振り続ける強い雨によって学校から帰れなくなったあなた。先生の厚意により、車で送ってもらえることになったのだが、それは先生の企みだったようで……

　（強い雨の音）

気を付け、礼。
さようなら。

　（間）

あれ、どうかしたの？
君は帰らないの？

もしかして、この雨で帰れない？
確か、君って普段は自転車だから、雨の日ってバスとかじゃ……？
えっ、帰りの交通費がない？

それじゃ、歩くしかって……この雨じゃあねぇ……

　（雷鳴）

うん。絶対やめておいた方がいいよ。
とは言っても、今夜中は雨も止みそうにないし、そんなこと言ってたら帰れないのよね……
どうしようかしら。

あの、これ、バレちゃったらかなりの大事になりそうだから、他の人には言わないで欲しいんだけど、もし君が良かったら、私の車で帰る？
送っていこうかなって思うんだけど。
というか、私の考える限り、それ以外の方法が思い付かなくて。

それじゃあ、さっさと仕事片付けて車出す準備するからちょっと待っててね。

　（間）

お待たせ。
早く帰ろう。

こういうの緊張するかな？
家族以外の人と車に乗ることなんてあんまりないだろうし、二人きりだもんね。
変に気にしたりしなくていいよ。

もしかして、助手席、嫌だったりする？
でも、二人だし、わざわざ後部座席なんて遠慮することないと思うけど……
ほらほら、乗った乗った。

　（ドア閉）

シートベルトはつけたね？
さあ、行くよー。

　（走行音・雨　ここから）

最近どう？
学校で、授業ついていけないとか、友人関係がどうこう、みたいなのあったりする？

特にない、か。
そうだよね、君、この前のテストもいい点数取ってたみたいだし、私が見る限りはいざこざを抱えそうなタイプの生徒には見えないし。

かといって、見た姿だけで大丈夫だなんて先生が思っちゃいけないんだよね。
君もわかるでしょ？
先生が自分のことを何でも知っている、だなんて思わないよね。

今までにいたんだ。
学校では成績優秀、スポーツ万能で人気の優等生。
でもその裏では不良みたいに荒んでて、家族に手を上げたりしてたらしい。

学校ではみんなのために演じようってして、その疲れみたいなものを家庭で吐き出してる子だったんだよね。

君がそうだなんて言わないけど、何かと悩みを抱えたりするものだと思うんだ。
君たちのこの時期は迷いばかりの思春期だもの。
私だって青春なんて知ったことかってくらい苦しみ続けてきたわ。

だけど、自分一人で抱えすぎてるからこんなにも苦しくなってしまうってこと、意外と多いんだよね。
言うだけでも楽になることもあるし、君自身にはない考えを与えてくれるかもしれない。

誰かに頼るのは弱さなんかじゃないんだ。
むしろ、頼れないことの方が弱さ……

　（間）

（笑いながら）私、今気付いた。
こんな話してて変に気にするなって、おかしいよね。
ごめんね、こんな話下手な私で。

えー、異性の生徒と気さくに話せる話題か……
恋？

嫌？　でも私気になるんだ。
先生から見ただけじゃ生徒の恋愛事情なんて大して掴めなくて。
恋愛禁止でもないから、カップルの一組や二組、というかもっといて当然だと思うんだけど。

そっか。君に聞いてもわからないか。

それで、君は？
もちろん好きな人のことだよ。

ほらほらー、いるんじゃーん。
だけど、あんまり深掘りするとこういうのってセクハラになるのかな。
最近教師への風当たり強いからなー。

私からは、特に言えることはないね。
左手を見ればわかる通り、寂しいわけですよ。

先生ならいい人を見つけられる？
ふふっ、嬉しいこと言ってくれるのね。

だけどね、その心配はないんだ。

　（走行音・雨　強調）
　（音無し）

私には君がいるから。

　（走行音・雨　ここから）

え？　言ってる意味がわからない？
警戒心のないところ、可愛くて好きだよ。

今走ってるの、君の知らない場所だと思うんだ。
さあ、この車は君をどこへ運ぶのでしょうね。

正解は、私のおうち。私と君の愛の巣。
ううん、私は本気だよ？

私の好きな君が誰かのものにならないうちに私のものにしなきゃってずっと思ってた。
君の言ういい人っていうものがどんな人のことを意味してるかはわからないけど、私にとっての一番いい人は君なんだ。
それを知らずにいい人を見つけられるだなんて言っちゃって、本当に可愛いんだから。

大好きだよ。
君と私が生徒と先生だなんてこと関係ない。
そもそも私たちは男と女なんだから。

……気付かなかった？
そうだよね。
君にそんな感情気付かれるわけにはいかないもの。
それこそ、君の見た私の姿だけじゃ、本当の私はわかりっこない。

でも、これからは違うかな。
君に、私の全てを知ってほしい。
演じたりしない君への気持ちで迫り続けてあげるから、私がこんなにも君を愛していることを、こんなにもおかしくなってしまっていることを、こんなにも淫らなことを。
心でも、身体でも。

そして私だって、君の全てを知りたいんだ。
そんなにも君が可愛いことを、そんなにも美しいことを、そんなにも逞しいことを。
私の骨の髄に沁みるほど、感じていたい。

あはは、私、隠せないくらい欲望溢れさせちゃってる。
君がこんなにも私の恋心育てさせたから、取り返しのつかないことになっちゃった。

でも、一気に気持ちが楽になるよ。
これからは君に私を演じる必要なんてないんだから。
どんなに嫌われようとも逃がさないし、私の思うがままの日々を押し付けるだけ。

……穢れなき君を踏み躙る快感、やがて君が私色に染まっていくこと。
二人以外の誰もが介入することの出来ない小さな世界で、そんな素晴らしいことを繰り返していくの。

どうしたの？
怖い？
そうだよね。
そう見えても仕方ないよ。

だけど、それは今のうちだけだから。
君が私に溺れていけばいくほど、どんな私だとしても愛しくてたまらない私になるの。
もう、そうなる以外の選択肢は残ってないよ。

うーん、流石に平常の君じゃ怖くて震えちゃうか……
これじゃドア開けたらすぐにでも逃げられちゃいそう。

悪いけど、眠っててもらえる？
起きたら私のふかふかのベッドの上だよ。

もう帰りたいなんて言っても無駄。
これから君の帰る場所は私たちのおうちになるんだから。

というか、そこから出してあげないし。
もう、元の日常には帰してあげない。

それじゃ、もうすぐで着くからちょっと眠っててね。

　（スタンガン）
　（走行音・雨　強調）

・台本（ゆるボイ！）
雨の日は先生の車で
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・台本制作者
夜木嵩