かつて愛しい旦那様の後ろをつけて、見事にその心を射止めた少女は大人になった。
　愛しい旦那様と結婚をして幸せな日々……そして、その内に一人の子を身籠るようになった。
　今は二人だけではない、幸せの象徴でもある子供とも共に暮らす日々。
　その中で彼女は、いつか来る日のために……自分の子が悲しい涙を流さないように恋愛教室を開催することを決める。
　生徒は二人、自分の子と、近所の子
　まだ幼い彼女たち二人への英才教育を……旦那様であるあなたはたまたま覗いていた。
　それは、あまり直視したくない……かつての複雑な思い出が蘇る光景だった。

「はい、それでは本日の授業を始めます。二人とも席についてくださいね？」

　優しい母のように

「はい、それではまず前回のおさらいです。あなたたちの前に運命の殿方が現れました。この方が将来の旦那様であると確信できるお方です。その時、どうしたらよいか覚えていますか？」

　少し待ち

「はい、そうですね。よく覚えていましたね？　その通りです。まずはその方の行動を逐一観察をいたしましょう。情報収集は恋愛における基本中の基本ですからね？　では、その次です。特に見ておくべき箇所は？」

　問いかけるように言って
　回答を待つほどの間

「はい、結構です。そこまでが前回までの内容でしたね？　家族構成、周囲からの認識、それから旦那様の好みや仕草の癖、あとは行動範囲を調べ上げておくのが最低限やっておくべきことと言えるでしょう。では、今日からはその応用です」

　ペラリと紙を捲る音

「教科書の二十三ページを開いてくださいね？　ここに書いてあることを一緒に読みましょう」

　小学校の先生の優しく促すようにして、音読する感じで

「恋愛において情報収集は基礎にして極意となるもの、これを怠れば敗北は免れず、悔し涙に枕を濡らすことも少なくない可能性といえましょう。では、それを防ぐにはどうするか？　答えは根回しを徹底して行うこと……」

　パタンと本を閉じる音

「はい、結構ですよ。では、今回は事前準備の大切さとその方法について説いていくこととしましょう。まず初めに問題です、あなたが運命の旦那様と確信するその方に恋人が出来て『近寄るな』といわれてしまいました。根回しは十分に行っていたはず、誰も自分を出し抜くなど有り得ないし、自分以外の女性があの方の隣に居るなどあり得ない……許せない……と、このような状況に陥ったとしましょう。それは、何が原因か答えられますか？」

　優しく問いかけて、少し待つ
　相手の答えに相槌を打つように

「ふむふむ……自分よりもそちらの女性の方が魅力的であった……運命の旦那様ではなかった……運が悪かっただけだから悪くない……ん、成程。思い付いた答えはそれだけですか？」

　少し間を開けて残念そうに

「ふふ、そうですか。今のが思いつく限りの解答というわけですね？　そうですか……ふふ、まだまだ旦那様の伴侶たるただ一人の嫁になろうという意識が足りていませんね。それでは」

　優しく諭すように言って
　丁寧に教えるように

「二人とも、残念ながら今の答えはどれも不正解です。原因はそのいずれでもありません。答えは、事前準備が足りていなかったから、その一点に付きます」

「事前準備が完璧に終わっているのであれば周囲は既にあなたのことを恋人であると、旦那様すら気付かぬうちに認識をしているはずですし、妙な女性が現れることもありません。もう席は埋まっているのですから」

「よいですか？前回も、それから前々回も言いましたが恋愛とは戦なのです。事前準備を怠ったものは敗北あるのみ、それを忘れてはいけませんよ？」

「先程の答えを例として一つというとするならば……ん、そうですね。自分に魅力がない、そちらの女性の方が魅力的である、と自信なさげに思うことは事前準備を怠っているからに他なりません。丹念に準備を行っていれば、自然と自分こそが旦那様の嫁であるという自覚は既に持っているはずですからね。そのように思うということは努力が足りていない証拠なのですよ」

　優しく言い聞かせるように言って
　可愛く小さく咳払い

「コホン、というわけで今日の授業は事前準備は迅速に確実に、そして気付かれずに……どれを欠いても事前準備を怠ったことと同義となるということを覚えておいてくださいね？」

「相手が何かされたと気が付いたときには既に勝負が決している、そこまでして初めて十分な事前準備を終えたということが出来るのですからね？」

「……ふふっ、例えば……このように」

　優しく、少し茶目っ気を含ませて言った後に
　足音と襖を開く音

「おはようございます。旦那様。わたくしの顔を見に来てくださったのですか？　ふふ」

　余裕の笑みを浮かべるような感じで
　あくまでも優しく上位者のように

「いけませんよ？　水面下の努力を覗き見なさるなんて。女の子は好きな殿方に可愛く思われたいからこそこうして努力を重ねるのですから。過程を見て可愛いというより、結果を見て褒めることこそが礼儀と言うものですよ？」

　優しく言い聞かせるように言って、少しの間

「？相変わらず時代錯誤、ですか？　ふふ、そうでしょうか？そのお言葉を頂くのはもう何度目でしょうか……ふふ、夫婦となった今でも聞くことになるだなんて旦那様もお変わりありませんね？　では、わたくしの方も何度でも言いましょう」

「旦那様はわたくしを出来た嫁だと褒める、そしてわたくしはそんな旦那様に尽くして一生を添い遂げる……それで幸せなのだから何の問題があるのですか？　あの子たちもきっとそうです、わたくしたちの娘……そして、わたくしたちと共感する部分のあるお隣さんの子……二人とも、きっとわたくしのように大切な旦那様を手にして幸せになれるはずです。だって、その素質があるのがわたくしには見えていますから」

　優しく、しみじみと母のように口にしてから
　少し不思議そうに

「きっと、二人ともわたくしのこの教えを活かして将来に運命の旦那様と結ばれます……はい？　五歳にはまだ早すぎる、ですか？」

　そして、可笑しそうに、しかし優しく上品に笑って

「ふふ、そんなことはありませんよ。こういったことは早めに教えておくのが一番良いのです。いざその時が来たというときに、何も分からず右往左往するなどということがあっては可哀想ではありませんか？」

　そして、最後に優しく慈しむように

「これも親心と言うものです。可笑しなことなどは一切ございませんよ？　旦那様」

　旦那様、の部分は優しく甘く愛する人に呼びかけるように言って終了

・台本（ゆるボイ！）
ヤンデレ奥様の恋愛講座
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・台本制作者
泣きんぎょ