耳かき棒を製造・販売しているとある会社の幹部社員であるあなたは、現状に危機感を持っていた。
「いつまでも掻いていたくなる気持ちよさ」の売り文句で発売した耳かき棒が異例の大ヒット。世間で耳かきブームが巻き起こった一方で、あまりの依存性の高さから、耳かきのやり過ぎが社会問題となっていたためである。
あなたは、耳かきの気持ちよさを過度に煽るような売り方をやめるよう、社長に進言するが……。

『耳かきブームの裏で「耳かき依存」の若者が急増中 耳かきは医療行為であって娯楽ではない』……。
『問われる企業責任 耳かきの気持ちよさを過剰に押し出した売り方へ批判の声』……。

……ふっ、くだらない。しょせん三流の週刊誌、大したことも書いてないし、潰すまでもありませんね。
まぁ、こんな記事が出るということは、それだけわが社の製品が世間に浸透しているということでしょう。

それで？ 貴方はこれを私に見せたかっただけですか？


……ほう。つまり貴方は、この記事に近い考えを持っていると？
驚きました。貴方は、私に楯突くつもりですか？ 破産寸前のこの会社を引き継ぎ、耳かき業界最大手へと成長させた、この私に。
それが何を意味するのか、わからない貴方ではないはずです。

……そうですか。それは残念です。
あなたは、もう少し賢いと思っていましたが……。


……どこへ行く気です？
まさか、ただ会社を辞めて終わり、とでも思っているのですか？

(2回手を叩いて合図する)来なさい。

(どこからともなく現れた人達に捕えられる)
貴方は逃がしませんよ。野放しにすると、少々不都合なので。

しっかり押さえておきなさい。今から、この者に耳かきをします。
さあ、頭をここへ。

(頭を膝に乗せ、膝枕の体勢に)

ふふ……折角の機会です。
開発中の試作品の威力、貴方で確かめてあげましょう。

(耳かき開始)

おやおや……そんなにもだえてしまう程でしたか？
これは、耳かきし終わった後がどうなるか、楽しみですね……。

……気になるでしょう？ 今まで味わったことのない感覚が、耳の中に広がっているでしょうから……。

折角ですから、貴方の耳を掻いているこれが、どういったものなのか教えてあげます。
実は、耳かき棒のさじの部分に、微弱な電流が発生していて、それが耳をなぞることで、内側を通る迷走神経に直接電気信号が伝わる……という仕組みになっているのです。それにより、さじが耳に触れた瞬間の快感が、何倍にも増幅されていく……。
これぞ、全く新しい発想で生まれた、快楽特化の耳かき……どうです？

……ふふっ。この期に及んでまだ『やりすぎ』という言葉が出てくるなんて……話になりませんね。
これを機に、貴方の勘違いを正してあげましょう。
耳かきは、耳の健康を保つためのものではない。
どれだけ気持ちよくなれるか。それで耳かきの価値が決まるのです。

先代の社長は、それを受け入れなかったから失脚した。これは覆しようのない事実。
いつまでも健康志向の耳かき棒ばかり売って、経営が傾きかけて……。

今の方針に切り替えた結果、売り上げが大きく上がり、こうして話題にもなったのですから。
どちらが正しいかなんて、火を見るよりも明らかでしょう。

……あはは！ "耳かきへの冒とく"とは、ずいぶんな言い草ですね。
その冒とくに、今にも溺れそうになっているのは、どこの誰だと言うのです？

……ああ、そういえば、まだ試していない機能があるんでした。
(耳元で囁く)
実は、電流の強さを、切り替えることができるんです。ちなみに今までの設定は、一番弱いほう。
(囁き終わり)

では、そちらはもう片方のお耳で、試してみるとしましょうか……。

(反対側の耳を向ける)

……あらあら、ずいぶん弱々しくなってしまいましたね？
終わらせてほしいのですか？ でも、こっちも耳垢が残っています。“お耳の健康”のためには、ちゃーんと両方とも綺麗にしないといけませんよねぇ？
ほら、始めますよ……♪

(耳かき開始)

おお……先ほどまでとは、目に見えて反応が変わりましたね。ひと掻きごとに、貴方の喜びがひしひしと伝わってきますよ？
素晴らしい。私の思い描く理想の耳かきに、大きく近づいていると言っていいでしょう。

耳かきは、いくら気持ちよくてもよい。逆に言えば、どれだけ気持ちのいい耳かき棒を作ろうとも、100%完成とはならないということ。
わかりますか？ 耳かきに『やりすぎ』などというものは存在しないのです。そろそろ、頭の固い貴方でも、私の哲学を理解できてくる頃合いかと。
耳かき依存の若者が増えているというのも、私に言わせれば、大いに結構。
このストレス社会において、顧客が求めているものは、嫌なことを何もかも忘れさせてくれる存在なのですから。

どれ……改めて、聞かせていただきましょうか。
この耳かきは、いかがですか？

……ふふっ。そうですか。では、貴方の望みを叶えてあげるとしましょう。
貴方には今日付けで、製品開発部門への異動を命じます。

そこで貴方にしてもらう業務は、一つだけ。
開発中の試作品のモニター役になっていただきます。

モニターと言っても、特に意見や感想を述べる必要もありません。貴方は、業務時間中ずっと、お耳を貸してくれるだけでいい。
耳かき中の貴方の反応を見ながら、試作品の調整を行い、修正したものでまた耳かきをして……毎日その繰り返しです。
よろしいですか？

……ああ、失礼。
今の貴方には、少し難しい話をしてしまいましたね。
つまり……

(耳元で囁く)
明日から、い～っぱい耳かきしてもらえます。嬉しいでしょう？
(囁き終わり)

……そう！ それは良かった。
私としても大助かりです。前任のモニターが壊れてしまって、1人補充しないといけないところでしたから……。


ん……？ なんだか、反応が鈍くなっているような……。
まさか、もうこの感触に慣れてしまっ……いや、もしかして……気絶しているの？
……ふふ、ふふふ！
これはもう、文句のつけようの無い出来……急いで商品化するよう、伝えないと。

貴方たちもお疲れ様。悪いけど、もうひと仕事お願い。
これを地下に運んでおいて。逃げられないようしっかりとくくりつけた状態で。うん、お願いね。

・台本（ゆるボイ！）
耳かき棒メーカーの社長に堕とされる
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
くるっくー