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【新版】先に逝く私から、最後に望むこと
written by 藤碕いちる
  • カップル
  • 恋人同士
  • 純愛
公開日2021年06月05日 18:00 更新日2021年06月05日 18:00
文字数
2830文字(約 9分26秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
彼女
視聴者役柄
彼氏
場所
指定なし
あらすじ
先に逝くであろう彼女から、大切に思う彼に向かって録音した最後のラブレター。
その音声を彼が一人で再生しているというシチュエーションになります。
本編
私の大好きな君へ


君がこの音声を聞いてるってことは、私に何かあったって事だよね?

ごめんね。いっぱい泣いた?それとも泣けないのかな?


「悲しい時は、ちゃんと泣け。」って、君が言ってくれたんだよね。
その通りだと思う。
だから、悲しい時はちゃんと泣くんだよ?
わかった?

そういえばさ、「苦しい時は『苦しい』って言え。」って言うのもあったね。
これだけは最後まで嫌がったけど(笑)

だってさ。「苦しい」って言葉にしたら、負けそうだったから。
負けないで、君のそばに居たかったんだもん。
そういう理由だったら、しょうがないでしょ。


君は、泣いたり、わめいたりしてもいいからさ。
ちゃんと気持ちの整理をつけてね。
これは、私からのお願い。

私をどう思ってもいい。恨んでもいいよ。
だからさ。
私を引きずらないで生きてね。


ねぇ、このファイルを見つけるのは、難しかった?

いつもの場所に保存したから、すぐわかると思うんだけど。
ちょっと心配してたりする。
違う方法で教えておいたほうが良かったのかなぁ?

まぁいいか。
聞いてくれてることに、賭けよう。

この音声を聞いてくれてるなら、私の勝ちだね。

手紙を書くの嫌い…って、そんな嘘はすぐにバレるよね。

君にラブレターを沢山書いたし。

そのラブレターは今、どうなってるんだろう?もう捨てちゃった?

私はね、全部持ってるよ。
ささいなメールも、大切な誕生日のプレゼントも。
もちろん、喧嘩した日のメールもね。
削除しないでとってある。

君からのプレゼントは全部、私の部屋のボックスの中にあるよ。
目印はクマちゃん。

クマちゃんで気づいたかな?君がくれた無駄に大きいクマのぬいぐるみ。
嬉しかったけど、どこに置こうって真剣に悩んだんだよね。
今はその子が、宝物の番人をしています。
すぐにわかると思うから、気になるなら探してみて?


えっと……
ネックレスは、買ったのに使わないって、君は文句言ってたじゃない?
あれはね、大切すぎて使えなかったの。

君がいないところで、ずっと眺めてるだけだったなぁ……

いつも持ち歩いてたんだよ?
あのワガママ言って買ってもらった、ペアのネックレス。

今もね。私の側にあるよ。
相変わらず身に着けてないけど(笑)
音が入るかな?コレ。(微かにチェーンの音がする)


病室にも持ち込んでたんだよ?知らなかったでしょう?
最後に気が付いたかな?


えっと…そんなことじゃなくて。

音声にしたのは、「私の声を覚えていて欲しかった」のと「手紙が書けなかった」から。

もう力がさ、弱くなってきちゃったんだよね。
笑っちゃうぐらい握力ないし、握ってもいられないんだ。

文字はどうしても歪んじゃってさ。
うまく書けないから、代わりに音声にしたの。
スマホで書けばいいって、今思いついた(笑)
手で書くことなかったんじゃんね。

「最後までそれかよ」って呆れないでよ?
私らしいでしょ。このほうが。

それにさ。君は「私の声が好き」って言ってくれてたから。
ちょうどいいかなぁって。

少なくてもスマホの文字より、声の方がいいと思いたい(笑)



(大きく息を吸ってから)
大好きだったよ。側にいてくれてありがとう。
愛してくれてありがとね。
幸せでした。


改めて言うと恥ずかしいね……
でも、本当のことだから。声にして残しておくね。


この音声はね、一時帰宅した夜に録音してる。
こっそり録音するにはぴったりだったからね。
ナースコールとか心電図の音が聞こえてたら、なんとなく嫌じゃない?
私だけなのかな?

そういう訳で、外泊日に録音しようって決めてたの。


外泊日でピンと来たかな?そう。最後のデートの日。

もうお箸はさすがにキツくてさ…… スプーンで食べられるものを希望しちゃった。

「普段は和食なのに」って、君が笑った日だよ。

思い出してくれると…嬉しいなぁ……

あっという間だったけど、私は、凄く楽しかったよ。
幸せだった。


ごめんね。ずっと嘘ついてて。
病気のことは伝えてたけど、進行してる事は黙ってたもんね。
言わないことにも悩んでたんだよ。

だけどさ。
死んじゃうなんて言いたくなかったし、言葉にしたら、現実になっちゃうようで怖かった。

なによりね。
死ぬかもしれない私から君が去って行っちゃいそうで怖かったんだ。

ダメなんだけどさ。そんなの。
君の手を離してあげなきゃって、思ってはいたんだよ?

最終的に手を離せなくて…ごめんなさい。


「バーカ」とか言いつつ、泣きそうなんじゃないの?君は。

違うのかな?
ちょっとは感傷に浸って欲しいけど、どうだろう?


私の声を聴いて、二人でしたことを思い出してくれてたら嬉しいな。
悲しいことじゃなくて、楽しいことでも、何でもいいんだ。

例えば、一緒に料理を作ったこととかさ。

あの時は、笑えたよね。
覚えてる?

お互いに好き嫌い多すぎて、メニューを決めるのが大変だったり。
君は君で、スーパーで使えるのかわからない変な食材を買おうとしたりとかしてさ。
面白かった。ずっと笑いっぱなしだったよね。

料理で一番印象的だったのは、君の方が器用だったって事。
私だって、料理はそこそこ出来るつもりでいたんだよ?
でも、君のほうが上手だったって、ちょっと凹んだ。

楽しかったなぁ……
思い出すだけで、幸せになれる。

君にもそんな思い出があるといいな。


あのね、君を不安な気持ちにさせるなら、「苦しい」とか「痛い」とかなるべく言いたくなかったの。
病院の人たちには言ってたよ。ちゃんと。コントロールしてたし。
そんな言葉は飲み込んでさ、だた穏やかに、君と幸せな時間を過ごしたかったの。

ほんとはね、今日のデート中だって、君は何か言いたそうだったでしょ。
わかってたんだ。気にしてくれてありがとう。

この外泊の意味、事前に知らされてたんでしょ。

「最後の外泊」
賢い君がさ、気を回さないなんてことないもんね。

嫌がることはしないでくれてありがとう。
最後まで、自分勝手でワガママな彼女でごめんね。
嬉しかったし、幸せだったよ。


(しばらくの沈黙)


(大きく喘いで)ちょっと話すのも…辛くなってきちゃったかな……
もうそろそろ終わりにするね。


私が最後に望むのは、「君の幸せ」
そうじゃなきゃいけないのかも知れないけど……

どうしてもそれを望めなかった……
ごめんね。

君を置いて行っちゃう私がさ……
縛り付ける事なんて、言っちゃいけないんだろうけど……

わかってる。わかってるんだけどさ……
君にはまだ先の人生があるって……

でも、私は君の側に居たかった……
今でも、君の隣りは私だけって思ってる。

ワガママで本当にごめんね……
どうしても、私じゃない女の子に変わることだけは嫌。


もっともっと君の隣りに居たかったな……

それは叶わないだろうから。
せめて、声だけは。覚えていて?
君が「好きだ」って言ってくれた、この声をね。


あと何を言わなきゃいけないんだっけ……

頭もボーっとしてて、うまく話せてないね……

(大きく息を吸ってから)
大好きだったよ。
側にいてくれてありがとう。
愛してくれてありがとね。

それと。

君を残して、先に逝っちゃってごめんね。

絶対に、ぜーったいに追いかけてくるようなことはしないでよ?

君がおじいちゃんになるまで待ってるからさ。
また逢おうね?約束だよ?
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
【新版】先に逝く私から、最後に望むこと
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
藤碕いちる
ライター情報
藤碕綾いちるです。ご覧いただきありがとうございます。
全年齢に特化した台本師だったはずなのですが、
最近はR18のシチュエーション台本も書いております。

泣いたり、ほのぼのしたり。
優しい時間をお送りできるように頑張っています。

珍しいテイストの台本が多いと思いますので、
気になったものは是非物語としてでも読んでやって下さい。


「碕」の字が珍しいのは些細なこだわりです。
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