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振った女がヤンデレ生霊ストーカーになった
written by 惹尾くろん
  • ホラー
  • ヤンデレ
  • ストーカー
  • メンヘラ
  • 片思い
公開日2021年07月06日 03:25 更新日2021年07月06日 03:25
文字数
2377文字(約 7分56秒)
推奨音声形式
ステレオ
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
生霊
視聴者役柄
男性
場所
男性の家
あらすじ
半年前に振った女が突然部屋に現れた。生霊だと名乗る女は、伝えたいことがあると話し出して……
本編
 うふふ、こんにちは。
 あ、叫ばないでください。今の私はキミにしか見えません。
 大丈夫ですよ、幽霊じゃありません、まだ本体は生きています。
 いわゆる生霊ってやつですね。
 大丈夫です、何も怖い事はしませんよ。ただお話……少し言いたいことを伝えに来ただけですから。

 大丈夫ですか? 怯えてます?
 ちゃんと息をして……すーはーすーはー、そうです。上手。
 そこに腰を下ろして、そう。そのままで。

 少しだけ静かに聞いていてくださいね?
 想えばもうあの忌まわしい事件から半年も経ったんですねえ。
 一世一代の決心でキミに告白して、跡形もなく玉砕したあの日から。
「気持ちは嬉しいんだけど、好きな人がいるんだ」
 なんて、少し照れたように頬を染めて。
 にぶい私でも解りました、それが本当の恋心だって。

 それが解ってすぐは、ちゃんと身を引こう、諦めようって思ったんですよ?
 好きな人の幸せが自分にとっての幸せなんだって。
 どうかその相手と結ばれますように、って、本当にそう思ってました。

 でも、それからもキミを想わない日なんて一日も無くて。
 気分転換に街に出ても、カフェでコーヒーを飲みながら、ここに二人で来たかったな、とか、
 洋服を見ていても、これを着てデートに出かけたら、どんな表情を見せてくれたのかな、とか。
 そんな事ばかり考えてしまって。
 何をしても景色は色あせたままで、希望のない未来に向かって進んでいくのはこんなにつまらないんだって知りました。

 毎日泣きました。辛くて、苦しくて、こんなに焦がれる心は変わってないのに、もう大好きな人は私に振り向かないって現実だけが変わっていて。
 いっそのこと、この世界から消えてしまいたいって思いました。
 けど、そうしたら本当に二人の繋がりが断たれてしまう気がして。
 どうしても最後の一歩が踏み出せませんでした。

 せめて、結ばれなくてもいい、ただ側にいたい。
 幸せな時も、苦しい時も、隣で見守っていたい。
 自分の望みは、ただそれだけなんだって気づきました。

 もうこうなったら神頼みしかない! 恋人や夫婦の形じゃなくてもいいから、願わくば、親しい友人になりたい。
 そう思って、ネットでよく効きそうなところを探していたら、
 とあるサイトに生霊のお祓いは難しい、って載っていたんです。
 だから、人に恨まれることはせずに生きていきましょうね……って内容でしたけど、それを見てひらめきました。
 生霊になれば、側にいられるんじゃないか、って。

 もうそうなったら、居てもたってもいられなくて、すぐに方法を探しました。
 ありとあらゆるサイトに目を通して、書籍を買って、怪しげなオカルトグッズにも手を出しました。
 気持ちが強ければ絶対にできる、って、実行した人の体験談に書いてある一文を何度も読み返して、
 毎日毎日、一時も休まずに練習に励みました。

 段々自分から離れられる時間が増えてきて、寝てる時も起きてる時も多重生活が送れるようになって、感覚が少しずつ芽生えだして。
 一歩前に進む度、半歩下がるような地道な努力を積み重ねて。

 ついに今日、完璧な感覚を手に入れました。
 帰り道をつけて家は知っていたから、すぐにここまでたどり着いたんですけど……
 壁を通り抜ける、その一枚を超える勇気がどうしても出なくって。
 何時間も壁を隔てた向こう側で立ち尽くしてました。

 そんな時でした、二人組の女の子が通りかかったんです。
 楽し気に会話をする二人の声に耳を傾けていると、
 黒髪ロングが良く似合うかわいらしい子の方がおもむろに顔を歪めて、家を指さしました。

「ここの家の息子、昨日告白してきたんだよね。同じクラスだったことも知らなかったくらい存在感薄い奴が、あたしの事イケると思って寄ってきたんだよ? マジで最悪。振るのもめんどくせぇし消えないかな」

 長いまつ毛にピンクの頬、ぷるんとした形のいい唇から、そんなおぞましい言葉を吐き捨てて。
 彼女は最後にひとつ舌打ちをして、去っていきました。

 はじめて、人に憎悪を抱きました。でも、同時にすごく……胸が熱くなりました。
 嬉しい? 楽しい? ドキドキ?
 違う。それは、悦びでした。
 キミが恋してた女は、キミのすばらしさに気づく事も出来ない低俗な存在。
 醜い言葉を平然と吐くような、汚らしい生き物。
 きっと、まだ恋心を持って返事を待っているキミを、幸せにする事なんて出来ない。

 それなら、諦める必要なんてないですよね?
 好きな人の幸せが私の幸せ。その幸せを作るのは、自分でもいいんだ。
 そう気づかせてくれた事だけは、あの女に感謝ですね。

 一歩前に進んで、壁を通り抜けて。
 パソコンに向かう後ろ姿をしばらく眺めて、側に近づく度に、
 お風呂上りの石鹸の香りに少しまじった体温のにおいが鼻に伝わって……
 気づいたら、話しかけてました。

 それで……何が言いたいかって、実はここまでのは前振りでしかないんですよね。
 つい長くなっちゃったんですけど、伝えたかったのは一つだけ。
 私、諦めるの、やめました。

 誰より素敵なキミを幸せに出来るのは、誰より深い愛を持った私だから。
 これから過ごす時間、文字通り一時も離れず、側にいる事にしました。
 でも、きっとそれを受け入れるのは、簡単な事じゃないだろうから。
 現実で一緒になれるまで、生霊として付いて回りますね。

 まだ、ただ恐ろしいだけの存在かもしれない。
 それでも、いつか一番の笑顔を貰えるように、好いてもらえるように。
 これからも毎日、努力を積み重ねます。

 というわけで、本体からじゃなくて申し訳無いんですが、伝えたかった事はそれだけです。
 今日から結婚を前提にストーカーさせてもらいますけど、私の事は空気……まあ、生霊ですけど、そんな感じのものと思ってもらって問題無いので。
 どうか末永くよろしくお願いしますね。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
振った女がヤンデレ生霊ストーカーになった
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
惹尾くろん
ライター情報
 個人Vtuberをしながら台本やシナリオを執筆しています、くろんです。
 得意ジャンルはヤンデレ、退廃、インモラル。
 流行りものも書きます。
 お役に立ちましたら幸いです。
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