長旅から帰ると、いつも変なメイドが、更に変になっていた。

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おかえりなさい、旦那様。
お荷物、お持ちしますね。

え、いりませんか？
旦那様はお優しいですね。
ええ、誰にもお優しいですね。

随分と長い旅でしたが、いかがでしたか？

楽しかった……。
そうですか。

お知り合いのお宅に宿泊されたとのことでしたね。
確かそこには、若いお嬢様がいらしたような。

楽しかったですか？
楽しかったんですか。
なるほど、なるほど。

旦那様。お荷物、やはりお預かりいたしますね。
中を拝見させていただきます。

なぜそんなに焦るのですか？
まさか、やましいものでも入っているのでしょうか。

え？　私の方こそやましいことをしているのではないか、ですか？
いえいえ、今回は、鞄にGPSを付けたり、ジャケットに盗聴器を仕込んだり、ということはしていませんよ。
私だって反省しているのです。

そんな目で見ないでください。
興奮してしまいます。
（咳払い）
はしたない発言でした。
お許しください。

さて、旦那様。
お夕食、入浴、どちらになさいますか？
メイドでも構いませんよ。

あ、メイドになさいますか！
では早速、寝室へ――。
え、お食事？　聞き間違いですか？
確かにそう聞こえたのですが。

ああ、きっと旦那様の心のお声なんですね。
はい、私、読心術を得意としておりまして。
はい、嘘です。

仕方ありませんね。
お食事にいたしましょう。

鞄とコートをお預かりします。
鞄？　開けません。誓います。とても残念ですが。

ではこちらへ。

旦那様のお好きなものを揃えております。
そして、こちら。
本日の特別メニューでございます。

ええ、そうです。
ワインです。

色がまがまがしい？
とってもキュートなピンク色ではありませんか。
いかにも情欲をそそるような――。
いえいえ、なんでもありません。

大丈夫ですよ。
安心安全です。

え、私が飲むのですか？
それはこの後、寝室にお招きいただけるということですか？
あ、違いますか。残念です。

なんですか？　いつも以上に変？
変とは失礼な。

別に何もありませんよ。
いえ、そんな、寂しかったとかでは……。
ただ、ちょっと、その、はい。

ち、違います。
旦那様がいらっしゃらないと、その、そう！　お仕事が減って……その、寂しかったです。

どうして笑っていらっしゃるのですか？
別に怒っていませんよ。
拗ねてもいませんから。

鞄ですか？
お持ちいたします。

中、覗いていいですか？
駄目ですか。

え、目を閉じて、左手を開く、ですか。
はぁ。分かりました。

もう、目を開けてもいいですか？
開けますよ。

指輪……。指輪⁉
えっと、旦那様、これは！
それに左手の薬指って、意味をわかっていらっしゃいますか⁉

分かったうえで……？

で、でも私はメイドです。
旦那様は旦那様なのに。

いいんですか？
本当に？
そんな……。

嫌なわけないじゃないですか。
こんな幸せをいただいてよろしいのでしょうか……。

ありがとうございます。

一生大切にいたします。
旦那様のことも一生大切にいたします。

離すつもりはございませんので。
浮気したら監禁ですので。
不倫したら相手の命はいただきます。

もちろん本気ですよ。

ふつつかものではございますが末永くよろしくお願いいたします。

では早速、そちらの媚薬を飲んで、寝室へ。
あ、駄目ですか。
残念です。

・台本（ゆるボイ！）
長旅から帰ると、メイドの様子がおかしかった。
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
シノト