（工事現場の下を通りがかった際に、彼氏の遙か頭上から鉄骨が降ってきました。あのままいけば直撃だと思われましたが、そこで世界は静止します。動けるのはあなただけで、彼氏も話すことができるだけです。また世界が動き出せば彼氏が死んでしまうと思っているのであなたは泣いています。最初、彼氏は状況を理解していません。あなたが急に泣き出したと思っています）

（泣きながら）
……うん、違うよ、目にゴミが入ったんじゃない。……なんでもない。なんでもないよ。…………そんなにどうしたのって聞かないでよ…………だって、この後君が死んじゃうんだよ……？

……鉄骨（てっこつ）がね、君に落ちてくるの。君に落ちてきてたのに、空中でずっと止まってるの。……止まってるのはそれだけじゃなくて、私達以外ぜんぶが止まってるみたい。……どうしてかはわからないけど。

……君も口しか動かせないの？
　
（鉄骨の落下地点からずらすために彼氏の腕を掴んで引っ張ります）
……だったら……痛かったらごめんね、引っ張るね。……ん、んんっ。……なんで動かないの？　今しかないのに。私にしか助けられないのに……っ。

どうしよう、どうしよう、どうしよう……っ！　……落ち着いてって、君はどうしてそんなに落ち着いてるの？　死ぬのが怖くないの……？

……死ぬんだなって納得しちゃったら逆に落ち着いちゃったとか、わかんないよ。……それに、私は納得してないから。

……救急車を呼ぶの？　わかった、呼ぶね…………だめ、繋がらない。やっぱり私達以外の世界が止まってるんだ。……え？　呼ぶのは鉄骨が落ちてきてから……？　だめだよ、それじゃ遅すぎるよ。

……落ちてきてる最中（さいちゅう）の鉄骨に何かをぶつけるとかして、軌道（きどう）を変えれば……ううん、君と鉄骨の間に、何か衝撃を殺せるものを……。

……？　石を拾うの？　石じゃどうにもできないよ……？　……あれ、動かせない。……どの石も、接着剤（せっちゃくざい）でくっつけられたみたいになってる……。……これじゃ君を助けられない……。

……あ……。それなら、私が覆（おお）い被（かぶ）さって君を守るから。そうすれば助けられるでしょ……？

……いいよ、もし君を助けられなくてもここで一緒に死ねるならいい。君が死んじゃうなら、もう生きてたくないよ。

（すがるように抱きついて）
……やだ、死なないで。私をひとりにしないで……。嫌（いや）……抱きついたままもう離れないもん。絶対に離さない。
　
（打つ手がなくなってキスをします）
……そうだ、そうだよ、こんな奇跡が起こるなら、キスしたら君を縛（しば）りつけてる時間の魔法がとけて……ちゅ。
……どう？　体動く……？　……なんで、なんで動かないの……っ？
　
（もういいと言われて）
……っ、もうよくないっ。絶対に助けるんだから……。やだ、一緒に帰るのっ。ずっと一緒にいるの……っ！

……どうして君がこんな目に遭わないといけないの……？　どうして……？　……こんな、時間が止まっても君を助けられないなんて、そんな残酷なこと。

……お別れなんて言わない。君は、私と幸せにならなきゃいけないんだよ……？　こんなところで死んじゃだめなんだよ……？

（彼氏の言葉を聞き）
…………確かに、時間が止まってる時点で、もう私達の理解と常識を超えてるから、何が起こってもおかしくないよ？　……私だけが自由に動ける意味……？　……君と、私の頭のなかだけは神様にだって自由にできない……。

……私が、君に生きててほしいって強く願ったら……君も、生きたいって強く願えば……そっか、私が、死なないでってすごくしつこかったから……生きなきゃって思ってくれて、生きる方法を考えてくれたんだね。

（安心したように）
……うん、わかった。私達、諦めが悪いもんね。絶対に一緒に帰ろう……一緒に生きようね。

（行動でも気持ちを示すべくキスをします）
……言葉だけじゃなくて……ん……ちゅ。……これでもう大丈夫。君は死なないよ。

（少しずつ彼氏から後ずさっていく）
大丈夫。鉄骨は君に当たらない。君は、私達の思いは、こんな理不尽なことなんかに負けたりしない。

……不思議だね、止まった時間がまた動き出すんだってわかる。いつまでもこんなとこでいられないもんね。……さあ、一緒に帰ろう……？

（時間が動き出し、鉄骨が落下していくのを見て息をのむ）
…………あ……うっ、

・台本（ゆるボイ！）
時が止まる、僕はここでいなくなる？
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
白上