先に逝くであろう配信者の私から、大切に思う彼に向かって録音した最後の言葉。
その音声を彼が一人で再生しているというシチュエーションになります。

君がこの音声を聞いてるってことは、もう私に何かあった後って事だよね？
まずは、このファイルを見つけてくれてありがとう。

君が見つけやすいところに、ヒントを隠しておくつもりだけど…… ちょっと心配だったりする。
そう考えるとさ、手紙の方が見つけてもらえる確率、高かったのかなぁ…　まぁいいや。

笑っちゃうぐらい手紙を書くのが苦手でさ、こうやって音声にすることにしたの。


って、そんな嘘はすぐにバレるか。

そりゃそうだよね。君にラブレターは沢山書いたし。
手紙は今、どうなってるんだろう？もう捨てちゃった？

私はね、君から貰ったものは、全部保存してあるよ。
もちろん、喧嘩したメールも大切な誕生日プレゼントもだよ。

君からのプレゼントは、私の部屋のボックスの中にあるよ。
目印にクマちゃんが置いてあるから、わかると思う。
気になるなら探してみて？


ネックレスは、買ったのに使わないって、君は文句言ってたじゃない？あれは大切すぎて使えなかったの。

君がいないところで、ずっと眺めてるだけだったなぁ……

ずっと持ち歩いてたんだよ？あのわがまま言ったペアのネックレス。

これを録音してる今もね、私の側にあるんだよ。相変わらず身に着けてないけどさ。


病室にも持ち込んでたんだよ？


えっと…... そんなことじゃなくて。

音声にしたのは、私の声を覚えていて欲しかったのと……

もう力がさ、入んなくなってきちゃったんだよね。悲しいことにさ。


握力がね。笑っちゃうぐらいないし、握ってられないんだ。

文字はどうしても歪んじゃってさ。うまく書けないから、代わりに音声にしたの。

「最後までそれかよ」って呆れないでよ？女の美学って言って？

ついでに配信者の意地もある。私らしいでしょ。このほうが。

それに君は、「私の録音した声が好き」って言ってたじゃない？
だから、ちょうどいいかなぁって。

「確かにお前らしいよなぁ」って呟いてそう。


ちゃんと呟いた？なーんてね。

なんだろうね。
君は今、ここにいないのにさ。
私の隣にいるような気分になってくる。

君も、このファイルを再生する度に、私が側に居るって感じてくれたら、嬉しいな。



(大きく息を吸ってから)
大好きだったよ。側にいてくれてありがとう。
愛してくれてありがとね。
幸せでした。


改めて言うと恥ずかしいね……
物語の台詞なら、何度も録音してるのに。
いざ「自分の言葉で」ってなると恥ずかしい。

そうそう、この音声はね、一時帰宅した夜に録音してる。
こっそり録音するにはぴったりだったからね。
ナースコールとか心電図の音が聞こえたら、なんとなく嫌じゃない？
私だけなのかな？

そういう訳で。外泊日に録音しようって決めたの。

ピンと来たかな？そう。君と食事した最後の日。

お箸はさすがにキツくてさ…… スプーンで食べられるものを希望しちゃった。

「普段は和食派なのに」って、君が笑った日だよ。

なんとなくその時の様子、思い出した？
思い出してくれると……嬉しいなぁ。
あっという間だったけど、私は凄く楽しかったよ。


ごめんね。ずっと嘘ついてて。
病気のことは伝えてたけど、進行してる事は黙ってた。
言わないことにも悩んでたんだ。

だけどさ。死んじゃうなんて言いたくなかったし、言ったら現実になっちゃうようで怖かった。

君が側にいてくれなくなるのも、怖かった。


でも、手を離してあげなきゃって思ってたんだよ？
ごめんね。最終的に手を離せなくて……

「バーカ」とか言いつつ、泣きそうなんじゃないの？君は。

違うのかな？
ちょっとは感傷に浸って欲しいけど、どうだろう？

何か思い出してきてくれてたら嬉しいな。
悲しいことじゃなくて、楽しいことでも何でもいいんだ。

例えば、一緒に料理を作ったこととかさ。

あの時は、笑えたよね。
お互い好き嫌い多すぎて、本当にメニューを決めるのが大変だった。
それに君は、スーパーで変な食材を買おうとしたりとかしてさ。面白かったよ。

私が一番印象的だったのは、君の方が器用だった事。
私だって、料理はそこそこ出来るつもりでいたんだよ？あれは凹んだ。

でも、楽しかったなぁ……


あのね、本当に苦痛なんてどうでもよかったの。君の方が大事。

君に出会う前も、体調がいい日の方が少なかったから、痛みにも慣れていたしね。
ちゃんと痛みのコントロールしてたんだよ？

伝えるのをさ。諦めてた部分は、確かにあったんだよね。

痛いとか、辛いとか言ったってさ、しょうがないじゃない？ドクターなら別だけど。

君を不安な気持ちにさせるならさ。
そんな言葉は飲み込んで、穏やかに、君と幸せな時間を過ごしたかった。

今日だって、君が何か言いたそうだったの、わかってた。

この外泊の意味、事前に知らされてたでしょ。
賢い君がさ、気を回さないなんてことないもんね。

気遣ってくれてありがとう。
最後まで、ワガママな彼女でごめんね。


ねぇ、台本もないし、みんなのコメントもないからさ。
大丈夫？苦手なんだよね。こういう一人語りするの。

(しばらくの沈黙)


(大きく喘いで)ちょっと辛くなってきちゃったかな……
もうそろそろ終わりにするね。


最後に望むのは、君の幸せじゃなきゃいけないのかも知れないけど……

どうしてもそれを望めなかった……

君を置いて行っちゃう私がさ。
縛り付ける事なんて、言っちゃいけないんだろうけどね。

わかってるんだけどさ。君にはまだ先の人生がある。

でも、私は君の側に居たかったし、今でも君の隣りは私だけって思ってる。

ワガママで本当にごめん。
どうしても、私じゃない女の子に変わることだけは嫌だったの。


もっともっと君の隣りに居たかったな……


姿は忘れてもいいからさ。声だけは、覚えていて？
君が「好きだ」って言ってくれた、この声をね。


あと何を言わなきゃいけないんだっけ…


(大きく息を吸ってから)
大好きだったよ。
側にいてくれてありがとう。
愛してくれてありがとね。

それと。君を残して、先に逝っちゃってごめんね。

絶対に、ぜーったいに追いかけてくるようなことはしないでよ？

君がおじいちゃんになるまで待ってるからさ。
また逢おうね？
約束だよ？

・台本（ゆるボイ！）
【旧版】先に逝く私から、最後に望むこと
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
藤碕いちる