街でたった一人の魔法少女として孤独に戦い続ける年下幼馴染と、それを支え続けているあなた。あなたは魔法少女としての待遇や日々の生活に不満を漏らす幼馴染に「代われるなら代わってあげたい」と同情を示す。すると、彼女はそれが本心かどうか確かめるためと称してあなたに自身のステッキで変身を試みさせるが…

【夜、とある路地裏にて】

あー、つっかれたー！
おにーちゃんもおつかれ！

ううん、大丈夫
体力は使ったけど、そんな攻撃当てられたわけじゃないから
多分どこも怪我はしてないと思う
でも、今日の敵は普通に街中に出てきたから倒すのめっちゃむずかった
しかもそこそこ人通りある場所で、かなり目立っちゃったし……恥ずかし過ぎて吐きそうだったよ

……っていうか、今更だけどおにーちゃんはこんな時間に外出てておっけーなの？

……ふぅーん、そうなんだ
いいなー、放任主義の家って
うちは別に門限とかないけど、こんな夜遅くまで外出歩いてたら、帰ってからお母さんにこっぴどく叱られて、次の日もずーっと機嫌悪いままだからめっちゃ凹むんだよね
今日ももう玄関で鬼の形相して待ち構えてるんだろうな……はぁ
街の平和を守るために戦ってこの仕打ちって本当、魔法少女が減るわけだわ

……うん
少なくともこの地域一帯では、あたし以外に魔法少女いないらしいし
そりゃ、目立つわ、怪我するわ、戦闘後は疲労で何もできなくなるわ、なんて何重にもデメリットはあるくせに、得られるものは「街の平和」と「人々の笑顔」だけだからね
あたし自身はお金とか何か報酬が貰えるわけでもないから、何のメリットもないし
こんなんじゃモチベーションも下がる一方だよ

……え？
あー、今はまだ意識もあって普通に立ってられるし、ギリギリ大丈夫って感じかな
最近は敵との戦闘も慣れてきて、早めに終わらせられるようになったしね

……いや、便利なわけないじゃん！
どれだけ怪我したり疲れても基本一日で回復するって言ったって、寝るまで痛みとか体の怠さは全部ちゃんと溜まるんだよ？
朝方に敵が現れた日なんて、その後もう疲れで何もできないし
毎回そうだけど、戦った後は体調地獄過ぎて本当にきついの
平日だったら学校休まなきゃいけなくなるし、マジで最悪

こんなの分かってたら、魔法少女になんてなってなかったよ…
あー、今からでも誰か代わってくれないかな〜
システム上は、このステッキ使えば誰でも魔法少女になって戦えるらしいし
もうちょっと役割分担してもいいと思うんだよね
だってこれじゃ、あたしだけがまるで使い捨ての駒にされてるみたいで腑に落ちないもん
来る日も来る日も敵と戦って、周りから痛いコスプレイヤーみたいな目で見られて、身体も傷ついて…
んで怪我してもすぐに回復するからさっさと次の敵倒しに行けって言われるし

あの羽生えた猫もどきは「あなた達の活動を最大限サポートするために、身体の構造をちょっと変えてるだけ」なんて言い訳してたけどさぁ
やってることただの人体改造だからね
はぁ…

……なんかごめん
ちょっと愚痴が過ぎちゃった

あはは、ありがと
お金とかそういうメリットはないけど、おにーちゃんがこうやってあたしを支えてくれて、いつも応援してくれるだけで今は十分だよ
元々善意で始めたことだから

本当はなるべく他人に正体を知られちゃいけないけど、小さい頃から仲良しのおにーちゃんなら信頼できるしね
だって、ほぼ毎回戦いがある度にあたしのこと心配して駆けつけてくれて、怪我の応急処置までしてくれる人なんて他にいないもん
初めてあたしが戦ってる所に出くわした時から、ずーっと誰にも言わないでいてくれてるのもかなりポイント高いかな〜
えへへ……

おにーちゃんがあたしを助けてくれるきっかけを作ったんだし、あの時戦いが終わって無理して帰らずに、その場で気絶したのは正解だったってことだね！
ま、それでも戦闘後疲労溜まって急に意識飛ぶのは本当に勘弁してほしいけど

……代われるものなら代わってあげたいって？
えー？それ本当に言ってますかー？
なんか全然心がこもってる感じしなかったけどなー

へー、本心で言ってるんだ
じゃあさ、ちょっと変身してみてよ
このステッキ使わせてあげるから
……さっき言ったじゃん、これ使えば誰でも魔法少女になれるって

……大丈夫、大丈夫！
ちょっとくらいならあの猫もどきも怒ったりしないって！
おにーちゃんがあたしの秘密を守ってくれてる分、あたしだっておにーちゃんがこっそり魔法少女ごっこしてました、なんて絶対に言いふらしたりしないし！
ははっ
ほら、あっちの草陰の方行こ！




……うん、持ち方はそれであってるよ
あとは、自分の身体に魔法のオーラを注ぐイメージで、そのステッキを振りかざすだけ！

え？あー、掛け声ね…
本当は色々あるらしいけど、一々言うのも面倒くさいし恥ずかしいからあたしは毎回何も言ってないよ
おにーちゃんも別に本当の魔法少女じゃないんだから、「変身！」くらいでいいんじゃない？
大事なのは、自分が魔法少女になってるっていうイメージをすることだよ！
はい、頑張って！

[SE：あなたが変身に成功する]

おおー！
大成功！
おにーちゃんすごーい！

しかも身体も文字通りちゃんと少女になってるし……ステッキ使えば誰でも、ってのは本当だったんだ！
なんか感動するなぁ…

うん？
あー、解除はさっきと同じで、普通の人間に戻るイメージをしながらステッキを振りかざすだけだよ

うん、そうそう
はーい、元通り
いや〜、おにーちゃんの「あたしと代わってあげたい」って言葉は嘘じゃなかったんだね！
ありがとう、おにーちゃん！

……どうしたの？
身体が戻らない？
え？ちゃんと戻ってるじゃん
今は普通の格好になってるでしょ

あー……うん、それは無理だよ
だっておにーちゃん、もう魔法少女になっちゃったんだから
魔法少女なのに変身前は男、なんておかしいじゃん
この先、おにーちゃんはずっと魔法少女として女の子の身体のまま生きていくことになるんだよ

ふふっ、嘘なんかついてないよ
さっき言ったじゃん、魔法少女になったたら体改造されるって
あたしの代わりに魔法少女になってあげたいって願いが叶ったんだから、嬉しいでしょ？

……はぁ、なんでそこでキレるかなぁ
キレたいのはこっちだよ

おにーちゃん、先週あたしが街中に現れた敵と戦ってる時、その場にいたよね？
それも、あたしの知らない女の人と一緒に
まあそれは一旦置いておくとして、問題はその時のおにーちゃんの態度だよ

あたし、戦闘中におにーちゃんに気づいて目があったじゃん？
その時、自分がどうしたか覚えてる？

……慌てて目逸して、他人のふりしたんだよ
しかも、「うわ何あれ、ダッサw」とか言ってる女に合わせてあたしのこと馬鹿にしてさぁ…

あたしそれで、目の前真っ暗になって戦闘どころじゃなくなっちゃったんだよね
敵に不意打ち喰らって目が覚めたからその場は良かったけど……信頼してた人を失った感じはずっと続いてて

あ、いっつもおにーちゃんに相当負担かけてたんだ…
あたしって、誰のことも頼っちゃいけないんだ…って思い知らされたよ

ふふ……今更否定しても謝っても何も変わらないって
もし普通の女の子以外の人とか動物がステッキ使ったらどうなるのか、あたしちゃんと確認したんだよ
そしたら、変身はできるけどその後ずっと少女の姿になっちゃう、ってあの猫もどきが言ってたんだ

それ聞いた瞬間、これだ！って思ったよ

おにーちゃん、あたしもう一人じゃ無理なの
あなたがいないと、あなたがあたしだけをむいていてくれないと、あたしはっ……生きていけないの

だから、おにーちゃんには女の子になってもらうことにしたんだ
あ、そうだ
もうおにーちゃんじゃなくておねーちゃんって呼ばなきゃね

最初は右も左も分からなくて戦うどころじゃないかもだけど、あたしがしっかりレクチャーしてあげるから安心してね

今日中にあの猫もどきに言って、おねーちゃん用のステッキも用意してもらうよ

やっと孤独な戦いの日々から解放されるんだ…

ふふっ……
あたしよりも華奢で可愛い女の子になっちゃって…
その姿、とっても似合ってるよ

これからは、仲良し魔法少女コンビとして、頑張っていこうね
おねーちゃん♡


――ＥＮＤ――

・台本（ゆるボイ！）
【ヤンデレ】魔法少女な年下幼馴染に、できることなら代わってあげたいと言ったら…
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
Cybistar