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羽をたたんで、月を見上げて
written by うずにわ
  • お嬢様
  • 幼なじみ
  • 添い寝
  • 純愛
公開日2025年03月23日 12:03 更新日2025年03月23日 12:03
文字数
2669文字(約 8分54秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
お嬢様
視聴者役柄
使用人、兼、幼馴染
場所
深夜、お嬢様の寝室
あらすじ
お嬢様の印象を、一言に収めるのは難しい。

穏やかに見えて気丈なところもあって、清淑かと思えば奔放な一面もある。ただ、あえて一言だけ選ぶなら、おそらく誰もが、「優しい人」と答えるだろう。

そんな、誰にでも優しい人であっても……いや、誰にでも優しい人だからこそ、どうしようもなく疲れてしまう時がある。


「ただ、少し、ため息をつきたくなっただけ」


いつぶりだろう、黄色い髪留めをつけたこの日の彼女は、ちょうど、そんな顔をしていた。
本編
(薄明かりの廊下に響く、扉を叩く軽い音)


 開いてるよ。


(中に入り、後ろ手に戸を閉める)


 ふふっ……。
 待っててよかった。

 ごめんなさい、こんな夜中に来てもらって。

 他のメイドさんや召使いさんたちは、とっくに眠っているというのに……あなたも、普段ならベッドの中にいる時間でしょう?

 でも、今日はどうしても、他の人たちに邪魔されたくなくて……。


 ……そう?
 ありがとう。

 あなたが平気だと言うなら、それを信じて、甘えちゃおうかな。


(ベッドに腰掛け、手を伸ばして)


 ねえ、こっちに来て。
 もっと近くでお喋りしよう?


(隣に座る)


 ……ふふっ……。

 ああ、ごめんなさい。
 今更、ちょっと面白くなってしまって。


 ……だって……。
 あなたが今ここにいるということは、覚えていてくれた、ってことでしょう? 『黄色い髪留め』の合図のことを。

『眠る前にお話しましょう』

 私たちの、古い約束。

 久しく使っていなかったから、もしかしたら気づいてもらえないかと思っていたけど……。

 よかった。
 ちゃんと、届いた。

 それだけで嬉しいというか……満足したというか。

 ぴったりな一言が思いつかないけど、とにかく、笑えてきちゃったの。


(くたびれた顔に、微笑みが滲む)


 ……え?

 ……あはは。
 私、そんな顔してた?
 
 ダメだなぁ、心配されたくてあなたを呼んだわけじゃないのに。


 ……大丈夫だよ。

 ちょっと、疲れただけ。

 体はなんともないし、何かに悩んでいるわけでもないの。
 ただ、少し、ため息をつきたくなっただけ。


 ふふっ、よく考えたらひどいことしてるね、私。

 遅い時間に呼び出して、お喋りしようとか言っておきながら、その実、自分勝手に愚痴を聞かせようとしてる。


 ……面倒くさかったら、戻ってもいいよ?
 私の頼みだからって、無理に付き合わなくてもいいんだよ?


 ……そっか。

 ……うん、分かってた。

 分かってたよ、あなたならそう答えてくれるって。


 ……あーあ、やれやれだ。
 今夜の私は、つくづくあなたを困らせたいみたい。


(自嘲的な、渇いた作り笑い)

(嫌なことがあったのかと尋ねると、彼女は肩をすくめて)


 ……うーん、どうだろう。

 嫌なことは、多分、なかったよ。
 あったのは、きっと、普通のこと。

 気にしなければそれで済む話を、私が悪く考えちゃってるだけだと思う。

 ……あなたには、もう察しがついてるんだろうけど。

 そう。昼間の、縁談のことだよ。


(やはり自嘲的な、短いため息)


 ……うん。
 断った。

 また、断った。

 これで何度目……いや、何人目だろうね。
 もう数えるのも辞めちゃったけど、でも、どれだけ繰り返してもちっとも慣れなくて。

 ……後味悪いよ。
 結婚してください、ってお願いに、ごめんなさい、って返すのは。

 彼らにとっても、その言葉は決して軽いものじゃないはずなのに。


(宙を仰いで)


 ほんと、上手くいかないなぁ!


 あの人たちが、みんな悪い人ならよかったのに。
 そしたら、胸を張って堂々と、お前なんか嫌いだって言えたのに。

 全然、そんなことないんだもの。
 みんな、普通の人なんだもの。

 ……困っちゃうよ。

 こんなことで悩むのは贅沢だって分かってるから、相談なんかできないし……なんだかんだ言いながら結局お断りしたのは私なんだから文句を言う資格なんてないし……!

 頭の中が煤だらけの黒い煙でいっぱいになったような、お腹の奥に泥水が溜まってるような……上手く言えないこの気持ちをどこに仕舞えばいいのかわかんなくなって。
 
 このまま1人で抱えてたら腕が折れちゃう気がしたから、あなたに、半分預かってもらいたくなっちゃった。


 ……ふふっ、自分で言ってて、呆れてくるね。

 あなたになら迷惑をかけても大丈夫って、私、本気で信じてるみたい。
 

(少しだけ明るくなった表情であくびをして)


 そんなに気に病むなら突っぱねないで受け入れてしまえばいいのにって、私自身、時々思わないでもないのだけど……。

 うん……やっぱり、私が結婚したい人は、他にいるって思うんだ。

 彼らがひどい人だってわけじゃないよ?

 あの人たちは……少なくとも私が見る限りでは、誠実だし、立派だし、当たり前の愛情を持ってる人だった。

 だから、彼らには、彼らが幸せにするべき誰かがきっと現れるよ。
 たまたまそれが、私じゃなかった、ってだけ。


 私に必要なのは……私以上に、私の悪いところを知ってる人なんだ。


 私は……。

 みんなが思ってるより我儘で。
 みんなが思ってるより優しくなくて。

 自分で思ってるより意地悪で。
 自分で思ってるより弱虫なんだよ。


 そんな私を、理解してる人じゃないと。
 この先の時間を一緒に歩いていくのが、申し訳なくなってしまうもの。


 ……あーあ!

 どこかにいないかなぁ!

 ずっと、ず〜〜っと隣にいて、私の良いところもダメなところも全部知ってて、それでも飽きずに話し相手になってくれる幼馴染とか、いたりしないかなぁ!


(露骨な視線を感じたので、目を逸らしてはぐらかす)


 ふーん。
 ふ〜〜〜ん?

 へぇ〜〜。
 そういうこと言っちゃうんだ。

 知ってたけど。
 あなたがそういう人だって、とっくのとうに知ってたけど。

 立場とか身分とか世間体とか、色々気にするものね、あなたは。

 ……そんなの些細なことだってよーく理解してるくせに。


 まあ、いいや。
 今日のところは、勘弁してあげる。
 いずれ必ず違う答えを聞かせてもらうから覚悟しててね。


 あ……でも。
 そのかわり……なんて言い方は、ズルいかもしれないけど。

 ひとつだけ、お願いを聞いてくれないかな。


 名前を呼んで。
 あの頃みたいに。

 今だけでいいから。
 私にあなたを思い出させて。


(彼女の名を唱える)


 ……もう一回。


(繰り返す)


 ふふっ、ふふふ……!

 ねえ、あと一回!


(三回目を、ゆっくりと)


 ははっ……。
 あはははっ!


 ああ……ホッとした。

 あなたが私を「お嬢様」って呼ぶようになったあの日から、見えているはずのあなたの姿を毎日探し回っていたけれど。


 なぁんだ。

 ここにいるじゃない。

 心配なんか、いらなかったね。


(大きくあくびをして、ベッドに倒れ込む)


 安心したら、眠くなってきちゃった。

 ……ごめんなさい、さっきひとつだけって言ったけど、もう一個、お願い。


 私が眠るまで、そこにいてくれる?

 子守唄はいらないから、もう少しだけ、手の届くところに。


 ……ああ、そうだ。

 できれば、明かりも消してもらおうかな。それから、カーテンを少しだけ開けて……今日はとても綺麗な下弦の月だもの、きっと、あなたによく似合うと思うんだ。


(言われた通り、蝋燭を吹き消す)

(カーテンを半分開けて、月明かりを招き入れる)


 ……ありがとう。


 ふふっ……今日は、良い夢を見られそう。


(やがて寝息を立てるまで、ただ、見守る)

(『おやすみなさい。また明日』)
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
羽をたたんで、月を見上げて
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
うずにわ
ライター情報
シチュエーション台本やASMR台本を主に書いています
シチュボというかボイスドラマというか、リアリティラインは微妙な塩梅ですが、楽しんでいただけると嬉しいです
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