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人嫌いな森の魔女
written by 華ノ眼 葉
  • ファンタジー
公開日2021年07月05日 21:30 更新日2021年07月05日 19:44
文字数
2020文字(約 6分44秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
森の奥に住む気難しい魔女
視聴者役柄
魔女に興味のある村人
場所
深い森の中
あらすじ
とある森の奥には、恐ろしい魔女が住んでいるという。
そんな魔女のもとを訪ねたあなた(聞き手)。
人間嫌いな彼女はあなたを鬱陶しく思うが、あなたの家族の話をきっかけに心を開いていく。
本編
(森の中。鳥の鳴く声や土を踏みしめ歩く音などを入れてもいいかもしれない)
(扉をノックする音)

帰ってちょうだい。
度胸試しのつもりなら、近くに毒蛇の巣があるわ。捕まえてみたらどう?
噛まれたとして、私が助ける義理はないけれど。

(扉をノックする音)

(ため息)しつこい人間は総じて嫌われるものよ。
ある程度、分別ふんべつのついた大人ならそれくらい分かるでしょう。

(扉をノックする音)

(より大きなため息)

(扉を開ける音)

いい加減にして。
されて嫌なことをするなってあなたの両親は教えなかった?
クマだって私を恐れて寄り付かないっていうのに、あなた一体どういう神経をしているの?

……この写真がどうしたっていうのよ。
だいぶ古ぼけているし、これは…焦げた跡?
あいにくだけど、人探しをするようなお優しい性格はしていないの。

『私を探しに』……?
(鼻で笑う)魔女狩りでもするって言うの?
なら、この森ごと焼き払ってみなさい。たとえそうされても、私は生き延びてみせるから。

(ため息)何でもいいわ。話だけは聞いてあげる。二度とここに来ないと誓うのならね。
それから、置いてあるものを勝手に触らないように。
目を離した隙に透明人間にでもなられたら、(ため息)たまったものじゃないわ…。


そのあたり、適当に座りなさい。
…で、私が時間を割くに値するような話なんでしょうね?
いいから。もったいぶるのはやめて、早く話して。あなたが私の家にいるこの状況も不快なの。

さっきの写真…だから、これがどうかした?
ただの古い写真じゃない。なんてことないわ。
写っているのだって……ただの教会でしょう。何も引っかかることなんてない。

『ただの教会じゃない』……?
何、悪魔崇拝でもしているっていうの?
(ため息)探偵の真似でもしたいなら、よそでやって。
話を聞いてほしいだなんて言っておいて、やっていることはほとんど尋問じゃない。
この教会が何なのか、はっきり言ってみたらどう?


……どうしてその名前を?
少なくとも、あなたみたいな人間が知っているはずない。
その名前を呼ばれることなんて、もうないと思ってたのに……
教えなさい。一体……誰から聞いたの?

そう、おばあさんから聞いたのね。
ねえ。ひょっとして、あなたのおばあさん、左手に……そうなの。じゃあ、間違いない。
(ため息)それなら、もう隠し事はできないわ。
何というか、実を言うと……私は彼女の子どもなの。血は繋がっていなかったけれど。
私がまだ赤ん坊だった頃、捨てられていた私を抱き上げて、名前をつけてくれた。
それから……何年も、私を本当の子どもみたいに育ててくれた。
この…教会でね。

彼女の一人娘…あなたのお母さんは、私を拾ったときにはもう家を出ていたみたいで。
結局、顔を合わせることも、3人で一緒にお茶をすることもなかったわ。
(ため息)きっと……私のことを恨んでいるでしょうね。

どうしてって……その、私が、おばあさんの…私の唯一の家族の命を奪ってしまったのよ?
そう、この手で…
恨まれても文句は言えないわ。

……そうね。あなたには、私のしたことを知る権利がある。
懺悔して許されるわけじゃないけど、せめてもの償いになれば、それでいい。

幼いころの私は、まだ魔法というものが何か分かっていなかった。
素敵で楽しいおもちゃ、くらいにしか思っていなかった。
実際、魔法を使うのは…慣れれば、まあそれなりに面白かったわ。
でも、その価値を知らない者が強大な力を持てば……

…ごめんなさい。細かいことは、よく覚えてないの。
ひょっとすると、思い出したくないだけなのかもしれないけれど。
覚えてるのは……誰か、よく知らない人がおばあさんに乱暴しようとして、それを止めるために、魔法を使って…
気づいたときには、教会も、何もかもが燃えて……
私、わけが分からなくなって、そこから逃げ出してしまった。

(次第に涙がこみあげてくる)そんなつもりじゃなかったの。ただ、おばあさんを助けてあげたくて……
ごめんなさい、本当にごめんなさい……

…え?
『違う』って、何が違うの?
『亡くなったのは、半年前』……?

じゃ、じゃああの時、彼女は無事だったの?
そう…そうなのね。
ここに住むようになってから……いえ、その前からも。ずっと悲しみと罪を背負っていた。
でも……そう。彼女は…母さんは、ちゃんと生きていたのね。
よかった、本当によかった……

ありがとう。あなたが伝えに来てくれなかったら、きっと私は自分を呪っていたわ。
比喩かもしれないし、本当に呪いをかけてしまったかもしれないけど。
ふふ、冗談は嫌いじゃないわ。意外?

ええ、この写真は大切にするわ。
おばあさんの…彼女との思い出と一緒にして。
人間は…私を恐れたり、軽蔑したりするから嫌いだけど、あなたは別。
(嬉しそうに)だって、そのお節介なところがよく似てるんだもの。
辺鄙へんぴなところだけど、来たくなったらいつでもどうぞ。歓迎するわ。


…あら、もう帰るの?
よく気をつけてちょうだいね。毒蛇の巣があるって言ったのは嘘だけど、それでも危ないから。
あっ…もしよければ、おばあさんのお墓を教えてもらえる?
ええ。話してあげたいことがたくさんあるの。

今日は本当にありがとう。
またいつか……ね。

(扉の閉まる音)
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
人嫌いな森の魔女
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
華ノ眼 葉
ライター情報
不定期的に台本を上げます。よろしくお願いします。
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