不慮の事故で両親を失くし、二人きりになってしまった姉弟。その後は引き取り先の義理の親と反りが合わず、姉弟はそれぞれ別々の時期に家を飛び出し、姉はバウンティハンター、弟は賞金首としての人生を歩み始め、二人は生き別れることとなった。月日が流れ、とある酒場にてバウンティハンターの女ガンマンが賞金首の集団と銃撃戦をしていた。賞金首達は為すすべもなく倒されたが、バウンティハンターは何故か最後の一人を殺さず、自分の弟だと言い出して…

【とある酒場】

[SE：ガンマンと賞金首が銃を撃ち合う]

……おい、まだ2、3人隠れてんだろ
そのままカウンターの裏でやり過ごそうってつもりか？
…今大人しく武器を捨てて投降すれば、命までは取らないと約束する
5秒やるから、その間にとっとと出てこい

5、4、3、2…

[SE：賞金首がガンマンに発砲する]

おっと！
随分好戦的だな
それがお前らの出した答えか？

………

よーし、わかった
それじゃあ、遠慮なくやらせてもらうとするか…

[SE：再度、撃ち合いをする]

…動くな！

悪あがきはよせ
残りはもうお前一人だ

他の奴等みたいになりたくなかったら、大人しく武器を捨てて降参しろ
言っておくが、三度目はないからな

…お、おい！

………

……あっぶねぇ
何の躊躇いもせず、いきなり自分の頭に拳銃突きつけやがって…
お前を取り押さえるのがあと0.5秒でも遅かったら、間に合わずに撃たせていた所だったぞ

うるさいな、静かにしてろ！
お前は他の賞金首共とは違うんだ
絶対に死なせたりなんかしない

……あー、不正解だ
全っ然違う
お前を生け捕りにして保安局に引き渡しても、貰える懸賞金なんてたかが知れてるさ

お前らからは、アタシが所構わず賞金首を狙って回る、拝金主義のバウンティハンターに見えるのかもしれないが…

金なんて所詮生きるための道具に過ぎない
アタシにとって何よりも大切なのは、家族だ

アタシには弟が１人いてな
昔は両親と4人で暮らしてたのさ
ところが、アタシが10歳で弟が4歳の時に両親が交通事故で二人とも死んじまったんだ

後からわかったんだが、その事故っていうのは父さんの知り合いの男が仕組んでたみたいでな
なんでも、借金の返済を巡って揉めてたらしい
幸い、アタシと弟は家で留守番をしてたんで、巻き込まれずに済んだんだが

とはいえ両親が急にいなくなったんで、親戚のつてでアタシ達は他の家に引き取られることになったんだ
ただ、……引き取った家の親父は、こっちが理解してないと思って周りに隠れてしょっちゅう犯罪まがいのセクハラかましてくるロリコンの変態野郎でな
義理の母親に言っても聞く耳を持たないし、アタシはどうしてもそいつと離れたくてわざと窃盗やら器物損壊やら色々と悪事を働きまくったのさ

お前の親はどうだった？自分を愛してくれる優しい両親だったか？

……ははっ、だろうな
そんな良い親だったら、今頃賞金首になんかなってないよな

…アタシは教護院や少年院には何度も世話になったが、そこで他の不良共の話を聞いてるうちに賞金稼ぎ…つまり、バウンティハンターを目指そうと思ったんだ

これなら、今すぐにでも自立してあの家から抜け出せる、ってな
院で仲良くなった奴の紹介で、腕利きのハンターとも知り合えたし

まあ、当然思うようには行かなかったが……なんだかんだで今に至るって感じだ

だが、アタシには一つ心残りがあった
……弟をあの家に置いてきちまったことだ

自分のことで精一杯だったとはいえ、アタシは唯一の肉親を自分で見捨てたんだ
……後悔してもしきれなかったよ

一人前のハンターとして活動できるようになってから、アタシは必死になって弟を探した
時間はかかったが、最近ついに見つけ出したのさ

それが……お前だ

ふっ……嘘なんかつくわけないだろ？
義理の両親、家出した姉、残された弟…
お前だって、今の話で思い当たる節がいくつもあった筈だ
アタシが家を出た時、お前は確かまだ8歳だったか…
幼い子供とはいえ、その年ならずっと一緒に過ごしていた姉の顔ぐらい憶えてるだろ？

ほら…もっと近くでアタシのことをよく見てくれ
…顔を逸らすな、アタシは真剣に言ってるんだぞ

………

はぁ〜……意地っ張りな奴だ
それじゃあ、アタシしか知らないことでも教えてやろうか？
お前、右手首の辺りに火傷のような痕があるよな？
…そう、そのちょっと白くなってる所だ
それはな、お前が6歳の時に家の台所でこっそり火遊びをしようとしてついた傷なんだ
お前の叫び声を聞いたアタシが慌てて飛んできて治療したから、それくらいの怪我で済んだんだぞ
どうだ、これでもまだアタシの言う事が嘘だと思うか？

……そうかそうか！
わかってくれたか！
やっとお姉ちゃんのことを思い出してくれたんだな！

嬉しい……嬉しいよ！
大変だったんだぞ、お前を見つけ出すまで
なにせ名前は変わってるし、成長して見た目も子供の時とはまるで別人になってるんだからな
…まあ、アタシもハンターの師匠に弟子入りした時に改名させられたから、そこはお互い様だけど

……ん？
あー、なんか師匠が「ハンターとして生きていくなら、過去との縁を自ら全て断ち切るくらいの覚悟を見せろ」って言ってきたんだよ
勿論、アタシが弟と縁を切るなんて天地がひっくり返っても有り得ないけどな

それにしても、お前もアタシと同じように身一つであの家を飛び出していたのには驚いたよ
お前もあの親父が気に入らなかったのか？
やっぱり気の合う姉弟だな〜、アタシ達は
ははっ…

なぁ……昔みたいに、アタシのこと「お姉ちゃん」って呼んでくれ
そしたら、お前を押さえつけてるこの腕も離すからさ
「お姉ちゃん」って言って…

……〜〜っ！
そうだよ、お姉ちゃんだよ！
あんたのことが大好きで大好きでたまらない、弟思いのお姉ちゃんだよ！
ふーっ……もう、ずっと会えなくて寂しかったんだからね！
ふぅーっ……ふぅーっ……

……あ、ああ、すまん
気持ちが昂ぶって、思わず抱きしめちまってた
…ほら、もう手は離したよ

でも、今だけじゃなくてこれからはアタシのことをしっかり「お姉ちゃん」って呼ばないとダメだからな？

……どうした？
何が、っておいおい……
お前はこれからお姉ちゃんと一緒に暮らすんだぞ？
いつまでも敵同士の気分でいられたら、姉弟の絆が深まらないだろ？

……そんなことはしない…ってどうして！？
何故嫌なんだ？
嫌がる理由がどこにある？

[SE：あなたが姉に向けて銃を構える]

うっ！
くそっ、いつの間に銃をっ…！

…落ち着け、アタシは何もしないさ
ほら、武器も捨てたし両手には何も持ってない

……お前は何故アタシを拒絶する？
アタシが小さい頃に生き別れた実の姉だってことはわかっただろ？
頼むから、お姉ちゃんを悲しませないでくれ…

……仲間？
ここに倒れている賞金首共のことか？
確かに、保安局から追われる身として互いに支え合って生きてきて、情も芽生えていたのかもしれないが…
それは本当の仲間じゃない
利害が一致した者同士の、その場限りでの見せかけの友情なんだよ
姉弟の愛と比べることすらおこがましい

冷静になって考えてみろ？
偶々出会っただけの犯罪者と、お前を誰よりも深く愛してくれるお姉ちゃん…
どっちを選ぶかなんて、言わなくてもわかるはずだ
しかもその仲間達は、もう誰もこの世にいないんだぞ？
馬鹿なことは考えないで、今すぐにその銃を下ろすんだ

……そうか、お前はお姉ちゃんより死んだ仲間を選ぶのか…
わかったよ…

お前の要求通り、アタシはもうお前を狙ったりしないし、すぐにここからも立ち去るさ
だから…最後に、これを見てくれないか？

このペンダントはな、まだ父さんが生きてた頃に、アタシとお前が写った写真を入れて作ってくれたものなんだ
本当はお前の分もあったんだが、引っ越しの時に失くしてしまったみたいでな

……今はアタシのことをいくらでも憎んでくれていい
ただ……アタシのお前を愛する気持ちは本物だったってことを、このペンダントを見て思い出して欲しいんだ！
……だから、これを受け取ってくれ

……ありがとう
お前が融通の利くいい奴でよかった

でも…

[SE：姉が不意打ちであなたの頭を殴る]

…お姉ちゃんを銃で脅すような悪い弟は、今一度きつ〜く躾け直してやらないとな

はぁ……やっぱり、賞金首なんて下衆な犯罪者共と長いこと一緒に生活してたら、悪い事をいっぱい吹き込まれて正常な判断ができなくなっちまうか

待ってろよ……アタシがしっかり、お姉ちゃんの言う事を聞ける可愛い弟に戻してやるから

もう絶対に、お前はアタシの傍から離させない

アタシがお前を、一生守ってやるからな…


――ＥＮＤ――

・台本（ゆるボイ！）
【ヤンデレ】バウンティハンターの女ガンマンは、生き別れの弟を探していて…
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
Cybistar