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彼女が天国から会いに来た
written by 惹尾くろん
  • カップル
  • 恋人同士
  • 切ない
公開日2021年06月05日 18:00 更新日2021年06月05日 18:00
文字数
2505文字(約 8分21秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
あらすじ
一年前に亡くなった彼女が、命日に会いに来た。
本編
 つんつん……あ、すり抜けちゃうんだ。それもそっか。
 ね、起きて、おーきーて。ふふ、相変わらず幸せそうな寝顔しちゃって可愛い。けど、時間あんまり無いから、起きて? お願い。
 やっと起きた。おはよ、まだ深夜だけど。久しぶり。

 ふふ、驚いてる。大丈夫、夢じゃないよ、現実。今日さ、私の命日でしょ? 寂しがってるかなと思って、色々頑張ってこっちに来させて貰ったんだ。
 ここにいられるの、朝日が昇るまでなんだけどね。
 もう二時だから、あと三時間くらいかな。言葉にしてみるとすごく短く感じるね。

 私が死んでから、もう一年も経ったんだ。
 あっちとこっちじゃ時間の流れが違うからさ、あんまり離れてた感じしないんだけど。
 よくさぁ、天国から見守ってる~とか、いつもそばにいる~とか言うじゃん? てっきりそうやってキミの側にいられると思ってたのに、天国についたらこっちを見守る窓、列が出来ちゃってて。
 全然見守れないじゃん! って怒りそうになっちゃった。
 こっちに来るのにも色々善行積まなきゃいけないし、こっちと大差なくて、毎日クタクタだよ。
 キミはどう? 私のいない毎日には慣れた?

 ……そっか、そう簡単に慣れないよね。
 私も全然死後の生活に慣れる、なんて出来てないし、一緒だね。
 死んだのに気付いて一番最初に思ったこと、待ち合わせ場所行けなくてごめんって謝らなきゃ! だったもん。
 死んでるから無理だろ、ってツッコミ入れないとね。
 あの日、どのくらい待ってたの?
 日暮れまで!? 待ち合わせ午前中だったのに……ごめんねぇ。

 思い出すなぁ。デート楽しみすぎて、いつもより少し早めに家出たんだ。そしたら居眠り運転のトラックが歩道に突っ込んできて……
 ありがたい事に、記憶はそこでいったん途切れてるんだけど。
 だから、痛いとか辛いとかは全然なかったよ。
 そういう所、ずっと心配してそうだなって思って、一応伝えといた。
 ふふ、図星でしょ。安心した顔してる。
 あーあ、頭撫でてあげられればなぁ。でも、幽霊に触れられたらちょっと怖いかな? なんて。そんな事思わないって怒りそう。

 それにしても、部屋、随分と様変わりしたね。
 ずっとお線香の香りしてるし。夜は消さなきゃだめだよ、危ないからね。自分の身もしっかり案じて?
 だけど、すごく優しい気持ちでお供えしてくれたんだね。温かくて、心地いい。とっても幸せな気持ちになるよ、ありがとうね。
 写真、まだ飾ってくれてたんだ。
 初デートの時のもあるじゃん、いつのまに撮ってたの?
 写り良い自撮りと交換したーい! ……この写真、すごい笑顔で恥ずかしいし。
 それに、量がすごすぎるよ。私じゃないんだから、こんなにべたべた貼り付けなくたって良いって。確かに生前の自室、こんな感じだったけど。推し祭壇とか言ってキミの写真飾ってたもんね。

 実はさ、長い間片思いだったんだよね、付き合うまで。
 自分が好きな人と結ばれるなんて想像すらできなかったから、告白してもらえた時には天にも昇る気持ちだったなぁ。実際昇っちゃったけど、あはは……あ、今の笑わせようとしたんだけど、すべったねこれ。ごめんごめん。

 付き合えてからは絶対離さない、絶対離れさせない、って必死になって、女の影でも見えようものなら速攻刺す! って思ってたけど、付き合ってる間そんな気配すらしたこと無くて。
 結局何の問題もないまま、穏やかな日々を過ごしちゃった。
 一緒に行った街も、食べたものも、見た景色も、全部全部良い思い出しか無くってさ。
 こんな日々がこれからも続いていくんだって、何の疑いもなく信じ切ってたなぁ。
 今でも、たまに夢に見るんだぁ。
 デートの約束して、準備して、出かけようってドア開けて気づくの。あ、もう死んでるんだったって。

 ずっと死にたいって言ってた私が、死んだ後にこんな事言うの可笑しいんだけど。解ってるけど。
 もっとデートもしたかったし、手作りの料理も食べさせたかったし、楽しい事沢山思い出作りたかったなって。
 生きたかったなぁ、って思うんだ。

 ごめんね、こんな事言っても困らせるだけだよね。
 泣かせるつもりじゃなかったんだよ、ごめん。
 それに、今日はそんな話しに来たんじゃないの! 今日はね、デートのお誘いに来たんだ。
 誰よりも優しくて、誰よりも情の深い人だからさ、ずっと引きずってるんだろうなって思ってて。
 実際そうでしょ? この部屋で解るよ。
 
 キミは沢山誰かを幸せにできる……そんな素敵な人だから。ずっと死んだ元カノに縛られてちゃ、だめだよ。
 あは、私がこんな事言う日が来るなんてびっくりだよね。このスーパー束縛女が……我ながら死んでからの成長が目覚ましいよ。
 だから、今日は最後のデートをしようよ。
 今までで一番楽しくて、最高な思い出作って。
 日の出、二人で眺めて、出来なかったサヨナラ、しよう?

 ……やだ、じゃないの。だーめ。
 泣かれたらこっちまで泣きたくなっちゃうじゃん。
 この結論を出すまで、すごく悩んだんだよ?
 すごくすごく、悩んだし辛かった。
 またね、ってバイバイして、縛り続ければずっと想って貰えるのかな、とかも正直考えた。
 でもね、私、キミが好きなんだ。
 大好きで、愛おしくて、離れがたくて。
 きっと今生きてる誰にも、キミへの愛じゃ負けないよ。

 生きてる時はそれを束縛とか、死にたいって喚いて反応見たり、傷つけてみて愛を試したりとか、そういう行動でしか示せなかったけど。
 死んでからやっとね、違う方法もあるんだって気づけたの。
 遅いよね、本当。でもね、ちゃんと愛するって事を、まっすぐに伝えられるようになったの。
 だからね……今日が、笑っても泣いても、二人の最期。
 そして、明日からは新しいキミが生まれて、幸せに向かって歩んでいくの。
 ごめんね、辛いよね。
 ちゃんと愛してるよ、今も変わらず。ううん、前よりずーっと、愛してる。
 だから、ね。
 手をつなぐことは、もう出来ないけど。
 日が昇るまで、あと三時間。最後のデート行こう?

 ……うん、ありがとう。
 着替えとかあるだろうから、お外で待ってるね。
 ……それじゃあ、また後で。デート、楽しみにしてる。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
彼女が天国から会いに来た
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
惹尾くろん
ライター情報
 個人Vtuberをしながら台本やシナリオを執筆しています、くろんです。
 得意ジャンルはヤンデレ、退廃、インモラル。
 流行りものも書きます。
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