山奥の神社に毎日欠かさず参拝する貴方。
そんな貴方に狐の神様は毎回、呆れながらも渋々耳かきをしてくれます。

口では愚痴を言いながらも、それとは裏腹に丁寧に耳かきしてくれるやつ、いいよね。

(本坪鈴を鳴らし二拍手)

(呆れた声で)
また来たんですか？
毎度毎度こんな山奥まで、ご苦労なこって……
ほら、さっさと上がんなさい。
どうせ本命はそっちでしょ。

(部屋に上がる)
そろそろ来る頃だと思って、お布団も敷いときましたよ。
……もう寝転がるのも慣れたもんねえ。
はい、んじゃいつもの。

(耳かき開始)

……しかし、よくもまあ毎日飽きもせず
こんな寂れた山奥に来るもんですねえ……

そりゃ昔はここら辺だって栄えてましたよ？
病院もあったし、ちっちゃいけど学校だってあったし……
でも石炭が取れなくなってからは、さっぱり。
だんだん人も出ていって、それとともに私も忘れられていく……はずだったのに
……こんなのに見つかっちまうとはねえ。

イヤとは言ってませんよ、イヤとは。
まあ、あのまま消えるよりはマシだったかもしれないけれど
よりにもよってこんな好き者に見つかるとは思いませんでしたよ。

好き者も好き者でしょうよ。
普通神様へのお願いって言ったら無病息災とか子孫繁栄とか、そういうのでしょう？
なによ耳かきって……

そりゃ毎日参拝して？捧げ物まで貰っちゃあ？しないわけにはいきませんけども？
神様に耳かきさせるって、あんた自分がどれだけ贅沢な事してるかわかってる？
……褒めてません。

……はい、ここ。ここが良いんでしょ。
最後にここだけたっぷりやったげますから。
……毎日してりゃあ嫌でも覚えます。

はい、じゃあそろそろ耳かきは終わりにして
梵天やってきましょ。

(梵天開始)

……この白いふわふわを見てると、昔の自分を思い出しますねえ。
今は誰かさんの趣味で、こんなほとんど人間みたいな姿になっておりますけども。
可愛いって……そりゃあんたにとっちゃ可愛いでしょうよ。

昔？昔はそりゃあ立派な狐の姿で、白銀の毛並みに大きな尻尾を蓄えて
その神々しさに人々を跪かせたもんですよ。
……今度そっちの姿でも耳かきしてほしい？
……はあ……あんたの懐の深さには参りました。

はい、おしまい。んじゃ仕上げに……ふー……
どーよ、ご満足いただけましたでしょーか？
……すごく気持ち良かった？
(まんざらでもなさそうに) ……ふーん。んじゃ、もひとつおまけに、ふー……。

(照れ隠しするようにぶっきらぼうに) はい、じゃあとっとと逆側も見せな。
(寝返りを打つ)
んじゃこっちもやってきますか。

(逆側の耳かき開始)

……でもあんたこんな毎日来て、大丈夫なの？
いや、あんたの暮らしもあるでしょ。仕事とか。
……何よ急に黙っちゃって。
なんかつらいことでもあった？
……いつの時代も人の悩みは変わらないもんですねえ。

まあ何があったかまでは聞きませんよ。
どうせ私じゃあ解決できないだろうし。
今の私にゃ耳かきぐらいが精一杯ですからね。

ま、せめて今くらいは全部忘れて、耳かきを堪能しなさいな。
ほら、こっちもあんたの好きなとこやったげるから。
カリ……カリ……
……あんた本当ここ好きねえ。
急に呆けた顔になっちゃって……

はい、んじゃそろそろ梵天、いきますよ。

(梵天開始)

……案外耳かきって、してる方も面白いもんよねえ。
無心になれるというか
こうやって手を動かしてるうちは着実に綺麗になっていくわけで
まあ、山登りと似たようなもんよね。

……私も本当はこれからどうするかとか考えなきゃいけないけれど
こうやって全部忘れて目の前の作業だけに集中してる時間が
案外、人生には必要なのかもしれないねえ……なんて……

じゃあ最後に、ふー……
こっちももひとつおまけに、ふー……

はい、おしまい。
用が済んだらとっとと帰んなさい。
……ヤじゃない。このままいたらどんどん帰りづらくなるでしょ。ほら、シャキッと立つ。
(渋々立つ)
はい、元気になりましたね。じゃあ帰った帰った。
(背中をパンパン叩く)

……んで、つらくなったらまた来なさい。耳かきしたげるから。
どうせ他にすることもないし
あんたが飽きるまでは、あんただけの神様やったげますよ。

・台本（ゆるボイ！）
山奥の神様に呆れられながら渋々耳かきしてもらいたい
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
あまに