この神社に人は滅多に来ない。
とても静かで、穏やかに時が流れる、そんな場所。

そんな静かな神社にも、神様はいる。
神様は、ちゃんと見守ってくれている。

この少年は、そんな神社にいた。
うとうとと、昼寝中な様子。

なぁお主（ぬし）、どうしてこんなところで寝ておるのじゃ？

おいお主よ。聞いておるのか。

起きよ。

起きよと言っておろうが！
(ﾍﾞｼｯ)

おはよう、お主よ。
すまんな。
そこで寝られていては邪魔なものでな。
少々荒っぽかったか？

じゃが、なかなか起きないお主が悪い。
反省せい。
(ﾍﾟｼｯ)

あぁ、もう良（よ）い。
そんなに必死に謝るな。
妾（わらわ）が何か悪いことをした気分になるじゃろうが。
まったく。困ったもんじゃ、人間とは。。

ん？妾か？
妾はこの神社の守り神じゃ。
人間は、『お狐様』、と呼ぶがの。

何をそんなに驚いておる。
ほれ、そこを早く退（ど）くのじゃ。
ここは妾の寝床じゃ。誰にも譲る気は無いぞ。

なんじゃ、そんな怪訝（けげん）そうにこちらを見よって。
妾の姿がそんなに珍しいか？

あぁ、なるほどの。
この尻尾か。
それならその反応も頷けるの。



で。
はよ。
退け、というのが分からんのか。
そろそろ怒るぞ。

よろしい。
まぁお主もその辺（へん）でゆっくりでもしておくが良いわ。
妾はもう寝るからの。
おやすみじゃ。


ん？なんじゃ騒がしいの。
帰りたければ勝手に帰れば良いじゃろうが。
それとも、妾への貢ぎ物でも持ってきておるのか？

え？
尻尾を触ってみたいじゃと？

ﾊｧ
お主な、そういうことは、我が身で考えてみてから尋ねることじゃ。
いきなり名も知らぬ輩（やから）に、おのが体を触られるのじゃぞ。
嫌に決まっておろうが。
この能無しめ。
少しは考えてから――
っておい！泣くな！軟弱者！
ちょっと貶（けな）しただけじゃろうが。
まったく。。

んあぁもう。
分かったから。
ほれ。尻尾じゃ。
触らせてやるから、もう泣くな。な？

ﾓﾌﾓﾌ

おい。もういいじゃろ。
お主のような坊やは早く自分の家にお帰り。
妾は眠いのじゃ。いつまでもお主の相手をしていられぬ。

ではな。
おやすみじゃ。

お、おい。お主。
はよ帰れというのが分からんのか。
いつまでそこにおる気じゃ。
いい加減に迷惑なのじゃが。

なに？
帰りたく、ない？
何故（なにゆえ）じゃ。
妾に申してみよ。

、、言いたくないことか？
それなら無理にとは言わん。
何か事情があるのじゃな。

お主よ。ならばゆっくりしていけ。
別に妾は狐であって鬼ではないのでな。
お主の気が済むまでここにいると良いわ。





ん？なんじゃ。
もう話す気になったのかの。
良いぞ。聞いてやろう。

ほう。
兄達がお主をいじめるのか。
何人兄弟なのじゃ？

よ、4人もか。
お主はその末っ子とな。しかも全員男ときた。
それは、いじめも、あるかもしれぬな。。
父母（ふぼ）はお主を助けてくれぬのか？

ﾎｯ
助けてくれるのか。
それは、良かったの。。

なに？
父母は共働きで、なかなか家にいないじゃと？
それで兄弟だけで留守番を？

ううむ。人間というのは自分より上の者がいないというだけですぐに調子に乗るからの。それに同調しやすいのも問題じゃな。
ひとたびその行為が正当化されたら、上の者がきちんと正してやらぬ限り、ずっとその行為は終わらないのじゃ。
まったく。面倒な生き物よの。人間とは。

まぁ。事情は分かった。
ここにいて良いぞ。好きな時に休んでいくと良い。
妾は心が広いからの。なにせ、神じゃからの。
このくらいの心のゆとりがなければ務まらぬわ。
もちろん貢ぎ物は欲しいがな。
はっはっはっ

ん？お主、どうした？
そんな顔をして。

あ、ありがとう、とな。
べ、別に、気にする事はない！
そんなに感謝される覚えはないぞ。

まったく。お主はよく分からぬ。
先程まで泣いていたと思ったら、もうそんな笑顔になっておる。不思議なやつじゃ。ほんとに。ふふ

なんじゃ。別にバカにした訳じゃないぞ。
人間との交流は久々なのでな。少し楽しくなってしまっただけじゃ。

な、なんじゃ。
何をニヤニヤしておる！
何がそんなに嬉しいんじゃ。

も、もう妾は寝るからな！
好きな時に帰るのじゃ。わかったな？
おやすみじゃ！

あぁー！お主はなんなんじゃもう！
悲しい顔で妾を見るな！

だあぁーわかったわかった。
一緒に寝てやる！
尻尾も触って良い！
これでいいか！
はよ来い。ここじゃ。


まったく、本当に、困った人間じゃな。ふふ

おやすみ。坊や。
今は何もかも全部忘れて、ゆっくりと眠るが良い。


zzZ

・台本（ゆるボイ！）
お狐様の昼寝場所
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
kaman_zora