ここは耳かきが違法になったディストピア。
数々の耳かき師が粛清され、その命を落としてきた。
そんな中、とあるバーで秘密の注文をすると裏メニューを出してくれるとの噂を耳にした主人公は……

※伝説の耳かき師『白銀のシルヴィア』は耳かきした相手の記憶を奪う能力者である

(カランコロン)
いらっしゃいませ。

(カウンターに座る)

ご注文はいかがなさいますか。
……マティーニをオリーブ抜きで？

……なるほど、そちらのお客様でしたか。
しかし、大変申し訳ございません。ただいま手の空いている耳かき師がおらず、最短でも1時間ほどお待ちいただくことになるかと……

え、私……ですか？
いえ、私はそのようなサービスは行っておりませんので。

………………そうですね、そこまでおっしゃるのでしたら、通常の100倍の価格でお受けいたしますが……
(トランクを机に置き、開く、中には大量の札束が入っている)
……正気ですか？……いえ、かしこまりました。

ではこちらに。
(隠し扉を開ける)

VIPルームにご案内いたします。

本来であれば常連の方しかお通ししないのですが
お客様からはVIP料金以上にいただきましたから、特別です。

(部屋に入る)
(扉を閉める)

それでは改めまして……本日はご来店いただきありがとうございます。
耳かきを担当させていただきます、シルヴィアと申します。どうぞよろしくお願いいたします。

早速ですが、耳かき棒の種類はいかがなさいますか？
当店では幅広い種類の耳かき棒を取り揃えております。

Eテック社の最新式のものもございますし
こちらにはかの伝説の耳かき師が用いたと言われる黒鉄（くろがね）の耳かき棒も……
……おまかせで？かしこまりました、でしたら……こちらを。

(ベッドに座る)
ではお客様、私の膝の上に頭を乗せていただけますか。
(膝枕に頭をのせる)
……ありがとうございます。

寝心地はいかがでしょうか。
……恐縮です。
では耳かき、始めさせていただきますね。

(耳かき開始)

こちらは白銀（しろがね）の耳かき棒でございます。
純度99.9%のピュアシルバーを使用し、職人が趣向を凝らした芸術とも呼べる一品。
銀の柔らかな肌触りが、かけばかくほど耳に馴染むことと存じます。

お客様、かき心地はいかがでしょうか。
……お褒めにあずかり光栄です。

しかし、まさかまた耳かきをさせていただく日が来るとは思っておりませんでした。
一度足を洗った身でしたので。
……ええ、数年前に少々。もしかしてご存知でしたか？

……ふふ、その名で呼ばれるのは少々お恥ずかしいですね。
はい、こちらの耳かき棒も当時のものをそのまま使用しております。
数々の死線を共にくぐりぬけてきた、私の愛用の耳かき棒、『愛棒』とでも言いましょうか。
もしお客様がお望みでしたら、私の愛棒の真価をお見せしてもよろしいですが……ふふ、冗談です。

(耳かき終了)

さて、一通りかきおわりましたが、他にお痒いところはございませんか？
かしこまりました、では仕上げを、ふー……
これにてこちらのお耳は終了です。

それでは反対側に移らせていただきます。
お客様、寝返りをうっていただいてもよろしいですか。
……はい、ありがとうございます。
ではこちらも耳かき、始めさせていただきます。

(反対側の耳かき開始)

……どうして闇耳かきバーのマスターをしているか？
そうですね、一度は完全に足を洗おうと決意したのですが
お客様たちの幸せな表情が忘れられず、結局こうして中途半端に戻ってきてしまった、というわけです。
一度耳かきの魔力に憑かれてしまった人間は、一生耳かきを背負う定めなのでしょう。

……私は、この店が好きです。
お店の耳かき師たちも、お越しになるお客様たちも、皆様の笑顔を守りたい。
そのために、ただ安心して耳かきを楽しめる場を提供できればと思っております。

……それにしても、お客様はどのようにして私のことをお知りになったのですか？
私の昔を知る者は数名しかいらっしゃらないはずですが……
……知り合いから？……ふふ、よほどお耳の良いご友人をお持ちなのですね。
いえ、深くはお聞きしませんよ。それが作法というものですから。

(耳かき終了)

そろそろこちらのお耳も、仕上げに移ってよろしいでしょうか。
……はい、では失礼して、ふー……
お疲れさまでした。これにて耳かき完了です。
さて、一通り終わりましたが、お時間はまだまだありますし、次はお客様のお好みで……

(アラームが鳴りだす)

ああ、特別警察がお越ししたようですね……
ご安心ください。VIPパッケージにはこのような場合の脱出ケアも含まれておりますので。
お客様はそのまま寝ていただいて大丈夫です。
少々失礼して、頭を降ろさせていただきますね。
(膝枕から頭を降ろし、立ち上がる)

こちらのボタンを押すと床が開いて、ベッドごと地下の非常用脱出経路に移動いたします。
……私ですか？私は問題ありませんので。ご心配ありがとうございます。
耳かきが中断されてしまい申し訳ございません。続きは今度ご来店いただいたときに補償いたします。
それでは、またのご来店をお待ちしております。

・台本（ゆるボイ！）
闇耳かきバーにて、引退した伝説の耳かき師によるVIPサービス～耳かきが違法になった世界で～
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
あまに