突然の呼び出しで久し振りに会う、かつて告白してフラれた同級生。
彼女は今や既婚者で、あなたと二人で会うのは不自然に思えた。
どうやら彼女には、抱えている想いがあるようで……

():読み方に関する指示・役の動作（効果音の発生するもの）
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[＠街中/男女の待ち合わせから開始]

……久し振り。

あ、左手？

（悲しそうに）
うん……見ての通り、私は人のものってわけ。
君には、言ってなかったね。
君にこんなこと連絡するのも当て付けみたいな気がしてさ、言えなかった。

隠してたつもりじゃないんだ。
だったら、今指輪なんかつけて来ないでしょ？

だけど、なんか気付かれたくなかったかも。
会ってすぐに聞くなんてさ、やっぱりまだ君、私のこと気にしてたの？

でもそうだよね、一度は告白した女、気にならないわけがないか。
私が君の立場だったら、指輪に気付くかはともかく、聞いちゃうだろうし。

そういうのって、嫌なものかな？
まだ好きとかなら、奪ってしまいたいとか……思っちゃう？

幸せそうじゃ、なかったら……か……。

あ、ううん、今純粋な二択で考えてたから、君の答えが私の頭になくて。
でも、それってなんだか、躊躇ってるよね。
免罪符を探してるみたい。

私さ、女性に旦那とか彼氏がいるかどうかで好意を抑えられるほど男心が大人しいものだとは思えないんだ。
理性で踏みとどまってるだけで、相手が出来たところでその人って、別人になるわけでもないんだし。
好きな人は、好きな人でしょ？

だから、相手がいるって言われて、誰かのものになるのが耐えられないって気持ちになって、奪いたいって欲求が生まれちゃうんだと思う。

幸せそうなら諦めるっていうのも、あくまでも理性。
あの子にはせめて幸せでいて欲しい。
自分だったら不幸にしないのにって気持ちもあるかもしれないけどね。

君にさ、聞いていいかな。

私のこと、奪いたい？

どういう意味って、ただ、それだけの質問よ？
私のこと、君のものにしてしまいたいって思ってたり、する？

……ふふっ、悪い子なんだ。
あの時と変わらず、誠実な感じなのにね。
でも、恋は人を狂わせるってことなのかな。

（ぽつりと）……ごめんね。

ううん、ひとりごとだから、気にしないで。

あのさ、このまま、人目につくところで話すのも、雰囲気ってものがあるし……
ちょっと、ついてきてくれない？

えっ、怪しいってどういうこと？
別に、君のことぼったくりのお店に連れていくわけじゃないんだし。
そもそも、好きな人のこと、疑うんだ？

えへへっ、まったく、好きっていうのは弱みだよね。
でも大丈夫、お話がしたいだけだから。
気にしないで、ついてきて。

[＠ホテルの一室]
（ドア・閉）

……ここでなら、何だって言えるね。
というより、何も言わなくても、わかるよね。

私のこと、好きって言ってる君をホテルに連れていく。
これだけで何を私が言ってるか、流石に君もわかったでしょ？

うん。

そもそも、今までこまめに会うのはおろか、連絡もそんなになかった私が「二人きりで会いたい」って電話してきた時点で何かを察して欲しかったんだけど。

やっぱり君は真面目さんなんだね。
なんか、相談事があるとでも思ったのかな？

ごめんね？
これじゃ、完全に君を騙してたみたい。

……いや、みたい、じゃないや。

君には、ちょっぴり婉曲的な表現をしたって気付いてもらえないってわかってた。
でも、正直に言っちゃったら、君はそんな悪いこと出来ないって断っちゃうだろうから。
それでいて、雰囲気には流されやすいところもあるから、二人きりで会えさえすれば、どうとでもここまで誘えるって計算もあった。

本当のこと、言うね。
まだ、この二人でしか言えないことだけど。

私を、奪って。

わかってるよ。
これが、君を悪い男に仕立て上げる、最低なお誘いだってことは。

でも、私は今の暮らしと、君に奪われることを天秤に掛けて、こっちを選んだってこと。
この感情を、君が拾ってくれるって私は信じてる。

酷い女だね。
君の好意を利用して、こんなことさせようとしてる。

だけどね、勘違いはしないで欲しいんだ。

私はちゃんと、君を男として想ってるから。

あの時の私にも言ってやりたい。
恋人は飾りじゃないんだから、人に自慢できる男よりも、自分を大事にしてくれる男を選びなさいって。

そう、あの時はね、恋人を一種のステータスのように友達同士で見栄を張り合ったりしてたの。
だから、君みたいな誠実で素敵な人だけど、飾らない男の子は、心の中ではいいと思っていても、ギラギラで陽気な人じゃないと、皆には馬鹿にされちゃうかなって考えちゃって。

今となっては、そんな考え方が馬鹿みたいなんだけどね。
それが今の後悔の原因なんだから。

私……愛されたいんだよ。
形だけの関係なんて、孤独な夫婦なんて、つらいんだよ。

あんなのより、君の方が絶対、私のこと、幸せにしてくれるよね。

あの時の告白の答え、変えてもいいかな。

君の愛を、ください。
私のこと、捧げますから。

もちろん、あの時から君の気持ちが変わってなかったら、だけど。

でも、今信じられる人は、君しかいないんだよね。
絶対に、私のことを愛してくれるって信じられる人は。

だから、どうか私のことを君のものにして欲しい。

……何か、不安かな。
もしかして……自信がないの？

そっか。
ってことは、私が君のはじめてになれるんだ。

いいよ、君が頷いてくれるなら、私が……形ばかりの愛情しか知らないけど、してあげても。
でも、君の気持ちは、君でしか満たせないから。
正直になってくれれば、私はそれで十分。

ふふっ、やっぱり君は、流されちゃうんだね。
でも、それでいいの。
私に、そんな優しさをくれる人なんて君しかいないんだから。

いいよ。
私のこと、君の望むままにして。
私に、本当の愛を教えて。

・台本（ゆるボイ！）
私のこと、奪ってよ
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
夜木嵩