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公開日2021年08月13日 12:00
更新日2021年08月13日 11:34
文字数
4293文字(約 14分19秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
王国の姫
視聴者役柄
魔王を討伐した勇者
場所
王城
あらすじ
魔王討伐の旅を終えて帰ってきた勇者は姫に出迎えられる。
忘れられることの出来ない忘れたいその旅全ての記憶ゆえの心の痛み、差し伸べる彼女の手、そして真実。
旅の記憶をメインとしたヤンデレ以外の部分で重い作品になっています。
忘れられることの出来ない忘れたいその旅全ての記憶ゆえの心の痛み、差し伸べる彼女の手、そして真実。
旅の記憶をメインとしたヤンデレ以外の部分で重い作品になっています。
本編
(勇者、魔王討伐より帰還)
勇者様、おかえりなさい。
もう話は広まっていますよ。
無事、魔王討伐は済んだようじゃないですか。
私わたくしたちの大切な国のため、必死に戦ってくださり本当にありがとうございます。
早いうちにお祝いをしようかと父と話しているのですが……あの、貴方様?
どうかされましたか?
……あ、すみません、私、気遣い出来なくて。
そうですよね、私だって、貴方様と共にこの城を後にした仲間のことは覚えています。
そうですか、本当ならば皆さんもここにいらっしゃるはずですからね……。
勇者である貴方様と共に戦った、戦士様、魔法使い様、神官様、獣使い様。
この旅を終えて生き残った者はただ貴方様一人。
貴方様も辛かったことでしょう。
……まずは、神官様でしたよね。
はい、実は貴方様の御一行の後を何人かの使いに代わる代わる尾けさせていたので、経過報告として貴方様方の魔王討伐の旅についての出来事は私も存じております。
初めのうちはかすり傷、あるいは無傷で済むような敵ばかりで順調だったと聞いております。
しかしそれは、その最中の出来事だったと。
その時、初めて強敵と言える存在が現れた。
それも、今まで戦ってきた相手とは比べ物にもならないほどの。
ゆえに貴方様方は苦戦を強いられ、時に神官様は敵の術中に嵌まった獣使い様を助けるための身代わりになり、そのまま……
戦いにこそ勝てたものの、初めての大きな傷にしては一人の命というあまりに大きなものを失ってしまった。
貴方様方はその勝利に喜ぶことは出来なかったと聞きました。
特に神官様が身代わりになったという獣使い様はひどく罪悪感を抱いてしまったそうで。
旅は、残りの三人で獣使い様を励ましながら続けられた。
この魔王討伐には犠牲は付き物、どこかで分かっていた現実を目の当たりにして誰もが心の奥で痛みを抱えていたことでしょう。
そして、再びそれは起こってしまった。
神官様の出来事以降、度々の怪我はありながらも順調に魔王城へと近付いていたその時の戦いだったと聞いています。
獣使い様が飼い馴らしていたはずの獣が敵の魔法によって暴走し、お仲間の一人、戦士様を襲ってしまった。
しかもその傷は深く、戦士様はその場で倒れてしまった。
戦いの後で貴方様方は急いで戦士様を運び、宿場で治療した。
意識不明にまで陥った戦士様は幸いすぐに目を覚ましたものの、獣使い様はまたもや自分のせいで仲間を傷付けたと深く落ち込んだそうですね。
とはいえ貴方様や魔法使い様はもちろん、戦士様も獣使い様を責めることはなかった。
ですが、その宿場で迎えた朝、一向に現れない獣使い様を不審に思った貴方様方は、獣使い様が寝ているはずの部屋を訪ねた。
そこで見たものは、馴らした獣に食い荒らされた形を留めない獣使い様の姿だった。
それを見た貴方様方はそれが己の不甲斐なさを恥じてのことと確信したそうで。
獣使い様の抱えている罪悪感を晴らしきれず、最悪の結末を迎えることになってしまった。
それがどれほど皆様に堪えたのかは私には想像しかねます。
再び起こってしまった出来事に、精神をゆっくりと蝕まれていった貴方様の御一行。
討伐への影響も大きく、魔王城まで迫ろうとしていたからという理由以上にその戦意の緩やかな崩壊が皆様の傷をより深く、増やしてしまったと。
それでも三人は迫る敵を薙ぎ払い心身傷だらけで魔王城に辿り着く。
そして誰一人として態勢の整わない中、身体を休め翌日の魔王城突入を決心した。
しかし迎えた朝、魔法使い様が精神を病んでかその姿を消してしまった。
実は二人ともが魔法使い様に好意を抱いていたために、貴方様と戦士様はひどく苦しみを覚えたことでしょう。
それでも残された貴方様と戦士様は魔王城への突入を断行。
彼女を探そうにも手掛かりもなく、それはほとんど諦めの選択のようだったと聞いています。
けれども度重なる戦いの中で最後の敵が近付いていくことを感じ、貴方様方の心は徐々に気力を取り戻しつつあったようだと。
……しかし、無情はその目の前にあった。
貴方様方は、姿を消したはずの魔法使い様と最悪の邂逅かいこうを果たしてしまった。
その身体を魔王の手下に乗っ取られ、魔法使い様は貴方様方の敵として立ちはだかった。
昨夜まで仲間であり、貴方様も戦士様も恋心さえも抱いていたという魔法使い様に、思うように手が出せなかった。
一方の魔法使い様はかつての仲間である貴方様方に容赦なく攻撃をしていく。
そして、魔法は戦士様を動けなくし、魔法使い様は戦士様に止めを刺そうとした。
かつての仲間だった日々が踏み躙にじられていく。
戦士様が辛うじて絞り出した、助けてくれという声。
それが貴方様を辛い決心に踏み出させた。
その目を逸らしながらも、狙いを外さないように魔法使い様を捉え、剣は振りかざされるままに彼女の身体を斬り付けた。
そして、その事実を貴方様の心が気付く前に、魔法使い様の胸を剣で貫き、止めを刺した。
そしてその瞬間、魔法使い様は正気を取り戻して微か、「勇者さん、愛していたよ」と口にした。
力なく崩れ落ちていく彼女の身体にただ、言葉なく貴方様は触れていた。
辺りに広がっていく血が、貴方様の手で愛する者の命を奪ったのだという事実を焼き付けさせていた。
辛うじて助かった戦士様と共に、貴方様は最後の戦いを前にして失意の中にいた。
しかも、戦士様は混乱する頭で、貴方様を悪者にしてしまう。
「どうして魔法使いの命を奪ったのか」
そう叫んで貴方様に刃を向けた。
怒気に身を目覚めさせた戦士様は心身ともに壊れてしまいそうな貴方様に襲い掛かる。
防戦一方の貴方様は、このまま戦士様にこの胸を貫いてくれればどんなにいいことかとさえ思ってしまった。
貴方様は戦士様の剣を避けることをやめた。
しかし、そのひと振りは貴方様の腕を掠めただけだった。
彼は、気持ちの昂りのままに乱暴に振り回していただけだったから。
ただ、そのおかげで戦士様は我に返り、貴方様に謝った。
「失ったものは戻らなくても、戦うしかない。
それは、戦士、お前とじゃなければできない」
貴方様はそう言って戦士様を許したそうですね。
そして目の前には魔王の待つ部屋への扉。
傷だらけの心は、今だけは取り替えたように燃えていた。
ただ、貴方様は一つ願っていた。
これ以上、傷付くことのないようにと。
貴方様と戦士様は幼馴染で共にその腕を高め合った仲だった。
だからこその強い願いだった。
それは戦士様も思っていたことでしょう。
生きるか死ぬか、運命は共に。
そう口を揃えて頷き、二人身を奮わせて扉を開け最後の戦いへと挑んだ。
部屋に入り魔王の姿を捉えた途端、戦士様は貴方様を突き飛ばした。
全ては、戦士様の作戦のため。
貴方様が転ばされているうちに戦士様は魔王の元へと斬り込んでいく。
しかし、戦士様は剣が効かないことに気付き、頼れるものが魔法だけと知る。
それを見た貴方様はそうと分かっても戦いに向かおうとした。
それを見た戦士様は「来るな!」と叫び、貴方様を頑なに近寄らせようとしなかった。
その時貴方様は知らなかった。
魔法使い様の持っていた『爆弾の杖』を戦士様が隠し持っていたということを。
そう、それは対象に向けて魔法を放つことで広範囲の爆発をもたらす魔法の武器。
貴方様もその存在は魔法使い様が戦いの中で使用していたことから知っていた。
戦士様が最後に頼ったものはその杖。
そんな近接距離では魔王だけでなく、戦士様までもが巻き込まれてしまう。
貴方様が気付いて止めようとしたときには既に遅かった。
閃光と共に轟音が耳を塞ぎ、爆風が貴方様を壁に叩き付ける。
やがて映った目の前は何もない空間。
それは、勝利であり、敗北。
この戦いは貴方様の生き残りで幕を閉じようとしている。
しかし、縋る物を求めていた貴方様にはそれが裏切りに映ってしまった。
出来ることならば、二人ともの生存かあるいは全滅の二択。
数多もの苦難を越えて最後、その終わりを目の前に誓い合った約束が崩れ落ちていく魔王城と共に散っていった。
ただ貴方様はそのすべてが終わった空間で、何もかもを失くし、仲間たちの後を追う気力すらなく魔王城の残骸の上に横たわっていたそうですよ。
その貴方様を使いが王城へと連れて帰り、しばらくの茫然自失から回復の傾向が見られて今、私の元へ謁見えっけんしているのですから。
……思い出させてしまうようなお話、本当にすみません。
出来ることならば、なかったことにしたい。私ならばそう思ってしまいます。
ええ、もちろん私たちは国民と共に貴方様だけでなくすべてのお仲間を平和をもたらした者として讃えるつもりです。
最早、救いと言えるものはそれだけしかありませんが……。
出来れば、貴方様には顔を上げて欲しいです。
貴方様の性格から、この戦いを誇れとは言いませんが、前を向いてほしいのです。
いえ、もう貴方様は十分に……いえ、十分すぎるほど戦いました。
その旅路に疲れた貴方様よ、その旅路に散った貴方様のお仲間よ、すべてに救いが差し伸べられるべきなのです。
ええ、皆様はきっと天で貴方様を見ながら微笑んでくれているはずです。
ですが、貴方様はまだ急がないでください。
ゆっくりとその時を待つ。それだけの人生でも誰もが許してくれます。
誰もが英雄として貴方様を感謝し続けます。
図々しいお願いですが、その疲れた体を私に委ねて欲しいのです。
貴方様はずっと、私の体の上でぼんやりと物思いに耽っていても構いませんから。
……世間には、結婚ということにはなると思いますが。
いいんです。もう、貴方様が傷付く必要はありません。
王宮のベッドで、ただ幸せを感じてればいいんです。
時に私を求めてくれてもいいんです。
それくらいじゃないと、あなたの人生の幸不幸は釣り合わないくらいなんですから。
ええ、私の好きな貴方様。是非、私のものにさせてください。
幸せだけを貴方様に与えるのです。
……いいんですか? ありがとうございます。
それでは今夜から、貴方様の眠る場所は私の部屋になりますので。
貴方様の心を取り戻さなければいけない、今が一番大変な時みたいですね。
もちろんです。もう貴方様を辛い目になんか遭わせません。私が約束します。
……それでは、付いてきていただけますか?
(独り言)
ああ、ここまで貴方様を壊してしまったと思うと流石に胸が痛みますが、これで貴方様の視界には私しか映らなくなるのですね……!
汚らわしい俗世には貴方様は似合いません。
ましてや魔法使いなどもってのほか。
貴方様の手を取ることを許されるのはこの私しかいないのです。
誰もが崇める素晴らしき勇者様を聖母のように優しく抱き続けるのです。
あはははは……!
愛していますわ、貴方様……
勇者様、おかえりなさい。
もう話は広まっていますよ。
無事、魔王討伐は済んだようじゃないですか。
私わたくしたちの大切な国のため、必死に戦ってくださり本当にありがとうございます。
早いうちにお祝いをしようかと父と話しているのですが……あの、貴方様?
どうかされましたか?
……あ、すみません、私、気遣い出来なくて。
そうですよね、私だって、貴方様と共にこの城を後にした仲間のことは覚えています。
そうですか、本当ならば皆さんもここにいらっしゃるはずですからね……。
勇者である貴方様と共に戦った、戦士様、魔法使い様、神官様、獣使い様。
この旅を終えて生き残った者はただ貴方様一人。
貴方様も辛かったことでしょう。
……まずは、神官様でしたよね。
はい、実は貴方様の御一行の後を何人かの使いに代わる代わる尾けさせていたので、経過報告として貴方様方の魔王討伐の旅についての出来事は私も存じております。
初めのうちはかすり傷、あるいは無傷で済むような敵ばかりで順調だったと聞いております。
しかしそれは、その最中の出来事だったと。
その時、初めて強敵と言える存在が現れた。
それも、今まで戦ってきた相手とは比べ物にもならないほどの。
ゆえに貴方様方は苦戦を強いられ、時に神官様は敵の術中に嵌まった獣使い様を助けるための身代わりになり、そのまま……
戦いにこそ勝てたものの、初めての大きな傷にしては一人の命というあまりに大きなものを失ってしまった。
貴方様方はその勝利に喜ぶことは出来なかったと聞きました。
特に神官様が身代わりになったという獣使い様はひどく罪悪感を抱いてしまったそうで。
旅は、残りの三人で獣使い様を励ましながら続けられた。
この魔王討伐には犠牲は付き物、どこかで分かっていた現実を目の当たりにして誰もが心の奥で痛みを抱えていたことでしょう。
そして、再びそれは起こってしまった。
神官様の出来事以降、度々の怪我はありながらも順調に魔王城へと近付いていたその時の戦いだったと聞いています。
獣使い様が飼い馴らしていたはずの獣が敵の魔法によって暴走し、お仲間の一人、戦士様を襲ってしまった。
しかもその傷は深く、戦士様はその場で倒れてしまった。
戦いの後で貴方様方は急いで戦士様を運び、宿場で治療した。
意識不明にまで陥った戦士様は幸いすぐに目を覚ましたものの、獣使い様はまたもや自分のせいで仲間を傷付けたと深く落ち込んだそうですね。
とはいえ貴方様や魔法使い様はもちろん、戦士様も獣使い様を責めることはなかった。
ですが、その宿場で迎えた朝、一向に現れない獣使い様を不審に思った貴方様方は、獣使い様が寝ているはずの部屋を訪ねた。
そこで見たものは、馴らした獣に食い荒らされた形を留めない獣使い様の姿だった。
それを見た貴方様方はそれが己の不甲斐なさを恥じてのことと確信したそうで。
獣使い様の抱えている罪悪感を晴らしきれず、最悪の結末を迎えることになってしまった。
それがどれほど皆様に堪えたのかは私には想像しかねます。
再び起こってしまった出来事に、精神をゆっくりと蝕まれていった貴方様の御一行。
討伐への影響も大きく、魔王城まで迫ろうとしていたからという理由以上にその戦意の緩やかな崩壊が皆様の傷をより深く、増やしてしまったと。
それでも三人は迫る敵を薙ぎ払い心身傷だらけで魔王城に辿り着く。
そして誰一人として態勢の整わない中、身体を休め翌日の魔王城突入を決心した。
しかし迎えた朝、魔法使い様が精神を病んでかその姿を消してしまった。
実は二人ともが魔法使い様に好意を抱いていたために、貴方様と戦士様はひどく苦しみを覚えたことでしょう。
それでも残された貴方様と戦士様は魔王城への突入を断行。
彼女を探そうにも手掛かりもなく、それはほとんど諦めの選択のようだったと聞いています。
けれども度重なる戦いの中で最後の敵が近付いていくことを感じ、貴方様方の心は徐々に気力を取り戻しつつあったようだと。
……しかし、無情はその目の前にあった。
貴方様方は、姿を消したはずの魔法使い様と最悪の邂逅かいこうを果たしてしまった。
その身体を魔王の手下に乗っ取られ、魔法使い様は貴方様方の敵として立ちはだかった。
昨夜まで仲間であり、貴方様も戦士様も恋心さえも抱いていたという魔法使い様に、思うように手が出せなかった。
一方の魔法使い様はかつての仲間である貴方様方に容赦なく攻撃をしていく。
そして、魔法は戦士様を動けなくし、魔法使い様は戦士様に止めを刺そうとした。
かつての仲間だった日々が踏み躙にじられていく。
戦士様が辛うじて絞り出した、助けてくれという声。
それが貴方様を辛い決心に踏み出させた。
その目を逸らしながらも、狙いを外さないように魔法使い様を捉え、剣は振りかざされるままに彼女の身体を斬り付けた。
そして、その事実を貴方様の心が気付く前に、魔法使い様の胸を剣で貫き、止めを刺した。
そしてその瞬間、魔法使い様は正気を取り戻して微か、「勇者さん、愛していたよ」と口にした。
力なく崩れ落ちていく彼女の身体にただ、言葉なく貴方様は触れていた。
辺りに広がっていく血が、貴方様の手で愛する者の命を奪ったのだという事実を焼き付けさせていた。
辛うじて助かった戦士様と共に、貴方様は最後の戦いを前にして失意の中にいた。
しかも、戦士様は混乱する頭で、貴方様を悪者にしてしまう。
「どうして魔法使いの命を奪ったのか」
そう叫んで貴方様に刃を向けた。
怒気に身を目覚めさせた戦士様は心身ともに壊れてしまいそうな貴方様に襲い掛かる。
防戦一方の貴方様は、このまま戦士様にこの胸を貫いてくれればどんなにいいことかとさえ思ってしまった。
貴方様は戦士様の剣を避けることをやめた。
しかし、そのひと振りは貴方様の腕を掠めただけだった。
彼は、気持ちの昂りのままに乱暴に振り回していただけだったから。
ただ、そのおかげで戦士様は我に返り、貴方様に謝った。
「失ったものは戻らなくても、戦うしかない。
それは、戦士、お前とじゃなければできない」
貴方様はそう言って戦士様を許したそうですね。
そして目の前には魔王の待つ部屋への扉。
傷だらけの心は、今だけは取り替えたように燃えていた。
ただ、貴方様は一つ願っていた。
これ以上、傷付くことのないようにと。
貴方様と戦士様は幼馴染で共にその腕を高め合った仲だった。
だからこその強い願いだった。
それは戦士様も思っていたことでしょう。
生きるか死ぬか、運命は共に。
そう口を揃えて頷き、二人身を奮わせて扉を開け最後の戦いへと挑んだ。
部屋に入り魔王の姿を捉えた途端、戦士様は貴方様を突き飛ばした。
全ては、戦士様の作戦のため。
貴方様が転ばされているうちに戦士様は魔王の元へと斬り込んでいく。
しかし、戦士様は剣が効かないことに気付き、頼れるものが魔法だけと知る。
それを見た貴方様はそうと分かっても戦いに向かおうとした。
それを見た戦士様は「来るな!」と叫び、貴方様を頑なに近寄らせようとしなかった。
その時貴方様は知らなかった。
魔法使い様の持っていた『爆弾の杖』を戦士様が隠し持っていたということを。
そう、それは対象に向けて魔法を放つことで広範囲の爆発をもたらす魔法の武器。
貴方様もその存在は魔法使い様が戦いの中で使用していたことから知っていた。
戦士様が最後に頼ったものはその杖。
そんな近接距離では魔王だけでなく、戦士様までもが巻き込まれてしまう。
貴方様が気付いて止めようとしたときには既に遅かった。
閃光と共に轟音が耳を塞ぎ、爆風が貴方様を壁に叩き付ける。
やがて映った目の前は何もない空間。
それは、勝利であり、敗北。
この戦いは貴方様の生き残りで幕を閉じようとしている。
しかし、縋る物を求めていた貴方様にはそれが裏切りに映ってしまった。
出来ることならば、二人ともの生存かあるいは全滅の二択。
数多もの苦難を越えて最後、その終わりを目の前に誓い合った約束が崩れ落ちていく魔王城と共に散っていった。
ただ貴方様はそのすべてが終わった空間で、何もかもを失くし、仲間たちの後を追う気力すらなく魔王城の残骸の上に横たわっていたそうですよ。
その貴方様を使いが王城へと連れて帰り、しばらくの茫然自失から回復の傾向が見られて今、私の元へ謁見えっけんしているのですから。
……思い出させてしまうようなお話、本当にすみません。
出来ることならば、なかったことにしたい。私ならばそう思ってしまいます。
ええ、もちろん私たちは国民と共に貴方様だけでなくすべてのお仲間を平和をもたらした者として讃えるつもりです。
最早、救いと言えるものはそれだけしかありませんが……。
出来れば、貴方様には顔を上げて欲しいです。
貴方様の性格から、この戦いを誇れとは言いませんが、前を向いてほしいのです。
いえ、もう貴方様は十分に……いえ、十分すぎるほど戦いました。
その旅路に疲れた貴方様よ、その旅路に散った貴方様のお仲間よ、すべてに救いが差し伸べられるべきなのです。
ええ、皆様はきっと天で貴方様を見ながら微笑んでくれているはずです。
ですが、貴方様はまだ急がないでください。
ゆっくりとその時を待つ。それだけの人生でも誰もが許してくれます。
誰もが英雄として貴方様を感謝し続けます。
図々しいお願いですが、その疲れた体を私に委ねて欲しいのです。
貴方様はずっと、私の体の上でぼんやりと物思いに耽っていても構いませんから。
……世間には、結婚ということにはなると思いますが。
いいんです。もう、貴方様が傷付く必要はありません。
王宮のベッドで、ただ幸せを感じてればいいんです。
時に私を求めてくれてもいいんです。
それくらいじゃないと、あなたの人生の幸不幸は釣り合わないくらいなんですから。
ええ、私の好きな貴方様。是非、私のものにさせてください。
幸せだけを貴方様に与えるのです。
……いいんですか? ありがとうございます。
それでは今夜から、貴方様の眠る場所は私の部屋になりますので。
貴方様の心を取り戻さなければいけない、今が一番大変な時みたいですね。
もちろんです。もう貴方様を辛い目になんか遭わせません。私が約束します。
……それでは、付いてきていただけますか?
(独り言)
ああ、ここまで貴方様を壊してしまったと思うと流石に胸が痛みますが、これで貴方様の視界には私しか映らなくなるのですね……!
汚らわしい俗世には貴方様は似合いません。
ましてや魔法使いなどもってのほか。
貴方様の手を取ることを許されるのはこの私しかいないのです。
誰もが崇める素晴らしき勇者様を聖母のように優しく抱き続けるのです。
あはははは……!
愛していますわ、貴方様……
クレジット
ライター情報
ヤンデレとか書きます。
Twitterアカウントは@yorugi_suu以外一切関与しておりませんのでご了承ください。
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