学校には、誰もが憧れる高嶺の花のような生徒がいた。
思い切ってあなたは彼女に告白してみたのだが、返事はまさかのOK。
これで学校生活はバラ色……と思っていたが、彼女はどうやら病んでいて……

待たせちゃった、かな。
君だよね、私に用があるって屋上に呼び出したのは。

何か、伝えたいことがあるんでしょ。
私、それを聞きに来たの。

君の言葉で、教えて？

　（男、告白する）

……う、うんっ！
嬉しいな、君にそう言ってもらえるなんて。

ありがとう。
こちらこそ、よろしくね。

……これで、私たち、恋人になったんだね。
言葉のやり取り一つじゃ、なんだか実感が湧かなくて、不思議な感じ。

何か、恋人になった記念にしようよ。
キス……とかはまだ早い、よね。
私も、初めてのシチュエーションとか、結構気にしちゃうかな……

それじゃあ、何がいいかな……

あ、大事なことを忘れてたね。
スマホ、貸してくれる？
あ、そのままでいいよ。

　（間）

ほら、連絡先交換しておいたよ。
恋人なのに、話したいときに話せないなんて、寂しいでしょ？
これで私たち、いつでも繋がってる。

……ロック？
あぁ、君のスマホのね。

そんなの、解除できるに決まってるでしょ？
好きな人のスマホのパスコードぐらい知ってて普通だよ。

あ、君は私の、知らないんだ。
大丈夫、別におかしくなんかないよ？
普通に考えたら、他人のスマホのロック解除方法を覗き見るなんて褒められた行為じゃないもの。

真面目な君はそんなこと出来なかったんだよね。
でも、そんな誠実なところが素敵で愛おしいんだよ。

もしかして、スマホの中を勝手に見られるの、気分良くないかな……？
君がそう言うんだったら、わざわざ嫌われるようなこと私もしたくないしやめる。
そういうことで、いいよね？

わかった。
じゃあ、その代わり……

私以外の女の連絡先、全部消してくれる？

わかるよね、その意味。
決して、君のことを信じてないだとか、そういうことを言ってるんじゃないの。
むしろ、君のこと、信じてるから。

君の恋心が、その気持ちの中にある誠意が本物なのはわかってる。
それも、ちょっと真面目過ぎるくらい。

だけどね、この世界には絶対なんてもの、存在しないんだ。
明日の地球の存続を証明できないように。
……恋が、運命という概念で繋がれていないように。

だから、少しでも望まない未来を歩んでしまう悲しい芽は、徹底的に摘まなきゃいけないと思うの。

この恋を続かせるのは、運命なんて不確かなものじゃなく、お互いのお互いを愛す気持ち。
君の気持ちがずっと私に向いているままにするためには、抜かりない努力が必要なんだよ。

そのために、私以外のすべての女との接点を断って欲しいの。
君が浮気だとかそんな酷いことするとは思ってないけど、これからしないって証明する方法、これぐらいしかないでしょ？

君の世界に私以外の恋愛対象がいなければ、間違っても私以外に気持ちが向くことなんてないから。

こんなことするまでないって思ってるのかもしれないけど、きっかけは君からじゃなくたっていいんだよ？
女の方から君に詰め寄られても、君はちゃんと、愛すべき人がいるからって断れるのかなぁ。

君の優しさって、ちょっと情に流されやすいところがあるでしょ？
だから、女の涙とか、必死の懇願とか、毅然と振り払えるのか私には怖いんだよ。

例えば、あの幼馴染さんとか。
君はただの腐れ縁だって特別な気持ちを抱いてないかもしれないけど、あっちが君のこと好きかもしれないよ？

それに、今日だって一緒にお話しながら登校して、すっかり心許してるじゃない。
そんな彼女が、君のシャツの袖を掴んで、「お願い……私から離れないで……！」って言ってきたら、君はそれをダメって言えないよね？

そんなことないって、今朝、君は私に告白する決意を固めたこと、幼馴染さんに話してたでしょ？
そのとき、ちょっと悲しそうな顔してた。

私には、「なんで私じゃなくて、あの人に告白するんだろう」って思ってるようにしか見えなかったけど。

……何も、言わないんだね。

やっぱり、君は断れないでしょ？

これで、私以外の女との接点があることの危険性、わかってくれたよね？
ちゃんと連絡先、消してくれるよね？

……何で、迷ってるの？
消しなよ。

私のこと、好きなんだよね。
私と恋人になりたいって、言ったよね。

だったら、それくらい出来なきゃ。

だって、これが君の、絶対に心移りしませんっていう証明になるんだよ？
私が安心して君のことを愛すためにはそれが必要なの。
絶対にいなくならない君じゃないと、私、怖くて、怖くて……

私は、君のことが好きだからこんなこと求めてるんだからね？

私だって、君以外の男なんかどうでもいいし、話し掛ける気すら湧かない。
君の前からいなくなったりしない。

だから、誓って。
その愛の永久性を私に見せつけて。

そりゃあ、君のスマホのロックは解除できるから、私がやってもいいけど、それって違うと思うんだ。

その証明は君自身がするから意味があるの。
私からの一方的な愛なんかじゃ嫌だから。

あと、君が何で迷ってるのかわからないけど、もう、私たちの関係は消せないからね？

ほら、さっきの告白。
こんなこともあろうかと、録音しておいたの。

これで、恋人になれないって、急に君の気持ちが変わっても後戻りできないね。

ふーん……
私がおかしいこと要求してきたからって言い訳すればいいと思ってるんだ。

誰が信じると思う？

君だってそうだし、男子生徒皆が告白したくなるような女子と、普通の生徒でしかない君。
お互いの主張が食い違ってたとして、どっちの意見が信用されるんだろうね？

君が皆を敵に回したいならいいけど、そんなことしても私からは別れられないよ？

もう、何にもできないね。
諦めて愛、誓っちゃいなよ。

私だって君のこと愛してるんだから、これから君のことを責任持って幸せにするって誓う。

だから、君も私の物になるって、連絡先消して誓ってよ。

連絡先消してくれたら、さっきの音声、私も消すから。

……そっか、私の気持ちに応えてくれて嬉しい。

それで、本当に全部だね？
これで、私は君のこと、安心して愛せるんだね。

それじゃあ、彼氏くん。
私たちの消えたりしない永遠の愛、二人で育んでいこうね？

・台本（ゆるボイ！）
僕が告白した高嶺の花は病んでいた。
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
夜木嵩