両親の交通事故によって、家から出られなくなった演者は、たまに来る視聴者からの話を楽しみにしていた。
これは、そんな二人の決意の日の物語

あ、やっと来た。
ちょっと遅いんじゃない？
だから、ほら、なにか言うことあるでしょ？
《視聴者のセリフ》
これでも急いだって、あぁもう、そういう言葉を聞きたいわけじゃないよ。
まぁでも、その汗を見てると走ってきたのはよく分かったよ。
ただ、ちょっと汗臭いからお風呂入ってきてくれない？
《視聴者のセリフ》
彼氏でもないのに風呂に入るのはって、何を気にしてるの？
そんなこと私は気にしないからとっとと入ってきて。
あなたの汗臭さのほうがよっぽど気になるし。
あ、もちろん覗いたりもしないから。
ほら、行った、行った。
さて、その間に準備でもしておこうかな。


あ、おかえり。
さて、ここでクイズです。私はあなたがここに来たときに、なんて言ってほしかったでしょうか？
《視聴者のセリフ》
そう、正解。
私はただいまって言ってほしかったの。
疑問系だったのはちょっと気になるけど。まぁ、それはいいかな。
それじゃあ、今日も、早く聞かせてよ、外のことを。
《視聴者のセリフ》
目を輝かせ過ぎだって、あなたも知っての通り、私は籠の中の鳥なんだよ。
この籠の外があることは知っている。
知っているけれど、自分から出ることはできない。
私からすれば、この大きな家の小さな窓から見える空間だけが外だったんだよ。
それ以外の外といえば、お父様の古い日記に書かれたお母様との話から想像するものでしかなかったもの。
あの日、あなたがこの家の前を通るまでは、ね。
あれが偶然じゃなかったことも知ってるけどね。
あなたがこの家に入ってこれていることが何よりの証拠なのよ。
お父様とお母様の死が、お祖父様をこんなふうに、私のことを軟禁してしまうように変えてしまったのだから。
事故死だったのにね。
それに、私はもう立ち直ってるのよ。
まだ小さかったから、二人の顔なんてもう思い出せないのだけれどね。
って、ごめんなさい。この話、あなたならもう知ってることよね。
何度か言ったことがある気もするし。
それよりも、ほら、早く外の話を聞かせてよ。
《視聴者が口籠る》
あれ、どうしたの？
《視聴者のセリフ》
今日は外に出てみないか？って、何を言ってるの？
言ったことがあるでしょ、私の身体の中にはセンサーが入れられていて、外に出ようとすると家中の出入り口が封鎖されるって。
《視聴者のセリフ》
確かに、試したことはないけど、もし本当に出入り口が塞がれてしまったら、お祖父様は今度こそ私を監禁してしまうかもしれないわ。
外に出て死んでしまうくらいなら、安全な家の中で過ごしてほしいって考えてるみたいなんだから。
《視聴者のセリフ》
あなたの言う通り、私は空気を肌でもう一度感じてみたいと言ったことはあるわ。
でもそれは、無理な願望を無邪気に口にすることに等しいのよ。
というよりも、そういうことを言ったんだから。
《視聴者のセリフ》
でも、なんて言わないで。
これ以上、私に外に出てみたいって気持ちを教えないで。
この気持ちが大きくなる度に、この小さな外の世界を思って、苦しくなるの。


【1】外に出ようとする場合（パターンA）
《視聴者のセリフ》
そう思うなら外に出るべきだって、それができたら苦労しないよ。
私は、私までお祖父様の前からいなくなってしまったらと思うと、何も出来ないの。
お祖父様が私を監禁するかどうかなんて、どうでもいい。
お祖父様に心配をかけたくないのよ。
もし仮に、お祖父様の言ってることが嘘だったとして、一度でも外に出ることができたとしたら、私はそれを繰り返す。
そしていつか、そのことがお祖父様に知られてしまう。
そう思うと、怖くて仕方ないの。
だから外には出ない。
《視聴者の行動》
て、何してるの？
急に私のことをお姫様抱っこするなんて。
お願い、下ろして。
《視聴者のセリフ》
軽いし、暴れても意味がないって、そうかもしれないけど、これって外に出ようとしてるの？
嫌だ、嫌、出たくない。
《視聴者のセリフ》
目を明けて？
って、何これ？これが外なの？
空には本当に手が届かないのね。
それに、凄く広い。
この家って、こんなふうになってたのね。
外に出られて、とっても嬉しい。
けど、ありがとうなんて言わないから。
けど、また来て。
私は外に出られて、満ち足りた気分なの。
だから、もう一度外に出たいとは思わない。
その代わり、あなたの話をまた聞きたいから。


【2】外に出ようとする場合（パターンB）
《視聴者のセリフ》
そう思うなら外に出るべきだって、それができたら苦労しないよ。
お祖父様の言っていることが全て嘘だなんて確証、どこにもないでしょ？
《視聴者のセリフ》
大丈夫だって、その根拠のない自身はどこから来てるの？
けど、私もちょっと吹っ切れたかも。
だから、一緒に行こう。
手だけ繋いでほしい。
《視聴者と手を繋ぐ》
ありがとう、それじゃあ行こう。
《視聴者が走る》
あ、走らなくてもいいよ。
前見てないと転んじゃうかもしれないよ。
《視聴者が倒れる》
って、ほら、やっぱり転んだ。
って、何これ。
なんか、温かい水、みたい。
って、もしかして、これ。
ねぇ、返事して。お願いだから、返事してよ。
なんで、黙ったままなの？

出入り口が封鎖されるってそういうことなの？
私が外に出ようとしたら、私も、帰ってきたお祖父様もお父様とお母様のところまで行くってことだったのかな。


【3】外に出ない場合
《視聴者のセリフ》
そう思うなら外に出るべきだって、そんなこと言うなら、早く出ていって。
それで、もう二度とここには来ないで。
私はずっとここにいるの。
外に出るとしても、お祖父様と二人で出るから。
《視聴者のセリフ》
うん、それじゃあ、さようなら。


ねぇ、どうしてまた来たの？
《視聴者の行動》
何それ、手紙？
分かった、読んでおく。

何これ。
それじゃあつまり、あなたはお祖父様の許可を得て来たわけじゃないんだ。
しかも、この家の鍵が開いてるなんて。
これじゃあまるで、私がいつ出ても良いって言ってるみたいだよ。
それに、会えたのは本当に偶然だったんだ。
これから、私はどうしたら。

・台本（ゆるボイ！）
あなたとの話
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・台本制作者
山葵餅