一人になりたいとき、私は、いつも海に来ていた。
さざなみの音。
心が落ち着く。
いつものお気に入りの場所。

今日も。
ここへ来る。

独りに、なってしまったから。


以下、あらすじです。

母を事故で亡くし、足の向くままにいつもの海岸に、独り、やってきた。
すると、海が語りかけてきた。
雑談をする中で、母の話題が出ると、涙が溢れる。
「母の元に行きたい」
そう願った言葉は、海に届き。
貴方を安らかな死へと導く。

おかえりなさい。

久しぶりね。

どうしたの？
ちょっと元気なさそうね？


そんなにキョロキョロして、何かあったの？


誰って。。

あ。私のこと？

そうよね。
話をしたのは初めてかしら。

でも、私は貴方のことをずっと見てきたのよ。


ふふっ
分からないかな？

私はね、貴方の目の前にいる「海」よ。


海が話すなんて信じられない？

そうね。普段はただ、見守っているわ。

けれど、今日の貴方は、いつもと違いすぎていたもの。
何か、深い闇を抱えているように見えたの。

だから、私、お話しなきゃと思って。
声をかけたのよ。


…何があったのかは、話さなくてもいいの。

ただ。
ちょっと、雑談でもしましょ。


そうねぇ。貴方、海は好き？


好き？

やった。嬉しいわ。

貴方ならそう答えてくれると思った…！


なんでって、それは、貴方がときどき一人でここに来るからよ。
だから、貴方は私のこと好きなのかな、って思ってたの。

…いつも貴方を見ていたわ。

いつかお話してみたいと思ってた。

でね。
今、こうしてお話しできていて、私、とっても嬉しいわ。

貴方は知らないかもしれないけれど、昔の貴方は本当にちっちゃかったのよ。

お父さんとお母さんに連れられて、初めてここに来たとき、あなたの目はとっても輝いていたわ。


…え。
貴方、泣いてるの…？

どうしたの…？

どうして…泣いて…

私、何か貴方を傷つけるようなことを言ってしまったのかな。。


え。。
お母さんを事故で亡くした…？

…。

そう。
なのね。。

ごめんなさい。
つらい記憶を思い出させてしまって。


…どう見ても、今の貴方は大丈夫じゃないわ。

無理しないで。。

笑おうとしないで。。

たくさん、泣いて…？


…うん…。
そうだよね…。
泣いたって、お母さんは、帰って、来ないよね…。
ごめんなさい。。

…。

なにか。

私に出来ることは、ないかな…？

私、もう、苦しむ貴方を見ていられないの…。


え。。
お母さんの所に連れて行って、って…？

…貴方は、それでいいの…？

自分の言っていることの意味、分かっているのよね…？


…そっか。。

そんなに…。

つらかったのね…。



…私の元に、おいで。

ぎゅっ てしてあげる。

貴方がつらい気持ちを、私が受け止めてあげる。


私は、貴方のお母さんではないけれど。
貴方を愛しているわ。

私は、全ての生物の生みの親。

みんなのお母さんなのよ。

…貴方のことだって、ずっと、見てきたのよ。


だから。安心して。

おいで…？


(波の音に近付く)


ぎゅっ。


やっと。貴方に触れられる。

よしよし…。

よく頑張ったね。


…大丈夫。
なんにも怖いことなんてないよ。

私に、体をあずけて…？


…ありがとう。

ゆっくり。
目を。
閉じて。

そのまま。
私の声だけに集中して…。


…いい子ね。


このまま。

静かに眠れるように。

子守唄を歌ってあげようね。

ただのさざなみの音に聞こえちゃうかもしれないけどね。ふふふっ

♪ね〜むれ〜 ね〜むれ〜 は〜は〜の〜む〜ね〜に〜
ね〜むれ〜 ね〜むれ〜 は〜は〜の〜て〜に〜♪(シューベルトの子守唄)
(途中からフェードアウトし、さざなみの音に変わる)


(さざなみの音だけが響く)

・台本（ゆるボイ！）
母なる海とともに。【海の擬人化台本】
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
kaman_zora