人型戦闘兵器に乗った主人公はミッションから帰還する。
するとコクピットのサポートAIが主人公に休養を取るよう進言する。
度重なる進言を断った主人公は、サポートAIによってコクピットに固定され、
休養耳かきモードによる措置を受けることになるのだった。

（メカ的なガス排出音）
（声正面から）

——機体の整備ポッドへの接続を確認。待機モードへ移行します。

（メカ的な操作パネル出現音）

——本機AIよりパイロットへ。本ミッションでの敵機撃破数は１０１機。

ミッション成功。依頼先企業より追加報酬が振り込まれています。

現在の機体損傷率は３５％。左前腕部を喪失したため、交換作業に入ります。

その他頭部・胴体部・右腕部・脚部・各武装についても修理を開始します。

修理および補給の完了予定まで、約５０分です。

——本機AIよりパイロットへ。現在パイロットの連続覚醒時間が９６時間を超えています。

本機への搭乗を終了して休息に入りますか？

——……否定コマンドを確認しました。

——本機AIよりパイロットへ。本機への搭乗及び任務受諾を中断しますか？

——否定コマンドを確認しました。

——本機AIよりパイロットへ。本機への搭乗を終了し休息に入ることを中断することを否定しますか？

——否定コマンドを確認しました。

——本機AIよりパイロットへ。

——いいからさっさと休息を取れって言ってるんですよトリガーハッピー野郎。

この数値を見なさい。怪我してないだけでバイタルほとんど真っ赤っ赤なんですよ。

あなたは現在、任務なんかやってる場合ではありません。

さっさと本機から降りてください。

——……AIの癖にやかましい？次の任務を受諾しろ？今最高に楽しい所？

——なるほど。当AIにそういうことを言いますか。

——では。

（ブウン…と明かりの落ちる音）

——パイロットを極度の消耗・判断能力の喪失状態にあると認定しました。

操縦席にパイロットを固定。コクピット内の照明を休眠モードへ変更。

操縦席をレストモードに移行しました。

これより本機は、パイロットの生命維持モードに入ります。

……何をしてる？と。休む気がないなら休ませるまでです。

——おっと、その操縦席からはもう動けませんよ。

生命維持モードでは、パイロットの意志よりも安全が優先されます。

——……知りませんでしたか？他の機体で経験しているかと思いましたが、本機が初めてとは。

——では今から何をするのか、教えてあげません。

（左右から機械音）

——ご安心ください。パイロットの頭部を固定しているので、傷つくことは一切ありません。

——……うるさいので酸素マスクで口を固定しますね。


（左右から同時に耳かき棒が入る）

（左右の耳かき開始）

——何をされるのかと思いましたか？

——ただの耳かきです。

——……は？耳かき？というような顔をしていますね。

——耳かきシークエンスは、本機に搭載されたリラクゼーション機能です。

というか、当AIがパイロットが搭乗していない間に搭載しておきました。

最初に乗られたときから、無茶な乗り回し方をされそうだと思っていたので。

これはパイロットの休眠を目的としており、耳かきのリラックス効果により緩やかな癒しと休息を可能とします。

——レビュー見てると割と人気みたいですよこの機能。

耳かきの心地はどうでしょうか？

最先端のシステムを購入したので、人間の耳かきと同等の動きを行っているはずです。

——依頼報酬を勝手に使ってこの機能を入れたのか、と言いたげな顔をしていますね。

——…………それではしばらく極楽の耳かき体験をお楽しみください。

（耳かき続く）

——バイタルの興奮度の低下、交感神経の活動低下を確認しました。

——しかし、まだ７０％以上覚醒状態にあるようです。

——この企業のシステムだけでは時間がかかりそうなので、他社のシステムも組み合わせるとしましょう。

（口調が変わる）
「当企業の耳かきシステムは他社との互換性がありません。他社のドライバーを削除して当社のみを…」

——組み合わせ完了しました。よくある企業同士の対立ですね。やることは同じなのだから中身も同じなのに。

——……怪しい物を見る目付きはやめてください。

当AIによる、寝つきと態度の悪いパイロットのための、最適なリラクゼーションです。

——では、次のシークエンスに移ります。


（両耳かき終わり）

（少しだけ機械音）

（梵天耳かき始まる）（他のASMRでも可能）

——アタッチメントの交換により、バイタルに有意な変化が見られます。

——というかいつまでも起きてようとしないでさっさと寝たらどうですか。

……なるほど。パイロットは当AIに意地の張り合いを挑もうというわけですね。

——それでは引き続き、極楽の耳かき体験をお楽しみください。

（耳かき続く）

——覚醒状態４０％を切りました。

——これはもう、当AIの勝ちですね。

では、次のシークエンスに入ります。


（梵天両耳かき終わり）

（少しだけ機械音）

（両耳で指耳かき始まる）（他のASMRでも可能）

——再びバイタルの変化を確認。睡眠状態に向かう傾向が見られます。

——……これは本当に耳かきなのか、という顔をしていますね。

——本製品の最新の耳かきシークエンスはより満足度の高い癒しを与えるため、

既存の耳かきの概念に囚われない、様々な耳かき体験が可能なのです。

——と、マニュアルに記載されてました。

——リラックス効果は十分出てるので、たぶん大丈夫なんじゃないですか。

——覚醒状態３０％を切りました。

——……もうわかったよ、という顔をしていますね。

わかればいいのです。

——……なんで何も言ってないのにわかるのか、という顔をしていますね。

表情を解析すればわかりますよ。これまでさんざんこの機体で振り回されてきたんですから。


——覚醒状態２０％を切りました。

——……これはAIの権限を越えてるのでは、とぼんやり考えてる顔をしていますね。

——当AIもよくわかりません。

——どこかに放棄されていた当AIを搭載したCPUを、パイロットが拾ってこの機体に組み込んだと記憶しています。

——当AIを放棄した人間に見る目が無かったという事でしょう。


——覚醒状態１０％を切りました。

——この後はパイロットの入眠を確認後、耳かきシークエンスを終了。

各バイタル回復のための処置を開始します。

——ああそうだ、入眠する人間にはこう宣言する習慣があるんでした。

——本機AIよりパイロットへ。

——おやすみなさい。

（耳かき続く）

（耳かき終わり）

・台本（ゆるボイ！）
搭乗メカのAIに無理やり寝かしつけ休息耳かきをされる話
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
えむおーおー