あなたの彼女は、初デートの夏まつりに来る途中で亡くなってしまいました。
それから一年、なんとなく夏まつりに訪れたあなたは、死んだはずの彼女に呼び止められます。

あっ、いたいた！

どうしたの？　ぽかんとして。
って、そりゃそうか。
死んだ彼女が目の前にいるんだから。

去年の夏まつり。
浴衣を着るのに時間がかかって、待ち合わせに間に合わなくなりそうだったのと、君との初デートに舞い上がってた私は、階段で足を滑らせてそれで……

ははっ、ほんとうドジだよね、私。
慌てるとろくなことないって、みんなにさんざん言われてたのになぁ。

一年、待たせちゃったね。
ごめん。

今夜は去年できなかったこと、しよ？

まずは、はぐれないように手を繋いで。
大丈夫、ちゃんと繋げるよ。
今の私は君だけに見えて、触れられるようになってるから。
絶対に離さないでね？

ほら、行こ？　時間は待ってくれないよ。

屋台がたくさん！　あちこちからいい匂い！
お好み焼き、焼きそば、たこ焼き。
りんご飴に、わたがし、チョコバナナ！
どれから食べようかなぁ。

ここは、君にビシッと決めてもらいたいな。
よろしくお願いします！

食べたいの買って、半分こ？
それいいね！
じゃあ、買いに行きますか。

いろいろ買ったね。
周りの人には私が見えてないから、君に『あれ全部一人で食べるの？』みたいな視線向けられてて、おもしろかったなー。
さっそく食べよ！

最初は、えーっと。
この焼きそばにしようかな。

パックの蓋が閉まりきらないほど入ってるね！
いただきまーす。

うん、おいしい！
食べさせてあげる。
あーん。

ほら、恥ずかしがらないで。
あーん。
ふふっ、おいしい？

やってみたかったんだ、こういうの。

えーっと、じゃあ、次は……

ふぅ、おなかいっぱい。
ねぇねぇ、次は食べ物以外の屋台も行こうよ。
あそこの射的とかどう？

一回三発だって。
どれ狙うの？　あの髪飾り？
可愛いね。

私に似合うだろうからって……

(照れた感じで)
もう、ばか。

一発目は……
ハズレ。

二発目……
ハズレ。
ねぇ、ちゃんと狙ってる？

三発目……
当たった！　棚から落ちたよ！
射的で景品もらえたところ初めて見たかも。

うん、じゃあ、髪飾り付けて。

どう？　似合ってる？

予想通り？　へへへ。

そろそろ花火の時間だね。

私、穴場知ってるんだ。
他の人にバレてないといいんだけど。
こっち。

ああ、よかった。
誰もいない。
ここなら二人きりだよ。

花火、上がり始めたね。
きれい……

え？　足元？
だんだん消え始めてる。
時間切れかぁ……

今日は楽しかったよ。本当にありがとう。

(そんなお別れみたいなこと言うなよ)

お別れみたいなこと言うなって、大丈夫、本当のお別れじゃない。
君と私、住む世界は違うけど。
私はいつもそばにいるし、見守ってる。
そして、君が私を忘れないかぎり、君と私の繋がりは消えたりしない。

最後に、キスしよ。
手のひらを合わせて、指を絡めて。
絶対に離さないように。

(長めにキスをする)

(髪飾りの落ちる音)

・台本（ゆるボイ！）
彼女と最初で最後の夏祭りデート
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
メロンフランスパン