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彼女の命日、妹の気持ち
written by 惹尾くろん
  • 監禁
  • ヤンデレ
  • メンヘラ
公開日2021年06月05日 18:00 更新日2021年06月05日 18:00
文字数
3174文字(約 10分35秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
あらすじ
大好きだった彼女が亡くなってから何年目かの命日、すっかり引きこもりがちになっていたあなたがお墓参りに行こうとすると、妹が心配して声をかけてきます。
うるさく思ったあなたは妹に当たってしまいますが……妹は「私の手を取って」と手を差し伸べます。
それを拒んだあなたに待ち受けていたものは、想像もしない妹の本音でした。
本編
 お兄ちゃん、起きて。もうすっかり朝だよ。
 今日は彼女さんの命日だから絶対起こしてって頼んできたの、自分だよ?
 眠いのはわかったから、お布団から出ておいで。

 朝ご飯、出来てるから食べよう。
 昨日はサンマが安かったんだよ。塩焼きにしたから、ちゃんと起きよう。
 はい、手出して。
 引っ張るよ? せーのっ!
 起きられたね、えらいえらい。

 座って座って、ごはんどのくらい食べる? 少なめ?
 食欲ないの? ……そっか。
 最近は少し食欲戻ってきてたけど、やっぱりこういう日は辛くなっちゃうよね。
 無理はしなくていいけど、こんな日だからこそちゃんと栄養付けておこうね。
 いただきます。

 今日はお墓参り行くんだったよね?
 お墓参りに行こうって思えるくらい、回復してきたってことだよね。それは嬉しいな。

 一人で大丈夫? 車出そうか?
 ……大丈夫なら、良いけど。
 外に出なくなって、もうだいぶ経つから、体力持つかなって心配になっちゃって。

 親じゃないんだから、って言われても、心配なものは心配だよ。
 それに、心配してくれる親はもういないんだし。
 少しくらい私がその役目を担っても、バチは当たらないでしょ?

 ……ごちそうさま。我ながらおいしかったぁ。
 残り、もう食べない? じゃあラップかけておくね。

 バス、あと十分くらいだから少し急いだほうがいいかも。
 次の逃すと、ちょっと間が開いちゃうから。
 お財布持った? お金必要になるかもしれないから、少し渡すね。待ってて……
(SE:物を殴る)

 な、なに……? 突然、壁殴ったりして。
 うるさい、って言われても。
 お兄ちゃんお仕事辞めちゃったし、お金持ってないじゃん……
 だから、必要かなって、思って……
(SE:物を殴る)

 ひっ! それやめてよ。
 何か不満があるなら口で言って。壁に当たっても意味無いから。

 ……言いたくない、か。
 でも、だいたいは解るよ。
 彼女さんが亡くなってから、お兄ちゃんは毎日泣いてばかりで。
 あれだけ仲睦まじかった二人だもん、そうなるのも当然だと思って、出来るだけサポートしてきたつもりだけど。
 お仕事も辞めちゃって、部屋からも出なくなって……
 当然、私に頼るしかなくなって。
 妹に世話されるのもプライドが傷ついて、でも前の自分には戻れなくて。
 彼女さんが生きてた頃の記憶に縋って、それでやっと生きているような自分にも嫌気が差してる。

 そこで私に保護者面されて、やめてほしかったけど、それを言語化する余裕も無かった、ってところでしょ?
 解ってるよ。ごめんね。
 解ってて、こんな言動してるの。

 ……ねえ、私ね、お兄ちゃんに帰ってきてほしいんだ。
 これまでずっと、何年も居場所を、帰る場所を、一人で守ってきた。
 でも、お兄ちゃんは彼女さんとの世界に逃げたままで。
 唯一の肉親だっていうのも勿論理由の一つだけど。
 前みたいに、一緒に笑ったり、楽しいねってお話したり、したくて。
 彼女さんが現れる前だって、二人で手を取り合って生きてきたんだよ?
 それなら、また私の手を取ってくれれば、少しずつでも前に進んでいく事が出来るんじゃないかな、って。
 思うんだけど……どう、かな。

 彼女さんが胸からも、記憶からも消えないのは解ってる。
 でもさ、この先の人生、ずっと彼女さんだけに囚われる必要なんて無いんだよ。
 私なら、ずっと側にいられる。
 お兄ちゃんが望むなら、何だってあげる。
 だから……ね、手を取って?

 ……だめ、なんだね。
 お兄ちゃんは、これから先ずっと、彼女さんの亡霊に囚われて生きていくの?
 それで、いつか耐えられなくなったら、彼女さんの所に行っちゃうの?
 ……それなら、お兄ちゃんがもう明るい世界で生きようと思ってくれないなら……

(声のトーンを変えて、冷たく)
 全部、私が奪っちゃってもいいよね?

(SE:衣擦れ)
(SE:時計)
 えーっと、こっちの輪に縄を通して結んで、っと。
 よーし、完成、これで力を掛けても外れないはず。
 あとは通販で買った檻が届くまで耐えてくれれば問題無し。
 ……あ、起きてたの? 気づかなかった。
 頭クラクラするでしょ。
 お薬使ったから、しばらくそのままだと思う。
 だから、あんまり暴れないでね。
 あ、叫んだりもしないでね、口輪したから大した音にはならないだろうけど、ご近所さんに聞かれたら困るもん。

 あぁ、でもお兄ちゃん、一時期の夜中よく泣きわめいてたし、少しくらいならごまかせるかな?
 ばれたらばれたで、逃げるだけだけどね。

 正直ね、さっき手を取って、って言ったとき。
 お兄ちゃんはそれに応じてくれるんだって信じてたの。
 だって、彼女さんが彼女さんになる前から、ずっと私たちは一緒にいて。
 辛い事も悲しい事も沢山あったけど、一緒に乗り越えてきて。
 彼女さんと過ごした時間より、私と過ごした時間の方がずっと多いし、思い出だってずっといっぱいあって。
 でも、それでも、やっぱり勝てないんだね。
 お兄ちゃんにとってあの人は、それだけ大切で、かけがえのない人だったんだね。

 あーあ、やだやだ、本当、嫌になる。
 お兄ちゃんの事一番好きなの、絶対私なのになぁ。
 彼女さんにも、お母さんにも、お父さんにも負けない自信あるのに。
 兄弟って本当、不利だよね。
 血がつながってるだけで、愛してるって言葉一つ伝えるのにも世間の反応気にしなきゃいけないし。
 ずっとずっと大切に想い続けても、ぽっと出の女に取られちゃうし。
 しかも、フェードアウトした女の、もう二度と会えない女の概念にすら負けちゃうんだよ?
 やってられないよ、本当。

 お兄ちゃんは知らないだろうけどね、私は物心ついた時から、お兄ちゃんの事が大好きで。
 それが異性としての好きだって気づいたのは、ちょうど彼女さんが現れる三か月前だった。
 でも、きっとそれを伝えればお兄ちゃんを苦しませることになるって、無理やり想いを抑え込んだんだよ。
 ……そしたらさぁ、突然彼女が出来た、なんて笑顔で報告してくるんだもん。
 絶望って、あの瞬間の事を言うの。

 でもね、それでも幸せならそれで良かったんだよね。
 私はお兄ちゃんに恋してるんじゃなくて、愛してるんだから。
 幸せだよって笑っていてくれるなら、それで私も幸せだった。

 でもさ、あの人散々いい思い出だけ残して、喧嘩の一つもせずに亡くなっちゃうんだもん。
 そんな残酷な事ってある?
 目に見えて弱っていくのを、苦しみに溺れて行くのを、ずっと一番側で見てきて。
 いつしか私は、彼女さんの事を憎むようになってた。

 お兄ちゃんから笑顔を、光を、幸せを奪ったあの人を。
 私は絶対に許さない。
 そして、暗闇であの人の亡霊と心中する事を選ぼうとしたお兄ちゃんも、きっとずっと許せないと思う。

 でもね、愛してるの。
 絶対に自分を見ないあなたの事を。
 心から、愛してる。

 正直ね、ただ生きていてくれれば、それだけでいいんだけど。
 でも、あのままじゃいずれ死んじゃうって、解るし。
 最後の最後で、自分のエゴを通そうとしてる。
 でも、いつか必ず人は死ぬんだし、それまでの時間が延びるのなんて、誤差でしょう?
 なら、私にその時間、ちょうだい。
 ……ううん、違う。お兄ちゃんの人生、もらうね。

 これからはこの部屋で、二人きりで生きていくの。
 仕事は何とかしないといけないけど、ありがたいことに家も貯蓄もあるし。
 辛い事なんて全部忘れて、死ぬまで一緒にいよう。
 幸せな事も、光も希望も無いけれど、私がいるよ。
 
 私にとってのあなたは、あなたにとっての彼女さんのように、かけがえのない大切な人で。
 だから、生きてほしくて。
 この気持ち、痛いほどわかるはずだよ。
 ……許してとは言わない。
 憎んで、嫌って、恨んでくれていい。
 だから、生きて。
 生きて生きて、死ぬまで生きて。
 側にいてね。側にいるよ。

 愛してる。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
彼女の命日、妹の気持ち
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
惹尾くろん
ライター情報
 個人Vtuberをしながら台本やシナリオを執筆しています、くろんです。
 得意ジャンルはヤンデレ、退廃、インモラル。
 流行りものも書きます。
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