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硝子の微笑み
written by ニクキューP
  • 百合
  • お姉さん
  • シリアス
  • 純愛
  • 切ない
  • 片思い
公開日2023年05月16日 19:41 更新日2023年05月24日 21:27
文字数
1694文字(約 5分39秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
あらすじ
舞台は、とある小さなバー。

今回の主人公は、バーの女性常連客。
彼女は、店に入ると女性バーテンダーに目を向ける。

そんな常連客の恋心を綴ります。
本編
いつも彼女は笑っている。

彼女の微笑《ほほえ》みは、ひまわりのように明るい。

彼女の笑顔は、太陽のように眩《まぶ》しく、私の心をあたたかく包み込んでくれる。

彼女の笑う瞬間は、まるでシャボン玉が弾《はじ》けたかのように甘く切ない。



いつも笑顔が絶《た》えない彼女。

いつ会っても、彼女は私に微笑みかけてくれるのだ。

彼女と会わない時も、私の脳裏《のうり》には、彼女の笑い声がこだまする。

いつでも私に微笑《ほほえ》みかけてくれる彼女。


彼女の呟《つぶや》く言葉の端々《はしばし》には、必ず笑いがこぼれる。


他人《ひと》は、彼女のことを「悩みが無い」なんて揶揄《やゆ》するけれど、決してそうではないことを私は知っている。


彼女の微笑みは、『堅《かた》くて頑丈《がんじょう》な鋼《はがね》でできた鎧《よろい》』と同じであることを私は知っている。

彼女の心、本心を守る鋼の鎧。

彼女は辛《つら》ければ辛いほどに、笑うのだ。

自分の気持ちを、心の奥底《おくそこ》に閉じ込めるかのように。



この前、彼女に問いかけた。

『何で、そんなに笑うのか。辛《つら》いときは辛いって言ってくれていいんだよ。』って。


そうしたら、彼女は少し困った顔をした後、笑いながら首をかしげて言ったのだ。

『だって、笑顔って相手を幸せな気持ちにするでしょ? 私は相手の笑顔を見ていると幸せな気分になれるの。』

って。



彼女は自分のためでは無くて、他人のために笑っていたと言うことか。

……全く困ったものね。

でも私は、そんな彼女が大好きだ。相手のためを思って笑う彼女が大好きだ。


ただ、私にだけは、素の顔を見せて欲しい。

私にだけは、本当の笑顔を見せて欲しい。

私だけの彼女を見せて欲しい。

私だけに見せて欲しい。

私だけに。

(間)

私は彼女を守りたい。

私は彼女の騎士《きし》になりたい。

私と居るときは、その重くて堅《かた》い鋼《はがね》の鎧《よろい》を脱いで欲しいんだ。

そう、ありのままの彼女を私に見せて欲しいんだ。


それが私にとっての幸せだ。

他の誰にも渡したくない。

誰にも。

(間)

私は、彼女の本当の微笑みが欲しいのだ。

作られたものではない、本当の微笑みが欲しいのだ。

彼女が鋼の鎧を脱いだとき、私は初めて幸せになれる。

これだけは、断言できるよ。

私は、彼女と一緒に幸せになりたい。


「ねえ、どうしたら、鎧を脱いでくれるの?」


意図せず、彼女の前で本音がこぼれ落ちた。

(間)

彼女は、少し驚いた顔をして、仕方ないわねと、ため息をつき笑って言う。

「あなたの前では、鎧なんて着てないわ。」


その時の彼女の笑顔はガラスのように脆《もろ》くて儚《はかな》くて、今にも割れてしまいそうで、私の方が泣いてしまいそうだった。

だけれど、彼女の言葉が、真意《しんい》かどうかはわからない。


私にも、他の誰かにもわからない。

本当のことは彼女にしかわからない。


それが彼女の優しさなんだ。

決して相手を傷つけない。

例《たと》え自分が傷ついても、相手のことは傷つけない。

それが彼女の優しさ。


でも、その優しさが、逆に私の心を傷つける。

その優しさがつらいのだ。


本当の彼女を知りたい私の心が、ズキズキと痛む。


彼女は『心を隠すための鎧』は持っているけれど、『心を守るための鎧』は持っていないのだ。


だから、私は守りたい。

大好きな彼女を守りたい。

彼女の本当の笑顔を守りたい。


なのに……彼女は鎧を脱ぐ素振《そぶ》りを見せてはくれない。


そして私は、いつものように、彼女が作ったカシスソーダを嗜《たしな》みながら、カウンター越しの彼女の姿を眺めるのだ。


はあ……今日もダメだったか。

私は席を立ち勘定《かんじょう》を支払い出口に向かう。

背中越しに彼女からの声がかかる。


「そのルージュ似合ってる。素敵ね。」

少し大人びた赤いルージュ。
彼女のつけているルージュに憧《あこが》れて、ムリヤリ銘柄《めいがら》を聞き出したのだ。


彼女からの誉め言葉は、私にとって、とても想定外で、でも飛び上がるほどに嬉しくて。

「バカ、これ以上、惚《ほ》れさせてどうするのよ?」

決して彼女には言えない言葉をグッと飲み込む。

いつか私に本当の微笑《ほほえ》みを投げかけてくれることを信じて。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
硝子の微笑み
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
ニクキューP
ライター情報
猫と初音ミクを溺愛しているライターです。
コメディ、日常、メンヘラ、そして百合&ライトBL
ゆるふわ台本多め
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