社会人VtuberとそのひとのことがVtuberになる前から好きだった女の子の話。

（夜、職場にて先輩が退勤するところを見計らってあなたは声をかけます）
お疲れ様です、先輩。はい、そうです、新入社員の前川です。
……いえ、今日は仕事のことで困ったことがあったわけじゃなくて……わからないことは先輩に聞けば優しく教えてくれますから。いつもお世話になってます。

そうですね、それで何の話かというと……もう皆さん帰りましたよね？　よし、じゃあ言いますね。……先輩、Vtuberですよね……？　それも企業の。

……固まっちゃってますね、大丈夫ですか、先輩。大丈夫ですよ、先輩。他のひとに話を聞かれないように気を付けてる時点で少し安心できませんか？　話をするためにもまずは落ち着いてください。

落ち着きました……？　なら良かったです。
なんで気付いてることをバラしたのか……それは、元々はこっそり楽しむつもりだったんです。あ、楽しむっていうのは純粋な気持ちでですよ？　可愛いなぁとかかっこいいなぁとか。
配信で新入社員……わたしの話をしてくれたりするのも嬉しかったんですけど、でももっと近づきたいなって我慢できなくなって……。

あっ、そうだ、お近づきのしるしに……今月投げる予定だったスパチャのぶんのお金です。受け取ってください！　YouTubeに持っていかれるはずだったぶんも先輩がぜんぶもらってください。
……ふふ、どうしよう、先輩に直接貢いじゃった、きゃー！

受け取れないじゃないです。受け取らないならYouTubeで投げるだけですし。

ああ、先輩のことに気づいたのは最近じゃないですよ。先輩の初配信の切り抜き動画が出てすぐに気付いたのでほとんど最初の頃からですね。声で間違いないと思って、話している内容とか話し方で絶対そうだって思って。
……え？　なんでそんなに先輩のことを知ってるのかってそんなの、Vtuberになる前から先輩のことが好きだったからに決まってるじゃないですか。

高校生の頃に先輩のことを知って一目惚れして、先輩のことならなんでも知ろうとして、就職先も先輩がいるからここにして、一緒にいれる時間を増やしたくて自分もVtuberになろうとしたりもして。……そのときは最終面接で先輩が好きって言い過ぎたからかお祈りされましたけど。

そんな調子なのでやっぱり配信を観てると焼き餅も焼いちゃって、先輩のことを燃やしちゃいたくもなるんです。みんな燃やせる過去のひとつやふたつくらいありますよね……？
あ、でも安心してください。もし炎上して先輩がVtuberを引退しないといけなくなっても、その影響で職場でも居心地が悪くなったり心の余裕がなくなってこの仕事まで失ったりしてしまってもそのときはわたしが先輩のことを養いますから。
わたしももう社会人です。自分の言動には責任を持てます。

あっ、違うんです！　脅したいわけじゃなくて……全然上手く話せないですね。舞い上がって、落ち着かないといけなかったのはわたしだったのかも。
……でも、ずるをしてでも先輩に近づきたいのは本心です。好きだから。好きだったんです、昔からずっと。

だから、わたしと付き合ってもらえませんか。……こんなことを言うと自惚れてると思われるかもしれないですけど、先輩、わたしのこと可愛いと思ってくれてますよね……？

わたし、先輩の好みに合わせようと思って髪も黒髪のショートにしてズボンじゃなくてスカートを穿くようにしたんです。
中身もきっと先輩好みになります。これからも先輩のことだけ見続けますし、処女ですけどめんどくさくならないように気を付けますし、どんな先輩のことも愛せる自信だってあります。
だから、わたしのぜんぶをあげるので先輩をくれませんか。
大好きすぎて、一方的でめちゃくちゃなことはわかっててももう止まれないんです。もうどうしていいか……。

「でもそれこそバレたら炎上するんじゃないのか」、ですか？　でも、そこは妹だとか、いとこで妹みたいな存在だとか上手く……先輩、妹が欲しいって言ってましたよね？　わたし知ってますよ。
それに、付き合うのが嫌なわけじゃなさそうですし……そうです、1回2回くらいデートしてそれがバレたとしてもなんとでもなるはずです。必要ならわたしがぜんぶ悪かったんですってファンのひとに謝罪しますから。だから……。

……そこまで言われたら断れないってことは、付き合えるってことですか……？　嬉しいです、先輩。夢なんじゃないかって思うくらい。

あらためて、これからよろしくお願いしますね、お兄ちゃん先輩。

・台本（ゆるボイ！）
Vtuberが身バレして妹みたいな存在ができる話
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
白上