すっかり社畜に育ったあなたの元に、生まれた頃から通い続ける女神様からのｘｘ回目の求婚。

　神託の時間じゃぞ～。せっせと家事やっとる場合じゃないぞ～。
　おい、無視するな、背中向けるな、音楽かけるな！
　なぁ～何で毎度毎度おぬしはそうやって冷たい態度を取るんじゃ？
　平和を守るありがたーい大女神様たるわらわが、こうしてわざわざ足を運んでおると言うに。
　もう夜中の二時だぞ？　しかも今日は日曜日なんじゃぞ？
　何でスーツのままで来週一週間のおかず作り貯めとるんじゃ～！
　あ、それ美味しそう、後でお供えしてくれ。

　じゃない！　平日だけならまだしも休日まで出勤、その上残業なんておかしいじゃろ！
　ブラックじゃブラック！　この間神様研修会で習ったぞ！
　ブラック労働しすぎると人間は死んでしまうんじゃぞ！
　やめろやめろ～やめてしまえ～。
　そしてとっととわらわの伴侶になるのじゃ。

　な～あ、無視はダメじゃろ無視は。失礼じゃぞ。
　はいはいって、絶対聞いてない！
　ちょっと何全部冷凍しようとしてるんじゃ、お供えはどうした？
　……うむ、そうじゃ。ありがとう。
　この鯖の味噌煮うまいな、もうちょっとくれ……もぐもぐ。
　はっ！　流されるとこじゃった。

　なあ……もうおぬしの所に通い始めて三十年も経ったんじゃぞ。
　生まれたときからずっとずーっと伴侶になるように言っておるのに、
　しかも五歳の頃には大きくなったら結婚する！
　ってシロツメクサの指輪までくれたと言うに、
　何で適齢期迎えて何年も身を固めに来ないんじゃ！

　おかしい！　ひどい！　うそつき！
　わらわもう待ちくたびれたのじゃ～！
　いくら寿命が無いとはいえ、白無垢着るにはそろそろ厳しい三千歳が間近に迫っておるんじゃぞ。
　もう二十五年も前に買って、一度も袖を通さず箪笥にしまってあるんじゃぞ。
　あんまりにもかわいそうじゃろ！
　こんなに愛くるしいおなごを前にして、何でそんな無表情でいられるのか？

　もしかして仕事で疲れすぎて感情鈍ってるんじゃないのか？
　やっぱり仕事やめようよ～やめたほうが良い！　今すぐ！
　神様と結婚すれば悠々自適に暮らせるぞ～。
　わらわ結構人気もあるし、お賽銭もたっぷりじゃぞ～。
　おぬしの大好きだったゲームも毎月買ってやるぞ。
　ゲーム機だって海外製も国内製も取り揃えておるし、
　時間もたっぷりあるからやりこみプレイし放題！
　なんて素敵！　今すぐ結婚！
　方法は簡単、ここにサインして判を押すだけ！

　はい、手を出してこう……ああっ！
　なんで破り捨てたこの愚か者！
　書き損じせずに記入できるまで、三枚も捨てたんじゃぞ！
　うう……いいもん、また書くもん。

　……毎回そうやって話をはぐらかすのは何でなんじゃ？
　結婚願望が無いのか？　それとも相手がわらわだからか？
　人間のおなごが良いならそう言えばいい。
　わらわとて鬼ではない、神だから嫌だと言われれば身を引くことも考えよう。
　明確な答えを出さずに逃げ回るのは、ずるいと思う。

　神の伴侶になるのは、嫌か？
　ちがう……なら、わらわが嫌なのか？
　違うのか。良かった。なら、なんでなんじゃ。
　そろそろ教えてくれても良いんじゃないか。
　……ダメ人間になりそうで嫌？
　はぁ～？　何言っとるんじゃ！　人間なんて生きてるだけで百点満点なんじゃぞ！
　そもそも今の状態は頑張ってるとは言わん！
　無理をしてると言うんじゃ！
　その二つをはき違えるとは、まだまだ青いのう。

　大体そうならそうと初めから言えばいいじゃないか。
　神の国にも仕事はあるし、人間界で働きたいならまた働けばいい。
　わらわは今の仕事をやめろと言っておるんじゃ。
　休みなく働かせて給料も並み、社員が皆死んだ目をしている企業に明るい未来など無いぞ。

　……生活が安定したら結婚する、とか考えてないじゃろうな。
　あっ、その顔図星じゃろ！　今口元がぴくっとした！
　結婚する気、あったのか……そうか。ならおぬしの勘違いを正してやらんといけんな。
　別にわらわはお前に一方的に支えられるような関係、望んでおらん。
　生活なぞ一緒に安定させて行けばいい。
　つらい時、苦しい時こそ支え合いじゃろうが。
　どちらかがつらい時にそれを分け合えなくて、何が夫婦じゃ。
　ちゃんとしよう、支えようと思いすぎて、古い時代に生まれたわらわより考え方が古くなっておるぞ？

　伴侶となるメリットをアピールしようと、遊べる事を強調しすぎたのが裏目に出たとはな……北風と太陽の逆じゃないか。童話は当てにならんのう。
　という事で、こちらにもう一枚婚姻届けがあるんじゃな～！
　一枚だけじゃ不安じゃったから、三十枚書いてきたのじゃ。
　はい、ペンと判子。
　サーイーン！　サーイーン！
　お、おお……本当に書いておる。夢じゃないか？
　ほっぺたつねってみよう。いたっ！
　夢じゃない！　あと判を押したら完成じゃ。
　判子あるか？　なんじゃ持っておったのか。一応作ってきたんじゃがいらなかったな。
　……押してしまっていいのか？
　いや、少し不安になってな。後悔させないじゃろうかと。
　……そうか。それなら、押してくれ。

　ありがとう、これで完成じゃな。
　これを神の国にこうして……こう！
　お、さっそく受理されたみたいじゃ。
　早い？　神の手続きが遅いと人間に迷惑がかかるからな。
　なんでも迅速がモットーよ。

　夢にまで見た夫婦になったんじゃなあ……
　……嬉しいのう。これで正真正銘、わらわの伴侶じゃな。

　うかうかしてはいられん、結婚式の準備をせねばな。
　紋付き袴もしつらえて貰わねばいかんし、会場も押さえんと。
　招待客のリストを作って……
　一番大事なおぬしのご両親への挨拶にも行かねばな！

　さあ、これから忙しくなるぞ。
　これからいろいろあるじゃろうが、二人三脚で乗り越えていこうな。
　愛しい旦那様。

・台本（ゆるボイ！）
社畜のキミを娶りたい女神様
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
惹尾くろん