪えるのがあれだけ難しい瞬間は、人生のこれまでに経験したことがありませんでした!

 それだけではありません。

 クローゼットの通気穴から、ベッドも、普段過ごしているであろうローテーブルも、ハッキリと見えるではありませんか。

 もはや、何の不満もない。

 自分の居場所が見つかった……空っぽの隣室でジッと耳をすませるだけの日々は、今日、こうして報われるためにあったのだと、強く強く確信しました!


 ……その日は、朝が来るまで、クローゼットの中で嬉し涙を拭いながら過ごして……。

 それから毎日、そこへ通うようになりました。

 もちろん、夜だけじゃありませんよ?

 先輩の帰宅時間は把握していますから、先回りしてクローゼットの中で待つことだって容易いのです。

 おかげで、ぼーっとテレビを眺めている横顔や、お友達と通話しながらゲームをしている様子、お風呂上がりの少々あられも無い姿まで、それはもう、じっくりと堪能させていただきましたとも。

 先輩の何気ない一挙手一投足を、先輩の匂いに包まれながら延々と楽しむことができる……その喜び、その感動!

 自律神経がトロトロに溶け落ちて、涎と一緒に口から垂れてしまうんじゃないか?
 そんな錯覚すら覚えてしまうほどでした。

 もはやここまでくると、先輩が急に古着の整理を思い立ってクローゼットを開けるかもしれないというスリルすら、興奮の肥料にしかなりませんよ。


 ……白昼夢のような日々でした。

 ……他には何もいらないと思っていました。


 しかし、人間は強欲です。
 どんな幸福にも、いつか、慣れて飽きる時が来る。


 変化を。
 まだ見ぬ未来を。
 この先を。


 待っているのが希望か絶望か、そんなことはどうでもいいのです。
 どちらに転んだとて、先輩を逃がさない準備はできている。

 なにしろ、お家がフリーパス状態ですからね。

 合鍵を作る隙なんていくらでもありましたし、パソコンやスマホのパスワードはもちろん、カードのセキュリティコードも銀行口座の番号も、パスポートや年金手帳のしまってある箪笥の引き出しの鍵のありかまで、知らないことは何もない。

 ……実家の場所を探るのはちょっと苦労しましたけどね。しかしまあ、多少時間をかければわからないことではありませんでしたよ。


 もう、大丈夫。
 逃げられても隠れられても、どこへだって迎えに行ける。


 だから、次へ進みましょう。

 先輩のことは、これまでにたくさん教えてもらいました。
 今度は、自分のことを先輩に知ってもらいましょう。


 そのための第一歩として……まずは、すべてを伝えようと思うのです。

 自分の思いを、これまでの道のりを、洗いざらいお話ししましょう。

 そうしないとフェアじゃありませんし……どうせなら、ありのままの自分を好きになってもらいたいですからね。


 具体的には……そうだなぁ、先輩がいつもの喫茶店に行ったところへ偶然を装い居合わせて、作り話をするフリをして包み隠さず白状する……なんて方法はどうでしょう?


 アハハ。
 想像するだけで、すごく、すごく、楽しくなってしまいますね。


(……これ以上は聞いていられない)

(席を立つ)


 あれっ、センパイ!?

 どーしたんですか、そんな血相変えて立ち上がるなんて。
 お腹でも痛いんですか?


 ……え、帰るんですか?
 何で急に??

 いやまあ、用事があるなら止める権利は私にないですけど……えー? せっかく話したんだから一言くらい感想言ってくださいよ。


 ……ヤだなぁ、何の感想、だなんて。
 決まってるじゃないですか。

 今喋ったシナリオの感想ですよ。

 まあ、プロットというより裏設定を長々お話しした感じなんで、実際に本文を書き始めたらもっとスッキリさせるとは思うんですが。

 シチュエーションボイスとか一人芝居ののシナリオって、あんまり長かったり複雑だったり内容が濃すぎたりすると敬遠されるフシがありますからね。


 で、どうでした?

 物語としては、まあ、酷く不細工ってほどではないと思うんです……ちょっとでも、センパイが気に入ってくれたら嬉しいのですが。


 ああ、それと。

 敢えて言ってなかったんですけど、タイトルにはシチュエーションボイスっぽさも出してみたいなぁと思ってて、【ストーカーだった後輩にもう逃げ場がないことを告げられる話】とでもつけようかと考えてるんです。

 では、引き留めて申し訳ないんですけど、感想、お願いしますね? センパイ?


(*このフリー台本をご使用・動画化なさる場合、【】内は動画のタイトルと同じになるようご自由にお書き換えください)
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
【ストーカーだった後輩にもう逃げ場がないことを告げられる話】
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
うずにわ
ライター情報
シチュエーション台本やASMR台本を主に書いています
シチュボというかボイスドラマというか、リアリティラインは微妙な塩梅ですが、楽しんでいただけると嬉しいです
有償販売利用の条件
当サイトの利用規約に準ずる
利用実績(最大10件)
うずにわ の投稿台本(最大10件)