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目隠れ女医の秘密 ~純情な思いは少しばかり行き過ぎて~
written by 泣きんぎょ
公開日2021年07月28日 23:44 更新日2021年07月28日 23:47
文字数
8628文字(約 28分46秒)
推奨音声形式
バイノーラル
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
女医
視聴者役柄
熱中症?で倒れた男
場所
日陰→病院→喫茶店
あらすじ
あらすじ

 夏のうだるような暑さの中
 体調不良で倒れてしまったあなたの元にたまたま通りがかった女性が看病をしてくれた。
 彼女の的確な診断と処置のおかげで軽症で済み、少しばかり余裕のあるあなたは落ち着いた口調の見るからに大人の女性と言った彼女に横目で見惚れてしまう。
 彼女はその声にピッタリの、凛とした雰囲気の綺麗な女性で……どこか冷たい雰囲気すら感じる美貌を讃えていた。
 しかし、少しばかり気になることが一つ。
 髪の毛が長かった。
 目のあたりを隠すかのように伸ばされた前髪。
 それに加えて縁の太い、少し野暮ったさを感じるような眼鏡。
 こんな人なら……フレームレスのかっこいい感じのが似合いそうなのにな……
 なんて、勝手な偏見と独断でそんなことを思いながら彼女の顔を盗み見ていると……
 そこに、隠された秘密を見てしまう。
 しかし、それがあなたと彼女との恋の始まりでもあった。
本編
本編

「あら?どうしたの? あなた」

 近寄り耳元で

「……凄い汗ね。どう?立てる?」

「こんなところでうずくまってるだなんて……よほど具合が悪いのね」

「とりあえず、日陰へ移動しましょう。少し診てあげるわ」

 少し間を空けて
 肩を貸して移動をした感じで

「……と、ふぅ……今日は暑いものね。体調を崩してもおかしくはないわ」

「ここなら、さっきのとこと比べて大分涼しいもの。少しは楽になるといいのだけれど……」

 相手の脈を図るくらいの間を空けて

「……少し、脈が早いわね。私の言葉は分かる? ちゃんと聞こえてる?」

「耳に空気が入って聞こえにくい感じとか、視界が歪むとか……そういうことはない?」

 少し間を空けて

「この指は、何本に見える? 左手? 右手?」

 少し間を空けて

「……そう、意識ははっきりしてるようね。なら、少し安心ね。少なくとも、まだ重症の域まではいってなさそうね」

「……あぁ、申し遅れたけれど。私は、この先で診察を請け負っている医者でね。こう見えてもしっかり医師免許も持ってるから、安心しなさいね?」

「……まぁ、さっきの受け答えとかで分かるとは思うけれど。一応ね?」

「ほら? 私、今、白衣着てないから? 分からないと思ってね」

 少し冗談めかすように言って

「ついでに言うと、若いから普段からこう言ってもあまり信用してくれなくてね。困ってるのよ」

「まぁ、そういう人達は……私の診察を一度受ければすぐに信用してくれるんだけどね」

「皆、ある程度はお年を召した人でなければ信用してくれないのよ。古い価値観よね?」

「……っと、私の愚痴は別にいいわね」

「今はあなたの診察を済ませてしまいましょう」

「ふふ、大丈夫。初回だものね? それに、今は営業時間でも無いから……ただで見てあげる」

「感謝しなさいよ?」

 冗談めかして言う感じで言ってから真剣な声で

「さて、と。まぁ、見た限り熱中症だとは思うけど、ね」

「それだけで判断をするのは危険だわ。幾つか質問をさせてもらうわね?」

「まず、今日は汗をかいた?」

「……ん、まぁ、見れば分かるけど。それはどれくらい? 全身から噴き出すほどに? だらだらと指の先から雫が落ちるほど?」

 書く音

「……ふむ。では、次の質問よ。動けなくなったのはいつ? 水分補給はちゃんとしてた?」

「……そう。倒れたのは私が来る直前くらい。水分補給は意識してこまめに、ね」

 書く音

 考え込むように

「……ん~……この要素から考えると、倒れた原因は二つくらいに絞られそうね」

「熱中症とほぼ同じ症状……しかし、水分補給はこまめに行っていた。汗もよくかくから意識して行っていた……となると、そうね」

 考え込むように少し間を空けて
 真剣に

「最後の質問よ」

「あなたの近くに水のペットボトルが落ちていたのが見えたけど……水分補給というのは、本当に水だけを飲んでいたの?」

 少し間を空けて

「……そう、お金の節約したいから水だけを飲んでいたの」

 納得するように言ってから、少し間を空けて

「なら、それが原因よ」

「念のため聞くけど、水を飲むたびに具合が悪くなっていったんじゃないかしら? それで、熱中症だと考えて更に水を飲んで……」

「あぁ、やっぱり……危ないところだったわね」

「結論から言うわ。それは、熱中症ではないわ」

「水中毒よ」 読み みずちゅうどく

「何で水分補給をするのかくらいは分かってるわよね?」

「……そう、汗をかくと体内の水分が失われるから」

「でも、汗が出ることによって失われるのは水分だけではないわ」

「汗、舐めたことある?」

「しょっぱい味がするでしょう?」

「汗を流すことにより、体内からは水分だけでなく塩分も失われているの」

「そこに、水だけを大量に摂取するとね……体内の水分と塩分……ナトリウムのバランスが崩れてね。こういった症状を起こすの」

「初期症状が熱中症とよく似ていてね……これで勘違いすると取り返しがつかないことってのが稀にあるのよ」

「そう、さっきあなたが実際にやっていたような……熱中症だと思うから水を飲むとか、ね。原因が水の飲みすぎだからそれだと悪化してしまうのよ」

「本当に、危なかったわね?」

「まぁ、安心しなさい。対処法はいたって簡単よ。塩分を取ればすぐにでもよくなるはずだから……待ってなさい。私、この時期は塩飴を持ち歩いてるから。舐めてればその内動けるようになるわ」

「えっと……確か、この辺に……あら? 干からびた舐めかけしかない?」

「……まいったわね。そういえば、もう無かったのよね……ん~、これじゃ流石に、あれよね?」

「待ってなさい、今そこのコンビニで……うん?」

「あなた……この地面に落ちてる袋は何?」

 呆れるように

「はぁ……持ってるなら、倒れる前にちゃんと舐めてなさいよ」

「……って、まぁ、知りもしないのにそれを判断しろというのも無理な話ね」

「……私も一つ貰っていい? 塩飴、好きなの」

「うん、ありがと♪ じゃあ、遠慮なくいただかせてもらうわね?」

 包み紙を破く音
 ここからは飴玉を舐めながら

「……ん、美味しい。やっぱり夏はこれよね。このしょっぱさと甘さが入り混じった感じがたまらなく好きなの。あなたはどう?」

「……え? 何で腰を下ろすって、そりゃ居るわよ。ここで見放して倒れられたら困るもの。動けるようになるまでは少なくとも傍に居てあげる」

「で?どうなの?塩飴?嫌い?」

「……そう、嫌いなんだ? 成程ね。どおりで未開封のままおっきい袋が転がってるわけだ」

「駄目よ?節約とか、味が嫌いとか考えてないで、ちゃんとスポーツドリンクを購入しなきゃ」

「割と前から言われているでしょ? 夏はスポーツドリンクを飲みましょう、ってね」

「……まぁ、あれね。どうしても節約したいというなら、水の中にこの塩飴を入れて溶かしちゃいなさいよ。どうせ舐めないんだから、それをやっても同じでしょ? 持ってるものは有効活用しないと」

「……はぁ、でも、命は別状は無さそうで本当に安心したわ。私、目の前で倒れる人を見捨てたくないから医者になったものだから……」

「……ふふ、そんなこと言われても困る、わよね? ごめんなさいね、急に身の上話なんかはじめて」

「……でもね、あなたみたいな人を放っておきたくないから医者になったの。これは、本当よ?」

「……夢が、一つ叶っちゃったかな。ありがと、あなたを助けることが出来て少し私も自信がついたわ」

「……ん、なんだか私ばかり喋っちゃったわね」

「そっちは、何か私に聞いてみたいことはないかしら? 何でも答えるわよ?」

「……まぁ、常識に則した範囲で、だけどね」

「具合がよくなるまでただ座り込んでるのも暇でしょう?」

「ただ患者が良くなるまで喋りもせずにず~っと座ってるってのも、息が詰まるしね。有意義に過ごしましょ?」

「そっちの方が、辛さとか苦しみとかも忘れられるでしょ?」

「そして、気が付いたときには動けるようになっていて……あの時の苦しみは何だったんだってね、それくらいの方が体調悪いときは幸せなんだから」

「で、どう? 何かない?」

「……あら?何を気にしてるのかしら?」

「…………髪? 私の、前髪が気になる?」

「……そうね。医者なんだから前髪は短く清潔感を感じるような髪型に保て、なんて、おじいちゃん先生とかにはよく言われたかしら?」

「でも、これは、ちょっと……もう癖になってるっていうか……あんまり見せたくないっていうか。だって、これが私だもの」

「いいじゃない?前髪くらい少し長くたって」

「今の時代、これくらいは個性の範疇よ。なのに、何よ? 清潔感だの、顔を見せろだの……そういうのこそ差別じゃないの? 私、あんまり好きじゃないわね。そういうの」

「今がどうだか知らないけれど……運動部の子が坊主頭を強要されることってあるじゃない?」

「あれと同じよ。私は……好きじゃないわね」

「……まぁ、反抗して長くしたままで居るのも問題と言えば問題ではあるのだけどね」

「注意されたらさっさとその通りにしちゃう方が結果的に面倒が少ない、なんてことは考えるまでもなく明らかなことだもの」

「薬と同じね。よく居るじゃない? 自己判断で飲むのをやめちゃう人? それで、治らなくて……また病院に来るのよ、で、何で治らなかったのかって言うと……薬をちゃんと飲まなかったから、なのよ」

「言われた通りにしてれば治るのに、どうして言われた通りにしないのかしらね?」

「……まぁ、私には理由は少なからず分かるけれどね」

「自分なりの考えがあるのよ。自分には自分の思想がある。だから、人から言われたことをそのまま受け入れられずに考えて、自発的な行動に至ってしまう……」

「この前髪と一緒ね」

「切るように言われてるのに切らない……飲むように言われてるのに、飲まない。難儀なことだけど、人には人の考えってものがあるものね」

「あなたにもあるでしょう?そういうの?」

「例えば……今舐めてる塩飴と、倒れる原因になった水とかね?」

「ふふ、ちょっと意地悪を言ってしまったかしら?」

「……ふふ、ごめんなさいね? 何だか、喋ってると楽しくなっちゃって、つい……」

「どう?そろそろ動けそう?」

「……そう、なら最後に……お詫びってわけでもないけどね? 私が髪をのばしたままでいる理由を教えて解散としましょう」

「笑うだけ笑ってさよならなんて不公平だものね?」

「……ん……これを見せるのは、本当は嫌なんだけど、ね」

「一期一会ともいうものね? きっともう会わないだろうし、見せてあげる」

「私の眼鏡、縁が太い上に物凄い分厚いレンズでしょう? でも、実はこれ……目が悪いってわけじゃなくてね」

 耳元で

「伊達眼鏡なの」

 離れて

「透けて見えたりしたら、嫌だから……髪の毛も伸ばして見えにくいようにまでしてね」

「これ、見せたくなかったのよ」

 少し落ち込んだような声で言ってから
 少し間を空けて

「……どう?眼鏡を取った私の顔を見た感想は?」

「…………ぇ? 美じ、ん? それは、えと、あ、ありがと」

 照れたように言ってから
 ハッとする感じで

「あ、いや、そうじゃなくって」

「ほら?気付いた?」

「目尻のすぐ近く……ほくろがあるでしょ? ちいさ~いのが、まるで涙の跡みたいに」

「これだけならまだしも……ほら? 反対側にも」

「これが嫌で嫌で仕方なくて……」

「これ、泣きぼくろっていうんでしょ? 私からしたらこんなものはただの邪魔なシミみたいなものなんだから、そんなにいい言い方したくないんだけど……」

「片側にあるのは割と普通じゃない? でも、両側となると……昔、これを笑われてね?」

「片方ならセクシーだけど、それじゃギャグだよ!なんて」

「…………はぁ、思い出すだけで腹が立つわね」

「身体的特徴をあげつらねて人を貶すんじゃないっての」

「……まぁ、そういうこと」

「だから、人前に目元を晒すのいやなのよ。個人的に、この髪型も気に入ってるしね?」

「あなたも、笑っていいわよ? 変でしょ? 両泣きぼくろ、ほら?遠慮しなくても……ぇ?」

「……綺麗? かわ、いい……え、と、私が?」

「そう……そうなのね。特徴的で、むしろ良いか……へぇ」

「……隠してたからかしらね? こんなこと言われるの、生まれて初めてよ?」

 耳元で

「ありがと。少し、自分に自信が持てたわ」

 離れて

「ふふ……そっか。私は綺麗で可愛い、美人だったのね?」

「なら、お礼にあなたにも保証をあげようかしら?」

耳元で

「あなたは、とっても素敵な人よ? 少なくとも、私にとってはね?」

 囁き

「自信を持ちなさい」

 離れて

「じゃあ、私は行くわ」

「ありがと。もう会わないから、なんて言ったけど……ええ、有意義な時間だった」

「また、会えるといいわね?」

「バイバイ」


二話

「次の方どうぞ~」

 扉を開ける音

「あら?あなたは……ふふ、また会ったわね?」

「ええ、私、この病院で診察をしてるのよ」

「……あぁ、そういえば白衣の姿で会うのは初めてだったわね?」

「どうかしら? これでも結構な場数を踏んでるの。様になってるでしょ?」

「っと、雑談はこれくらいにして本題に入りましょうか」

「今日はどうしたのかしら? 頭がぼーっとする、って書いてあるけど」

「詳しい状況を説明してくれる?」

「だいたい、いつ頃くらいからかしら?」

「……ふむふむ、成程。私があなたを処置した翌日くらいからね」

「症状は? ぼーっとする、とは書いてあるけど……動悸や息切れは?頭痛はある?」

「熱は?」

「……ん、成程。平熱くらいね。三十六度五分」

「あれから、熱中症には気を付けてる? 外へは出てる?」

「……そう、水ではなくてちゃんとスポーツドリンクを飲むようにしたわけね。いい心がけよ?」

「顔が……少し赤いように見えるのが気にかかるけれど」

「大丈夫? 念のため、点滴を打っていく?」

「少し、栄養失調気味に見えるものね……ご飯はちゃんと食べた?」

「……? 喉を通らない?」

「はぁ、駄目よ。ちゃんと三食きちんと食べなきゃ」

「成程ね、それは顔色も悪くなるわけだわ」

「決まりね。点滴を打って経過観察としましょう」

「目立った症状はそれだけだもの。私から言えることは一つね。ご飯はちゃんと食べましょう」

「まさかダイエット、なんてことは言わないわよね?」

「何も食べないのは最大の悪手よ?」

「食べ物を摂取しないまましばらくすると、身体が飢餓状態に陥り次の食事において通常の何倍も栄養を摂取するようになって……」

「……ん?ダイエットではないの?」

「そう……まあ、そこまで気にするほどの体型でも無いものね?」

「……ん~、まぁもしかしたら気にしてるのかもしれないけれど……私は今のままのあなたでいいと思うわ」

「無理なダイエットをしては駄目よ?」

「って、ダイエットはしてなかったのよね? ふふ、ごめんなさいね?」

「まぁ、とにかくこちらの判断としては点滴を打って経過観察だから。それが終わったら帰ってもいいわよ」

「では、お大事に~」

少し間を空けて

「……あら?まだこんなところに居たの?」

「もう診察時間は終わっちゃったわよ?」

「……ええ、私の仕事もこれで終わり。後は明日に向けてリフレッシュってとこかしら?」

 伸びをするように

「ん~~……今日も、疲れたわね~」

「……ねぇ? 知らない仲じゃないもの、ちょっと私と話さない? 喋ることで発散できるストレスってのもあるから」

「ね?」

 耳元で

「駄目?」

 少し間を空けて
 耳元で

「……わ、顔が赤くなった。それに心拍数もこんなに……どうしたの? 急に具合でも悪くなった?」

「……うん? ええ、離れろと言われるのなら離れるけれど……」

 渋々といった調子で言って
 それから離れた位置で

「……で? 私と話してくれる? くれない? どうなの?」

 相手が答えるくらいの間を空けて嬉しそうに

「そうっ! なら、善は急げねっ! 喫茶店に行きましょ? 私、いい雰囲気のお店知ってるのよ~」

「ふふ、こういうの……実は憧れだったのよね~。ほら?あれを笑われてから、ちょっとそういうの避けて生きてきてたから」

 少し気落ちしたふうに言ってから
 それから明るく

「あなたのおかげで私の夢がまた一つ叶っちゃったわね♪」

 少し間を空けて

「へぇ~、このお店……こんなふうになってたのね~。なんか感激」

「……ん? あぁ、そうね。確かにいい雰囲気のお店を知ってる、と言ったわね?」

「けど、一人で入るのはちょっと恥ずかしくってね? 今初めて来たってわけ」

「貴重な私の初体験よ? 良かったわね? 私みたいな綺麗で可愛いお姉さんの初めてを貰えて?」

「……な~んて、あ、はは、ちょっと、調子に乗り過ぎたかしら?」

「ほら?あなたが、私のことを綺麗で可愛いって前言ってくれたから、それに乗っかって……」

「まぁ、そんなことはいいのよ! 早く座りましょ?」

「ここ、アップルパイが絶品で美味しいらしいから!」

「……え? ふふ、そうね。絶品で、美味しい『らしい』よ? だって、今まで来たことないもの。楽しみね?」

 少し間を空けて
 伸びをするように

「ん~~~……それにしても、同じくらいの異性とこんなふうにお話するなんていつぶりくらいかしら? いつもは、医者と患者だから」

「……それでなくても気が抜けないしね」

「同僚はネチネチネチネチ、小さいこととかまるで揚げ足を取るかのように言ってくるし……他は他でどうでもいいことで下らないことを言ってくるし……もう、やんなっちゃう」

「……ええ、そうなのよ。あの病院、ちょ~っと価値観が古いっていうか、ね? 未だに男尊女卑思考が蔓延ってるっていうか……お年を召した先生が多いでしょ?」

「患者さんも、そういった方が多くて」

「若い女性だからって、上から目線で言ってくる人が結構居るのよ」

「……もう、私を何だと思ってるのかしら?」

「これで厳しい試験をかいくぐって勉学を重ねて医師免許も取ったのよ? まったく、困ったものね」

「でね? それだけならまだしも……大して仲良くもないのに食事に誘ってくるのよ?」

「全然言葉も交わしたことないのにね? ホント、困っちゃう」

「私の目尻の秘密を知ってるのは、今のところあなただけだっていうのにね……これがどういうことかわかる? それだけ、他の人には心を開いてないってことなのよ」

「当たり障りのない返事を適当にしてるだけ、あるいは、仕事上必要な会話をしてるだけだってのにね……困ったことに、口説いてくるのよ……で、セクハラまがいのことまでしようとしてくる……まぁ、それは流石に撃退してるけど……」

 拗ねるように言ってから
 明るく

「だからね? あなたという存在は、私にとってほんっと~~に特別な存在なのよ!」

「普段は結構大人ぶって頑張ってるけどね? 私生活じゃ私、本当にこんな感じだから……・今まで、こんなふうに接した男の人なんて居なかったなぁ」

「友達とも……仕事を機に疎遠になっちゃったし、一人暮らしだから、誰も私の言うことなんて聞いてくれないしね?」

「……はぁ、ストレス、溜まってたのかもね」

「……あ、アップルパイ来た」

「……へぇ、温かくって美味しそう。生地の隙間から覗くリンゴが宝石みたいに光って見えて……これは期待できそうね」

「それじゃ、いただきます♪」

 食べる感じで

「はむっ……ん~~~、美味し~~~♪ リンゴの甘みと、パイ生地のサクサク加減が絶妙で……んぐっ、これは、話題になるわね」

「ほら? あなたも食べてみなさいよ?」

「はい、あ~ん」

「……? どうしたの?固まって? アップルパイ、嫌いだった?」

「そう、嫌いではないんだ?ならいいじゃない?遠慮することないわよ?」

「ほら?あ~ん」

 少し間を空けて

「どう?美味しいでしょ?」

 相手の答えを聞くくらいの間

「……でしょ~~? いやぁ、ほんと、ここに来て良かったぁ」

「美味しいアップルパイは食べれるし、素敵な男性とはお話できるし」

「これはもう、楽園と言っても過言じゃないわね?」

「な~んて♪」

「……ん? ええ、素敵な男性っていうのはあなたのことよ? ていうか、むしろそれ以外に何があるって言うのよ?」

「あなたの好感度、私的には結構高めよ?」

「……へぇ、そうなんだ? 私にそういうこと言われると、心臓がドキドキ、か」

「ふふっ、それはきっと私に対する恋の病ね♪ 医者である私が断言してあげる、間違いないわ♪」

「……なんて、言えたらいいんだけど……ん~、不整脈かしらね?急に心拍数が上がる、なんて言われると不安にしかならないわね」

「……本当に、大丈夫?」

「苦しいなら、家まで送っていくけど」

「……あ、そう?そこまでしなくてもいい?」

「ふぅん……ならいいわ。勝手に付いてくから」

「患者を放っておかないのも医者の仕事だものね?」

「私が家まで付いてってあげる」

「家はどこ? 家族は?」

「えっと……彼女とか、恋人とかは、居るのかしら?」

「居たら、悪いものね? 今後の付き合いも考えなきゃいけないし……あ、そう?居ないんだ?へぇ~」

「そっか……そっか~」

 最初は下がる感じで言って、二回目は上がる感じで嬉しそうに
 それから取り繕うように

「……あら?嬉しそうに見えた?」

「ふふ、そうね。だって、実際嬉しいもの♪ あなたは私にとって初めての男性だもの」

「初めて……一緒に喫茶店に来てアップルパイで間接キスをした仲だもの、ね?」

「わ、どうしたの?そんなのむせて?背中、さすったげようか?」

「……ぇ?そりゃ分かってるに決まってるじゃない? 承知の上であ~んってやったんだもの」

「とても貴重な経験だったわ♪ ごちそうさま♪」

 耳元で
 
「言ったでしょ?こういうことに、憧れてたって?」

「そういうことよ?」

 離れて

「ふふ、赤くなっちゃって可愛らしい♪ それじゃ、食べ終わったらあなたの家に行きましょ?」

「赤くなりすぎて、途中で倒れたら大変だものね?」

 少し間を空けて

「へぇ、ここがあなたのお家なのね?」

「ふぅん……私の家の近所じゃない?」

「これからは毎日挨拶できそうね?」

「……というか、案外知らない内に擦れ違ってたかもしれないわね」

「今まで会わなかったのが不思議なくらい……」

「じゃあ、私は帰るから。養生するのよ?」

「不摂生にしてると……お医者さんが家庭訪問しちゃうから♪」

「なんてね♪ こういうと、結構プレッシャーでしょ?」

「本当に大事にしなさいよ?」

「それじゃ、また」

「今度は、病院で会わないといいわね?」

「バイバ~イ」

 扉を閉める音

 少し間を空けて

「……成程ね、灯台下暗し……とは違うけれど、私にピッタリの殿方はこんなところに居た、か」

「そういえば、そうよね……幸せの青い鳥も、結局は探しに行く必要のない場所に居た。幸せは意外と近くに存在する……そういうことなのかも、ね?」

「ふふ……明日から、彼のカルテを漁らなきゃ♪」

「ここから最も近い病院はあそこだもの」

「彼の今までを、しっかりと調べないと、ね?」

 楽しそうに言ってから
 ふと振り返って少し申し訳なさそうなイメージで

「……ごめんなさいね?私、完璧主義なのよ」

「初めての恋……絶対に逃がしたりしないから」

「覚悟、しておいてよね♡」

 甘い声で言って終了
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
目隠れ女医の秘密 ~純情な思いは少しばかり行き過ぎて~
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
泣きんぎょ
ライター情報
 ASMR、シチュボ台本を主に書いています。
 細かい指定や、指示が書いてあることがありますが、不可能な場合や不明瞭なことがあれば代替あるいは無視してもらっても結構です。
 また勢いのまま書き連ねているため誤字や脱字が見られる場合がありますのでご使用の際はお気をつけ下さいますようお頼み申し上げます。
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