パワースポットに向かっていたあなたは、道に迷ってしまう。
夜になり途方に暮れていると一人のはんなりとした人物に出会う。
その人物は自分を神だと言い――。

七つの大罪シリーズ・第一弾【傲慢】
※シリーズと銘打っていますが、ひと作品ごとに完結しています。続き物ではありません。

あらあら、えらい可愛ええお客さんやねぇ。
こんな夜更けにどうしはったん？

ああ。
ここらへんは、道がややこいもんなぁ。

そら、たいそしんどかったやろ。
おつかれさん。

ほら、うち入ってゆっくりしていかはるとええよ。
お茶だすさかいなぁ。

おたく、こんなところに何しに来はったん？

ぱわーすぽっと？

ほぅ、そんなんがあるんやねぇ。

ああ、あの神さんのとこか。
それやったら、うちに着いてよかったなぁ。

ふふ、ここにはあの使えん神よりよっぽどすごい神さんがいはるから。

どうぞ。
お茶どす。

ん？　このお茶がなんか？

ああ、ええ色やろ？
ふかぁい、闇みたいな色や。

心惹かれへん？

分からんかぁ。
まだ、子どもやねぇ。

まぁ、一口飲んでみ？

ふふ、癖になる味やろ？
もう一杯飲まはる？

どうぞ。

ここの神さんは……そやねぇ。

どんな願いも叶えてくれはる。
浮世の何より素晴らしい、そんな、存在。
いや、[[rb:常世 > とこよ]]を探してもこんな神さんはいはらへんな。

おたくもなんか願わはる？

ふふ。
なら、うちに言わはるとええわ。

そう、うちがこの神社の神や。

信じてへん顔やな？
まあ、しゃあないなぁ。

おたくは人間やもん。
しょせん、下等（かとう）な生きものやし。

あら、ごめんやす。
聞かんかったことにして？

いや、そのな？
うち、人間にあんまりええ思い出がないねん。

ちょっと昔話聴いてくれはる？

ふふ、ええ子やね。

昔、ここに一つの集落があってん。
うちがそこの神さんやった。

みんな、よう尽くしてくれたわぁ。
楽しかった。

でもある日、な。

違う神が来た。
そう、おたくがさっき言ってた神や。

その神がうちからみんなみんな取り上げてん。

ここ、ちょっとみすぼらしいやろ？
あの神のせいやねん。

ありがとうなぁ。
みんな、おたくみたいに優しい人間やったらええのになぁ。

あんな、うち、またみんなの笑顔が見たいんや。
この神社をかつてのあるべき姿に戻したいんや。

なあ、うちのこと手伝ってくれへん？

急やもんな。
困らはるとは思うわ。
それでも。

お願いや。
おたくやったら、信じられそうやねん。
うち、もう一回人間を信じてみたいねん。

神のうちが人間を信じるなんて変な話やけどな。
どやろう……？

ええの？
じゃあ、うちの手ぇ取って？

握手やよ。

そんな照れはらんでも。

あかん。
うちも照れてまうやん。

はい、おててとおててを繋いで。

捕まえた。

ふふ、あはは！

ほんま可愛ええ子やね、おたく。
それでいて、びっくりするほど阿呆やわ。

人間はほんま愚かやけど、おたく、その中でもかなり頭足りてはらへんのちゃう？

ああ、そうや。
うちは人間なんて大っ嫌いや。

だって阿呆やもん。

何もかもうちに貢いでたらええのに、別の神に鞍替（くらが）えして。

あの神はな？　うちのこと邪神って言うねん。
おたくたちは悪いもんに騙されてるって。

あはは！！
なんで阿呆な人間騙したあかんねん！
あの神、ほんま神のくせに頭悪いわなぁ！

人間なんて騙して使って搾り尽くすもんやろぉ？
それより他にどんな使い方があるって言うん？

なあおたく、教えてくれへん？

逃げようとしても無駄やよ？

ほら、なんか頭ぼぉっとせぇへん？
身体に力はいらへんとちゃう？

さっき飲んだお茶のおかげ……いや、あれはお茶ちごうて、うちの血や。
ふふ、美味しかったやろ？

あれ、人間でいう「麻薬」みたいなもんらしいで？
ほぅら、楽しくてしゃあなくなってくるはずや。

怖がらんと。
身を任せて楽しめばええねん。

ほらほら、とーん、とーん。

うちがおたくの神や。
素晴らしぃて、敵わへん存在。
逆らう気ぃなんて起きひんはずやろ？

だから、な？

あの神社、燃やしな？
そう、あの阿呆な神のいる神社や。

ここに燐寸（マッチ）あるさかい。

そこをまっすぐいったら、着くからなぁ。

さあ、善は急げや。
はよ行ってきぃ？

はぁん？
塵芥（ちりあくた）のくせにうちのいうことが聞けへんの？
悪い子にはお勉強が必要やなぁ？

うちがどれほど優れてるか、身をもって知りたいみたいやねぇ。

ふふ、逃がさんよ。

せっかく捕まえた人間や。
無駄にはせん。

干乾びるまで使ってあげるさかい。

泣いて喜び？

今ここで。

・台本（ゆるボイ！）
傲慢なはんなり邪神の手に堕ちる
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
シノト