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電話
written by 山葵餅
  • 電話越し
  • 元恋人
  • 元カノ
  • 一年間
公開日2022年04月26日 22:00 更新日2022年04月23日 21:57
文字数
2629文字(約 8分46秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
社会人
視聴者役柄
社会人
場所
電話越しの会話
あらすじ
ある日、元カノ(演者)から留守番電話を受け取った視聴者。
その中身とは一体?
本編
急にこんな連絡をしてしまってごめんなさいね。
すでに音信不通になった元彼女から電話がかかってきて、こんな留守番電話が残っているんですから、あなたはさぞかし驚いていることでしょう。
それでも私は連絡せずにはいられなかったんです。
けれど返事がほしいわけじゃないんです。
ただあなたに聞いてほしいんです、私があなたと別れてから今日までをどうやって過ごしていたのかを。


あなたと別れたあとの一週間は惨憺たるものでした。
仕事中はなんとかそれまでのように振る舞っていましたが、家に帰ったらあなたの姿を捜してしまったんです。
あなたはもういないと分かっているのに。
そして一通り探し終えるとベッドの上で泣き腫らしていました。
それから涙が止まると、泥のように眠ってしまいました。
その間は食事もなかなか喉を通らなかったんですよ。
だからさすがにいつも通りとはいかずに、同僚に気づかれてしまいました。
それからはその人に話を聞いてもらったりしたんです。
あ、その同僚は女の子ですよ。
ってあなたはもうそんなこと気にしませんよね。
それじゃあ、話を戻しますね。
その同僚のお陰もあって、あなたと別れてから一ヶ月後くらいには元のように過ごせるようになりました。

そうしてあなたと別れる前の状態にまで回復したので、もうすっぱりあなたのことを忘れようと思ったんです。
実際、それから二ヶ月近くは仕事に没頭して、あなたのことを思い出す余裕すらありませんでしたから。
けどある日、部屋の掃除をしていたらあなたのことを忘れるために奥にしまった、あなたがかつて使っていた物を見つけてしまったんです。
あなたはほとんどの物を持っていってしまいましたけど、食器なんかは置いていったじゃないですか。
そういうのをしまってあったんです。
捨ててしまうには忍びなくて。
まぁ兎に角、そういったものを見つけてしまったので、あなたに会いたいという気持ちが芽生えてしまったんです。
けれど、今更あなたに会って何をするんだという思いもありました。
それもそうですよね。
あなたはもう二度と、私に向かって付き合っていた頃のように笑いかけてくれないって知ってたんですから。
そんなことを一ヶ月以上も悩んでやっとあなたに会いに行く決心がついたんです。

長年あなたの彼女をやっていたので、あなたの仕事がいつ終わるのかくらいは把握していたんですよ。
だからあなたが仕事を終わらせる頃を見計らってあなたの会社に行ったんです。
この話を聞いてあなたは驚いているでしょうけど、本当の話なんですよ。
私はあなたに内緒であなたの会社に行ったんです。
ただ、あなたと話すことはできませんでしたけど。
だってあなたは私以外の女性に彼女だった私に見せていた顔を見せていたんですよ。
そんなところに行けるわけないじゃないですか。
それから気づいたこともありました。
あなたはもうすでに私のことなんて忘れて、新しい恋を見つけたんだってことです。
その後はなんとか涙を堪えて家まで向かったんですけど、帰り道の途中で涙を堪えることができなくなりました。
当然と言えば当然ですよね、勇気を出してやっと会いに行った好きな人が、私じゃない女性に私に向けていたのと同じ目を向けていたんですから。
家に着いても涙が止まらなかったんですよ。
本当に翌日が休みで良かったです。
もし仕事に行くことになっていたら、また同僚に何かあったのかと訊かれてしまうかもしれませんでしたから。

その後、あなたに内緒で会いに行ってからまた二ヶ月間、一心不乱に仕事ばかりしていた気がします。
それから私もあなたと同じように、新しい恋を見つければ良いんじゃないかと思ったんです。
そんな矢先仕事関係で知り合った人から、付き合ってほしいと言われたんです。
最初はその告白を受け入れようと思ったんですよ。
それでも私があなた以外の誰かの彼女になるということに、自分でも驚くほどの拒否反応を示したんです。
新しい恋を見つけて、誰かの彼女になることを望んでいるはずなのに、誰か良さそうな人を見つけてもあなたに対して抱いていたような気持ちが芽生えることはありませんでした。
それ程までに、私はあなたのことが好きだったんだということを知って半年が過ぎました。

そんな私が最近やっと、恋をしたんです。
相手は内緒ですけど。
その人は私のことをあの頃のあなたのように愛してくれる、大切にしてくれる、そう思ったんです。
そして、それ以上に私がこの人の彼女だと言いたいと、そう思ったんです。
だから私はやっと一歩、前に進むことができました。
そうしてあなたへの思いから解放されたんだと思います。
けれど、あなたのことは絶対に忘れません。
忘れてしまうにはあなたと一緒に過ごした時間が長すぎましたから。
とは言っても、あなたはもうすでに私のことなんて忘れてしまったのかもしれませんね。
けれど、ここまで聞いてくれているということは私のことを覚えていてくれたと思っても良いんですよね。
もしくはこれを聞いて思い出したということもあり得ますね。
けれど、どちらにしてもあなたが私のことを完全に忘れていないのならそれだけで十分です。

あなたは気づいていないのでしょうけれど、今日は私とあなたが別れてからちょうど一年の日なんですよ。
一年後に同じように連絡を入れるかは分かりませんが、今日の連絡はあなたに私の決心を聞いてほしかったのと、これまでのことを話したいと思ったんからなんです。
ここまで聞いてくれてありがとうございました。
どうか、あなたも幸せになってください。


【以下省略可】
〘電話の着信音〙
どうして電話なんてかけてきたんですか?
私は言いましたよね、返事が聞きたいわけじゃないって。
《視聴者のセリフ》
また会いたい、ですか?
私はもうあなたに会いたくありません。
少なくとも、今すぐは。
今すぐ会ってしまったら、私はまたあなたを好きになってしまうかもしれません。
そもそも私とあなたが別れてしまったのも、お互いに小さなすれ違いがあったからというだけで、何か決定的なことがあったわけじゃありませんし。
だから今はまだ会えません。
私が気持ちを完全に新しい恋に向けきれて、あなたとのことを完全に過去のものだとできたそのときには、また会いましょう。
私はあなたほど器用ではないので、少し時間がほしいです。
それでまた会えたときにはもう一度友達になりましょう。
私たちにはそれくらいの距離感がいいんだと思います。
それでは、またいつか。
〘電話を切る音〙
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
電話
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
山葵餅
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