ある雨の日、演者は視聴者と偶然出会う。
二人は元からの知り合いではあったのだが・・・

あれ、こんなところで何してるの？
あ、雨宿りしてるんだ。
君は傘持ってないんだね。
《視聴者のセリフ》
私も？そっか、確かに私は今傘も差さずに雨の中を歩いてるもんね。
けど私は違うよ。
私はこの雨でずぶ濡れになりたいと思ったからこうしてるんだよ。
だって、ほら。
私はちゃんと折りたたみ傘を持ってるから。
うん、まぁ、ここで少年を偶然見つけたのも何かの縁だよね。
せっかくだし少年のことを家まで送ってあげるよ。
《視聴者のセリフ》
いいよ、お礼なんて言わなくても。
私が今こうしたいと思ってるだけだから。
それじゃあ行こっか。

《視聴者のセリフ》
どうして傘を使わなかったの？って、少年が知らないだけで、大人にはいろいろあるんだよ。
だからたまには雨に降られたい日があってもいいでしょ？
《視聴者のセリフ》
それじゃあどうして目が赤いの？か。
そうだな、さっき雨粒が目に入ったからかな。
って、こんな嘘をついても仕方ないか。
少年に対して嘘をつくのはなんだか違う気がするからね。
今からする話は、さっき少年が私に訊いた話にも繋がるからね。
実は私ね、ついさっき好きな人と別れてしまったんだ。
少年はまだしたことないかもしれないけど、私は恋をしたんだ。
それで好きな人がいた。
恋っていうのはその人のためならなんだってしたい、そう思えるようなものなんだよ。
だから、別れてほしいって言われたときの衝撃はすさまじいものだったな。
私はその人と別れたくないと思っても、その人は私と別れることが一番良いことだって考えてるんだから。
私はすごく悩んだんだよ。
けど、これ以上彼に苦しい思いをさせることはできないと思ったんだ。
だから今日改めて、私の方からも別れようって言ったんだよね。
彼の前ではカッコつけて、一切泣かなかったんだよ。
泣いて彼を困らせることが怖かったからね。
けど彼も本心では別れたくなかったんだと思うんだ。
彼が私に別れようって言ったときも、私から別れようって言ったときも、彼はすごく悲しそうな、辛そうな顔をしていたから。
こんなことまで分かるくらいに私は彼のことが好きで、彼の側にいたはずなんだよね。
まぁ、理由は聞かなかったから、どんな理由で別れたいって言ったのかは分からないんだけどね。
ただ、別れたことも理由を聞かなかったことも後悔してないんだよ。
私は彼のことが大好きで、彼が私のことを好きなままなんだって、知ることができたから。
けどね、彼のことが見えなくなったら本当に突然、訳もわからないくらい泣きたくなったんだ。
そんなときに雨が降り出したから、このまま雨に降られてしまえば誰の目を憚ることもなく好きなだけ泣けるんだと思ったんだ。
私は涙で頬を濡らしているのではなく、雨のせいで濡れてるだけなんだって言い訳できる気がしたから。
まぁその言い訳も、今思うと誰かに対してのものじゃなくて自分への言い訳だったのかもしれないけどね。
あ、つまらない話だったよね？
悪かったね。って、どうして急に私の手を握ってきたの？
《視聴者のセリフ》
少年は今、私のことを好きだって言ったのかい？
それはまた思い切ったことをしたね。
ただ少年がもう恋をしていたなんて思っていなかったな。
少年はもうそんな年なんだね。
だが、その思いを抱く相手は私ではないよ。
《視聴者のセリフ》
ちゃんと答えてほしいか。
それもそうだね、確かに少年の、いや、君の真剣な気持ちに対して私が真剣に答えないのは失礼な話だね。
それじゃあ改めて言うよ。
私は君と付き合う気はないよ。
私の中ではどうやっても君は子どもなんだよ。
だから、君の気持ちには応えられないんだ。
ごめんね。
お、いつの間にか雨が上がってるね。
通り雨だったのかな。
これなら、この傘を差す必要はなくなったね。
このまま少年のことを家まで送っていってもいいけど、どうする？
《視聴者のセリフ》
そうだよね、今は一緒にいたくないよね。
それじゃあ、気をつけて帰るんだよ。
《視聴者のセリフ》
子ども扱いしないでって、私からすれば少年はまだ子どもだよ。
だから、心配もするし優しくもする。
だけど、君のことを好きになることはないからね。バイバイ。

【以下省略可】
少年には嘘をつかないと言って、別れたことを話したのにな。
あんな嘘をついてしまうなんてね。
ただ、傘も差せないとこのあと帰りにくいな。
雨に降られてるわけじゃないと泣いしまっていることがすれ違った人に気づかれちゃうし、傘を差していないと表情を隠すこともできないよ。
水溜りに反射した顔すら、見たくないよ。

・台本（ゆるボイ！）
驟雨
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
山葵餅