墓場を歩いていたあなたの前に、突如現れた女性の幽霊。
彼女はあなたを怖がらせようとしますがなかなか上手くいきません。
痺れを切らして怖いものが何か訊いてきた彼女に、あなたは耳かきが怖いと答えます。

(廃墟を歩いている)

(不吉なざわめき)
(ひゅーどろどろ的な音)

う～ら～め～し～や～


……なんじゃその微妙な反応は。
幽霊が目の前におるのじゃぞ、ほれ、怖がらんか。

……登場がありきたりすぎる？
はあ……最近の若者は、怖がらなくなってしまってつまらぬ。
何か良い方法はないものか……

……そうじゃ！
お主、そうお主じゃ。ほれ、お主の怖いものを言うてみろ。

……ん？なんじゃこの棒は？
……耳かき棒？

……ほう、これを耳の中に入れる、とな。
確かに、かような細い棒を耳に入れられれば
いつ鼓膜が破られるかと気が気ではあるまい。
人間は恐ろしいことを考えるものよ。

ふふ、となれば、早速お主で試してみようではないか。
幽霊相手にうかうかと怖いものを答えるなどとは笑止千万。

(後ずさりするところを回り込み、耳元で囁く)
おっと、逃がさんぞ？
わしの恐ろしさを思い知らせてくれよう。
ほれ、入れるぞ……


(耳かき開始)


ほれほれ、どうじゃ？
こうして耳の奥の奥をカリカリと掻かれる感覚。
少しでも動けば鼓膜が破れるやもしれんぞ？
怖いじゃろう？怖いじゃろう？

……答えずともわかるぞ。
固く身を強張らせて、相当恐ろしいと見える。
……ふふ、耳かきと言ったか。
これは良いものを知った。

(しばらく耳かき)

ふむ、この耳かきというのは確かに面白いが
これだけでは何というか……少し味気ないのう。
最期の一押しが欲しいというか……
おい、お主。他にお主の怖いものはないのか。

……耳ふー？
……耳に息を吹きかける？
それがなぜ怖いのじゃ？

……兎に角やってみろ、と？
……ふむ、こうか？
ふー……

……おお、こんなにも身を震わせて
理屈はわからぬが、よほど恐ろしいものなのじゃろう。
ふー……ふー……ふー……
ははは、愉快愉快。


(耳かき終了)


さて、散々怖がったようじゃが
これで許してもらえると思うたか？
……耳はもう一つあるからのう？
ほれ、反対側も早う出せ。

(寝返りを打つ)

……ふふ、自分の立場が分かってきたようじゃのう。
ほれ、こちら側も入れていくから、動くでないぞ。


(反対側の耳かき開始)


ほれほれ、どうじゃ。
こちらも奥の方をカリカリと、
ほれ、怖いじゃろ？鼓膜が破れてしまうかもしれんぞ〜？

……本当に破らないのか、じゃと？
……お主は阿呆か？本当に破れば、その瞬間怖くなくなってしまうじゃろう。
こうして生かさず殺さず、すれすれのところで怖がらせ続ければこそ、匠の業といえよう。

そんなことより、ほれ、ここ、ここが怖いのじゃろう？
さっきここを掻いていたとき、ぞわぞわしている様子であったからのう。
わしの目は誤魔化せんぞ？


……耳と言えば、昔、面白い奴がおってな。
ある男がわしを恐れて全身に経を書いたのじゃが
うっかり耳に書き忘れたようでのう。
わしからすれば耳だけが宙に浮いているように見えて、あれは傑作じゃった。

あまりにも面白いもので、記念に耳を貰っていったのじゃが……
……今思えばあれは別に怖くはないし失敗じゃったな。
今度からはこうして耳かきで怖がらせるとしよう。


(耳かき終了)


ふー……
ふー……ふー……ふー……
ふふ、驚いておる驚いておる。突然の耳ふーはさぞ怖かろう。


ほれ、しまいじゃ。
うむ。今宵は久々に人間を怖がらせて満足じゃった。
お主のように怖がりな人間は久しぶりじゃ。

これに懲りたら二度とこんなところに一人で来ないことじゃな。
もしまた来ようものならば今度はもっと怖がらせてやるからのう。
はっはっはっ……(満足げに去っていく)

・台本（ゆるボイ！）
ぽんこつ幽霊の怖がらせ耳かき　～耳かき昔話『耳かきこわい』～
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
あまに