大魔王討伐を目指すためにパーティを結成した勇者のあなたと、その仲間の一人で若年ながら魔法を自在に操る実力を持つ魔法戦士の少年。大魔王討伐を目前にして、あなたは魔法戦士が実は魔物であることを仲間の前で暴露し、パーティから追放する。そのまま大魔王との決戦に向かったあなただったが、戦いに敗れて目を覚ますと、パーティから追放した筈の魔法戦士が、それも女性の姿で大魔王と親しげに話していて…

【冒険の途中、フィールドにて】

よっしゃ、エビルドラゴン撃破〜！
皆ナイス！
これでこのフロアの敵は全部倒したぞ

最初は強過ぎてもうダメかと思ったけど、攻撃する時に身体を少し左に捻るクセと、呪文を放つ時に足元を見ていないっていう弱点を見抜いた後は、案外あっさり倒せちゃったな

……いやいや、それほどでもないよ
普段から敵の戦う時の姿勢とかクセをよく観察してるから、今回も偶々気がついたってだけ
ボク一人の手柄じゃなくて、パーティ全員で勝ち取った勝利だよ！

しかし、フロアボスがエビルドラゴンってことは、次が大魔王のいる最上階か…！

フロアを上がるごとに敵がどんどん強くなっていって、ここまで来るのだって丸3日もかかったけど……
遂に、あの大魔王と戦う時が来たんだ

ふぅー……そう思うとやる気が湧いてきたな

……ははっ、どうしたんだよ
お前、武闘家のくせに今更怖気づいたのってのか？
ボクは怖いどころか、早く戦いたくて身体がウズウズして堪らないね
だって、この数百年間誰も止めることができずに世界の平和を脅かしてきたあの大魔王を、ボクらの手で打ち倒すチャンスが来たんだよ？
何も怖がることなんかないさ

……そうそう！そうだよ！
僧侶の言う通りだ！
ボクらがやらなかったら、いったい誰が大魔王を倒せるっていうのさ
お前だってボクと同じ男なら、こういう時こそパーティを先導して、皆の士気を盛り上げないといけないんだよ！

……はぁ、全く
おい勇者、なんとか言ってやってよ
まさか、お前まで弱気になってなんかいないよな？

……ははは、だよな！
流石、魔物を倒すことを生業としている勇者様だ
もう覚悟は決まってるって感じだな

それもそうか
なんせボクらは、魔物との戦いが延々と続くこの地獄のような魔宮を3日で攻略したんだから

ボクらなら、絶対にやれるさ！

……ん、なんだ勇者？

……最上階に行く前に、はっきりさせておきたいことがある？
別にいいけど…何か変な出来事ってあったっけ？
ボクには特に思い当たる節はないんだが…

……は？
ちょっと、言ってる意味がわからないな
ボクは国の魔法試験にも合格してる、れっきとした魔法戦士だぞ？
その正体が実は魔物だ、なんて……あり得るわけないだろ

……人間の戦士としては若過ぎるって？
以前、ボクは小さい頃に才能を見出されて魔法学校に特例で入学し、年上の学生達と一緒に厳しい訓練を耐え抜いてきたと説明したことがある筈だ

確かに成長の早い魔族なら、ボクくらいの歳で魔法を自由自在に操れても不思議じゃないが……年齢だけを根拠にボクを魔物だと断定するのは、少し短絡的過ぎないか？

……いいや、違う
さっきも言ったが、ボクは相手が人間だろうが魔物だろうが戦う時のクセや弱点を見極めるのが得意なんだ
魔物に慣れているから、なんて単純な言葉でボクの努力を否定しないでほしいな

……おい、なんだよ
どうして皆納得してくれないんだ
本気でボクのことを魔物だと思っているのか？
……っ！

お、おい！その呪文は変身解除のっ……！

[SE：魔法戦士に呪文が命中する]

うあっ！！

痛っ……！

あ……こ、これは…！
違うんだ！この角は……

お、親が竜人族なんだ！母親が人間で、父親が竜人族なんだよ！
その遺伝で頭に角が生えているってだけで……ボクは人間さ
今まで隠していたのは謝るけど……気持ち悪いって思われたくなかっただけで、皆を騙すつもりじゃなかったんだ

……ごめん、皆！
仲間との信頼関係を壊すようなことをしてしまったのは、ボクが一番後悔してる
でも、今は決戦に備えて皆で心を一つにするべきだろ？
この中の誰一人、欠けちゃいけないんだ

……お、おい勇者
お前が知りたかったことはもう十分知れたから、気が済んだだろ？
ボクは純粋な人間じゃなくて、異種族との混血だった
…これでもう、何も問題ないはずだ
だから、今はとにかく目の前の目標に向かって一致団結して行動しよう！な！

……仲間のよしみで見逃すけど、ついて来たら斬る、って…
ちょ、ちょっと待ってくれよ！
ただ人間じゃないってだけで、今まで運命を共にしてきた仲間を見捨てるのかよ！
おい、皆！
……そんな目でボクを見るなよ

待って、行かないで！

行かないでくれよぉっ……！

[SE：勇者達が魔法戦士を置いて最上階へ向かう]




――――――
【暫く後、大魔王の間にて】

……おーい、勇者くん
起きて

おっ！
ふふ……大魔王に敗れて、囚われの身になった気分はどう？

[SE：勇者が暴れる]

わぁ……怖い
でも、無駄だよ
キミの手足は、その椅子に堅く固定してあるから

……ねぇパパ、彼のこと気に入ってくれた？

……えへへ、やっぱり！
こうやって生かしておいてくれたってことは、ボクに相応しい相手として認めてくれたってことだよね！

……なに驚いてるの？
ボクだよ、ボク
ついさっき、下の階でキミ達に捨てられた、人外魔法戦士

ほらこの角……さっきキミに、変身解除の呪文でパーティ全員に晒されちゃったやつ

キミ達に捨てられた筈のボクが、どうして万全な状態でここにいるのか……知りたい？

………

ふふ……それじゃあキミにいいことを2つ教えてあげるよ

1つは……ボクが、大魔王の子どもだってこと
キミ達はさっきボクが魔物だって言ってたけど……まさか、その魔物の中でも最上位の王族だなんて思ってもいなかっただろうね
でも、それだけじゃないよ

もう1つ、キミに教えておくことがあるんだ
それは……ボクが女だってこと

見て、このドレス……可愛いでしょ？
これ、魔族の伝統衣装なの

ボクはね……小さい頃から魔族を束（たば）ねる血筋の者として英才教育を施された、大魔王の一人娘なんだ
この歳で魔法が自由に操れたり、魔物の生態に詳しいのも、それが理由だよ
なんで男装してたかっていうと……少女よりは少年の方が、強さに説得力がつくかな〜って思ったから
…あとは、キミみたいに強い勇者に近づきやすいっていうのもあるかな

さっきとっさに身体を逸（そ）らしてなかったら、キミの呪文が頭だけじゃなくて全身に当たって、性別までバレちゃうところだったね
ふぅ……危ない危ない

あはは……まだちょっと、理解が追いついてないかな

ごめんね
ボクはただ、親孝行がしたかっただけなんだ
パパには子どもがボクしかいないから、早くいい相手を探して安心させてあげたいの

それでボクは、こうやって変装して勇者や冒険者の集まる酒場なんかに行っては、そこから候補になりそうな人を見つけて、パーティに入って暫く様子を見る…っていうのを繰り返してたってわけ

今までの人は皆実力が足りなかったり、旅の途中で力尽きちゃったりして残念だったけど…
キミはこうやってパパの所まで来れるくらいの力があって、その上どんなことにも怯まず立ち向かう勇気を持った立派な勇者だった
どこにも文句はつけようがない

だよね、パパ？

…だから、ボクはキミを選んだんだ

さっき捨てられた時は悲しかったけど……今はあいつらもいなくなってスッキリできたし、特別にキミのことだけは許してあげる♡
……まぁ、元からキミ以外は生かすつもりはなかったけどね

ふふ……勇者にはなろうと思ったらいつでもなれるけど…
大魔王の娘婿なんて、この世でたった一人、キミしかなれないんだよ

これから二人で、世界を闇に染めていくの

それじゃあ、今後は生涯を共にする伴侶としてよろしくね、元勇者くん♡


――ＥＮＤ――

・台本（ゆるボイ！）
【ヤンデレ】ショタ魔法戦士をパーティから追放したら、実は大魔王の娘で…
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
Cybistar