悪の組織で下っ端研究員として働くあなたと後輩。あなたは志が高く、将来的には独立して自分の飲食店を開くという夢を後輩に語る。だが、密かにあなたに想いを寄せていた後輩は、あなたが自分から離れてしまうことを恐れ、組織にあることを密告する。

【悪の組織のアジト】

お疲れっした！

いや〜、今日も散々な一日でしたよ
先輩はまた、随分こっぴどくやられてましたね
そこまで大きな傷じゃないとはいえ、腕を怪我しちゃ怪人やモンスターの開発もままならないでしょうし、暫く休暇とった方がいいんじゃないっすか？

……えー、マジで？
先輩が大丈夫だって言うんならそれでいいですけど、そんなに張り切ってもあんまいいことないっすよ
うちらみたいな研究員はそこまでヒーローに闘志燃やさなくていいんですって
それなのに、先輩はあいつら見かけたら、いつもすぐに目の色変えて突っ込んじゃって…
それで今日みたいに研究室に乗り込んできたヒーローにボコボコにされて、自分が痛い思いするだけなんですから
秘密結社だから労災なんか降りないのに、よくあんなことできますよね

別に戦わなくていいんすよ、うちらは戦闘員じゃなくて研究員ですし！
ああいう時はそっと逃げるか、「イー！」とか「キー！」って叫んで適当にやられたふりしときゃ、それで終わるんです

ヒーロー達も、下っ端研究員のうちらのことなんか大して気にしてないっすよ

……はいはい、すんません
でも組織への忠誠心だとか、自分の職務を命懸けで全（まっと）うしろだとか、そういうのはうちには合わないっす
だから、その類のお説教はいくら言っても意味ないですよ

……うわぁ、なんか変なスイッチ入れちゃったかな
すんません！
申し訳ありませんって！
うちも先輩と同じくらい組織に貢献できるように頑張りますから、落ち着いて下さい！

……はぁ
もう、なんでそんなにモチベ高いんすか
トップの座でも狙ってるんですか？

……ええ！？
辞めるんすか？研究員を？
それはつまり、戦闘員に配転してヒーローとガチで戦いたいっていうことっすか？

……はい？
組織自体を辞めて、飲食店を開く？
え？自営業ってことですか？
マジっすか……
てっきり、先輩はこの組織が大好きで命に変えてもヒーローを倒すのが目標！みたいな人だと思ってたので、めっちゃ意外っす
っていうか、料理得意だったんですね

ふふっ……なんか、そう考えるとめっちゃ笑えてきますね
だって、悪の組織で凶暴な怪人作ってる研究員が「独立して自分の飲食店を開く」って、真剣な顔して語ってんすよ？
いや、どういう思考回路してたらそうなるんだよ！って思いません？

あははっ……いやいや、馬鹿にしてなんかないですって！
普段の組織命な先輩とのギャップ萌えで、ついニヤけちゃったってだけっす

……あー、うちっすか？
うちはまあ……殆ど残業なくてそこそこ給料もいいですし、特に今の状態から何か変えたいとかは思わないっすね
ヒーローと出くわしたら危ないですけど、先輩みたいに自分からふっかけたりしなけりゃ基本安全ですし
この仕事始めたのも、元々は前の職場クビになって困ってた時に、闇バイトとかに詳しい知り合いからすぐに働けるオススメのやつを教えてもらって、感じよさそうだったから入った、ってだけです

だから先輩みたいに何かでっかい目標立てて、常に手を抜かずに仕事にうち込める人は本当にリスペクトしてるんすよ
……嘘じゃないですって

因みに、いつ頃辞めちゃうんですか？
……えっ！そんな早いんですか？
なるほど……先輩が腕によりをかけて作った料理を食べられる日もそう遠くないってことっすね！
店開く時は、うちを一番最初の客にしてくださいよ！もう今から予約入れときますから！
へへっ、楽しみだな〜先輩の手料理！

それじゃまた明日っす、先輩！
腕、お大事にして下さいね！




――――――
【数日後、アジトの拷問室にて】

[SE：後輩がドアを開ける]

うわっ、ヤバ……

……先輩、生きてますか？
先輩！

……あ！
あー…よかった……
虫の息って感じですけど、拷問官の人達も一応ちゃんと言いつけは守ってくれたんすね

……ん？なんすか？

えーっと、はい
先輩のことを、ヒーロー側のスパイで近いうちに寝返るつもりだってチクったのはうちですけど
それがどうかしたんすか？

……あはは、わかってますよそんなこと！
先輩に限ってそんなことするわけがないってのは、うちが一番よく知ってますから！

……じゃあなんでそんな嘘ついたか、って？
そんなの、言わなくてもわかってるんじゃないですか？

先輩に組織から……いや、うちから離れてほしくないんですよ

酷いっすよねぇ、先輩

うちがいつも怪我の治療をしてあげたり、仕事終わって帰る時間合わせたりして必死にアプローチしてるのに、あんたは全く振り向いてくれないんですもん
それで終いには、組織を辞めて店を開くだなんて言い出すから……
仕方ないので、先手を打たせてもらったんです

嘘の証言とはいえ、信じてもらうのは割と簡単でしたよ
だって先輩、普段から科学班の研究員なのに、成果を見るとか言って戦闘員に混じって怪人の襲撃に立ち会ったり、積極的にヒーローと戦おうとして周りからも変人扱いされてたじゃないですか

それを利用して、実はそういう時に隙を見てヒーローに怪人の弱点や今の組織の状態を教えてるとか、
わざと研究員の自分がつっこむことで周りのやつらも突撃するように煽って被害を拡大させてる、なんて吹き込んだらすぐに納得してもらえました

へへっ……うち、結構すごくないっすか？
ただ、どうせなら自分の手でこの件をきっちり片付けたいから、って言って、先輩の命だけは生かしてもらえるようにお願いしといたんです
いや〜、さっきすれ違った拷問官達が満足気な顔してたんで、正直ちょっと冷や冷やしましたよ

あ、勿論うちは先輩のこと傷つけたりなんかしませんよ！
先輩には、これからうちの住み込みのコックさんになってもらいますから♪
でも、流石に先輩をそのまま連れてくわけには行かないんで…

家に着くまで、この納体袋の中に入っててもらいますね

ははっ、大丈夫っすよ！
入社して初めての大仕事だから、葬るところまで自分でやらせてもらえるように何度も懇願して、許可もらったんです

そしたらですね、その熱意も評価されたのか、なんと……

今回の件で、研究室長に昇進したんですよ！
すごいっすよね？
今までの研修生みたいな立場から、一気に研究室のトップですよ
だから、多少の我儘も通せちゃうんですよね〜

その代わり、やらなきゃいけないこともめっちゃ増えるみたいですけど…
だから、無職になった先輩をコック兼家政夫として雇ってあげるんです
しかも今なら、終身雇用と結婚の保証までついてきますよ！
これでお互いWin-Win、って感じですよね！

……はあ？
いやいや、先輩に拒否権なんてないですから
だってあんた、もうどこにも行く場所なんてないし、そもそもこれから先は社会的に消えた人として扱われるんですから
もうちょっと、自分の立場を自覚した方がいいっすよ

それじゃあ、あんまりダラダラしてても怪しまれるんでそろそろ袋の中に入れちゃいますね！

これからはうちの家で、沢山美味しい手料理作ってもらいますから

期待してますよ、新人コックさん♡


――ＥＮＤ――

・台本（ゆるボイ！）
【ヤンデレ】悪の組織の下っ端研究員は、組織を辞めようとした先輩を密告して…
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
Cybistar