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イトを紡ぐ
written by さざなみ
  • 朗読
公開日2023年06月01日 23:28 更新日2023年06月01日 23:28
文字数
1022文字(約 3分25秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
あらすじ
 蚕がね、いるでしょ。
 そう。桑の葉を食べて、さなぎになって。
 あの、蚕。

20190605
本編
 蚕がね、いるでしょ。
 そう。桑の葉を食べて、さなぎになって。
 あの、蚕。
 絹を作るとき、蚕はどうしたって、さなぎとして繭にくるまれて、いつか成虫になることを夢に見ながら、熱い蒸気で乾燥させられて、糸を採るために熱湯で茹でられるんです。
 ……さあ、どうなんでしょうね。
 痛いとか、熱いとか、もしかしたら苦しむ暇なんてないのではないでしょうか。
 ただ、いつか空を飛べるだろうと、そう思いながら、必死の思いで繭を作って、そうしたら、死んでしまってるのですから、……なんでしょう。ある意味、空を飛んでいるのかなって。
 そう。ありもしない、叶いもしない夢を視ながら、死んでいくんです。
 だからね、あなたがこの着物に惹かれたのはきっと、お蚕さんに呼ばれたからだと思うんです。
 成虫にはなれなくて、人のために体を変えてお空も飛べなくなったけれど、こうして、綺麗な糸になって、反物になって、着物になって、手入れさえしてもらえれば、きっと半永久的に大切にしてもらえる。
 だから、手元に持ってもらえるなら、あなたがいい、って呼んだんじゃないかなってね、思うんです。
 乾燥させたさなぎはね、振ると中で、カラカラと音がするんですよ、聞いたことはありますか。
 カラカラ、カラカラと。
 それはそれは、空洞に響く綺麗な音で。
 ああ、ごめんなさい。
 少し気味の悪い話をしてしまいましたね。
 あなたがあまりにもこの着物に目を奪われていたから、つい、呼ばれたんだろうなといらない話をしてしまいました。
 この滑らかな肌触り、美しく染められた色はきっとあなたによくお似合いになるかと思います。
 どうか、後生と思って手元に置いてはいただけませんか?
 ……かわいそう……?
 ふふっ、おかしなことを言いますね、蚕がかわいそうだなんて。
 もう、ずっとずっと有史のころから蚕は人に糸を与えるために飼われてきたんです。今更自然界には戻れません。餌をとることも、敵から身を守ることもできず、挙句、人の手がなければ、うまくさなぎになることさえできない。
 仮に羽化をしたとしても、半月も生きられません。
 それほどに蚕の一生は短いのです。
 夢に視た空を飛ぶことさえも、できません。だって、長い長い年月で、体は重く、羽根は退化してしまったのですから。
 燻されて、乾燥されて、糸をはがされて、こうして着物になる以外に道はない。
 だから、ほら、どうか手元においてはくれませんか。
 かわいそうだと言ってくれるなら、なおのこと。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
イトを紡ぐ
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
さざなみ
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