あの日、君は、川を渡っていってしまった。

でも、今日だけは、君に会える。

七夕の夜に、奇跡は起きるの。

…おかえり…！
ぎゅーーー！！

好き…。
大好き…。
帰ってきてくれて、ありがとう…。(涙ながらに)

私
今日が来るのを、ずっとずっと待ってたよ…？

君のこと、ずっと待ってた。

今日しか、会えないから…。


…うん。
ありがとう。
いつも帰ってきてくれて。。

私は、君を迎えに行けないから…。
ごめんね…。

(ぐすん)

…あっ。
いけないいけない…！
せっかくキミが帰ってきてくれたんだもん！
泣いてばっかりじゃダメだよねっ！

今日はねっ、君の好きな料理をいっぱい作ったよ！
一緒に食べよっ？


…うん！！頑張ったのっ！
ほら上がって上がってっ？


…え？
部屋？

あ。
ち、ちょっと、汚いかな…。

ご、ごめんねっ？
君が来てくれるの、分かってたんだけどねっ！
どうしちゃったんだろ。あはは…。

すぐに片付けるからっ！
待っててねっ！


…え。
いいよ。
私が汚くしたんだし、私が――
あちょっと！勝手に…！


あ。
それ。。


う、うん…。
君と私の思い出の写真。。

毎日、支えにしてるの…。


し！
心配しないでっ！？

私！君がいなくたって、一人で頑張って生きていけるもんっ！

…君は、いないけど。

生きて。

いけるよ。。

…。


…ご飯、冷めちゃうから。さ。

先に、食べない…？


うん。
ありがと。


…いただきます。。


…って！あぁーー！
ダメダメっ！
食事は楽しいものなんだからっ！
君と一緒に、楽しまなきゃねっ！

いただきますっ！！

あむっ、あむっ

はふはふっ

ん〜！
美味ひい〜

この唐揚げ、過去一番に上手にできてるっ！

あ、そうだ。

ほら、君の好きな唐揚げだよ〜？

ほしい？


ふふっ
じゃああげるね〜
熱いから気をつけてねっ

はい、あ〜ん

どうどう？
美味しい？


…美味しい！？

よかったぁ〜

やっぱり2度揚げが良かったのかなぁ？
外はパリッてして、中はじゅわ〜ってなってるよねっ


…え？
もう1個？
ふふっ
いいよ〜？

はい、あ〜ん！


ふふふっ
気に入ってくれて嬉しいっ


えっ
もうご飯おかわり！？
まだ唐揚げ2個しか食べてないよね！？

君って、本当に昔からご飯大好きだよねっ。
ふふっ
ちょっと待ってて？
おかわりよそってくるね！

今日は、ちゃ〜んと5合炊いたから、
い〜っぱい、おかわりしてねっ！

去年は2合しか炊かなくて、ご飯なくなっちゃったからね〜
今年は完璧なのですよ〜
ふっふっふ〜(自慢げ)


はいっ！おかわりお待たせっ

たくさん食べてねっ！

唐揚げと、肉じゃがと、ポトフと、ポテトサラダと…

あれっ！？
ぶり大根はっ！？


(ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ…)

あ。

冷蔵庫の中に、材料入ってる…。

ごめんっ！！
作るの忘れてたっ…！！


…うん。
ありがと。
ごめんね？
来年は必ず作るから。。


…うんっ！
気合い入れて作るよっ！
楽しみにしててねっ

えーと、お魚系が無くなっちゃったけど！
改めてっ
いただきますっ！


(食事)


…ごちそうさまでしたっ！

ふぅ〜おなかいっぱ〜い

ぶり大根は作らなくて正解だったかもね

…。

あと。
10時間しかない…。

お風呂、一緒に入ろっ。


…あ。ごめん。
そうだよね。
今食べたばかりだし、
少し間を空けたいよね。

じゃあ。
ちょっと、お話し、、しよ…？


…うん。ありがと。

あの。。ね…？

最近ね。

君のことばっかり考えてたの。


…もう！笑わないでよっ！

君だってそうでしょ？


…だよね。よかった。。

でね…？

やっぱり、君のもとに行きたいって…思っちゃって…。

(焦りながら)あ、えと、もちろん、そんなのダメだって分かってるよ？
分かってるけど…。

その。
どうしても。。耐えられなくて…。

私…！
どうしたらいい…かな…。


…え。
なんで君が謝るの。


…違うよ！
君のせいなんかじゃない！

あんな事故、どうしようもなかった…！
誰も悪くなかったよ…！

それに！
君はこうして毎年七夕の夜に帰ってきてくれるっ！

川を…渡って、帰ってきてくれる…。

だから…。
誰のせいでもない…。

ただの。
私の
わがままなの。


…わがままだよ！

だって！
君は死んじゃったのに！
私は生きてるんだよ！？

生きてるくせに…！
死にたいなんて考えてるんだよ！？

私は…
君とずっと一緒にいたい。なんて
思っちゃ、いけないんだよ…

君の分まで、私は生きなきゃいけないの。
そうしなきゃ、君に顔向けなんてできないよ…。


…。

…考えすぎ、だよね…。

君に会える喜びだけ考えていれば良かったのに。

君に次会えるまでが、あまりに長すぎるから…。
君との時間が、あまりに短すぎるから…。
君との思い出が、忘れられないから…。
君に会うと、幸せすぎるから…。

だから…。
余計なことばかり考えちゃうの。

ごめんね。
こんな、わがままな私で。

本当に…
ごめんね…


…え。

君と一緒に…
行っても、いいの…？

君の分まで、生きなくても…

君のそばに、ずっといても…

いいの…？

(溢れる涙)

嬉しい…っ

私、ずっと、君の隣にいていいんだ…っ

ずっとずっと、君と愛し合って、いいんだ…っ

…こんなに嬉しいのに。
死ぬのは、ちょっと、怖い…。

この幸せが、全部なくなって、一人になっちゃいそうで…。

…ねぇ。

ぎゅーってして…？


…ありがとう。

絶対に。
離さないで…。

大好き。

大好きだから。。

このまま。

連れていって…。

君と、一緒なら…。
大丈夫。だから。

お願い…。

もっと。

もっと強く。

強く。
抱きしめて…。


…うん。

平気。

もう、怖くない。

ありがとう。


…ぶり大根。
向こうで作ってあげるね。


…ふふっ

楽しみ？

私も。

毎日、君と一緒にいられる生活が、すごく楽しみ。

ずっと、ずっと
幸せでいようね。


(翌朝、一人の女性が、部屋で亡くなっているのが見つかった。)

・台本（ゆるボイ！）
七夕の夜の幸せ
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
kaman_zora