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【2~3人用声劇台本】ヤンデレ悪役令嬢は年下執事に敵わない
written by ニクキューP
  • 学校/学園
  • 敬語
  • ツンデレ
  • お嬢様
  • 悪役令嬢
  • 執事
  • ヤンデレ
公開日2024年03月17日 11:12 更新日2024年03月17日 22:00
文字数
10803文字(約 36分1秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
4 人
演者役柄
財閥のご令嬢
視聴者役柄
指定なし
場所
令嬢の屋敷、飛行場、学校
あらすじ
(作品概要)
 鬼龍院財閥令嬢の鬼龍院百々花《きりゅういん ももか》。
 今日も執事の坂本に無理難題を叩きつける。
 果たして今回の無理難題は何なのか。

 《補足》
  ・5話完結の物語を1話にまとめたゆるボイ用シナリオになります。
  ・本作品の続編(フルバージョン)は、今後、小説家になろう、カクヨム等に投稿する予定ですので、本物語に興味がおありでしたら、小説投稿サイトをご覧ください。
  ・小説の更新状況についてはTwitter (@tomox9209)にてお知らせしますので是非フォローください。
  
(登場人物)
:★鬼龍院百々花(きりゅういん ももか)女声
: 高校二年生、名門鬼龍院財閥の社長令嬢。
: また、彼女の祖父は学園の会長であることもあってか、いわゆる悪役令嬢である。
: 自己中心でワガママ放題だが、執事坂本の前では無駄のようだ。
: →百々花(小声/脳内)
:   百々花の脳内を言語化したもの(小声で演じてください)

:★坂本(性別不問)
: 鬼龍院財閥、百々花専任執事。執事中の執事、すなわち超一流である。
: 悪役令嬢の百々花からの命令(ワガママ)を、彼女の要望以上の手段で叶える。
: 坂本の前では百々花も、悪役令嬢から、ただの金持ちの娘と化す。
 
:★語り部
: 物語の語り部(男女不問)

:★語り部(モブ女子高生)
: 百々花の取り巻き役(女声)
: 後半に登場、語り部が兼役してもOK
本編
百々花:山崎! 山崎?!
百々花:山崎はどこ?!

語り部:ここは名も高き鬼龍院《きりゅういん》財閥、洋館のエントランス。洋館自体はアホほど広いのだが、今は令嬢と執事、メイドが住んでおり、部屋が有り余っている。
語り部:執事とメイドと書いたが、いささか問題がある。

語り部:なぜか。
語り部:令嬢のワガママっぷりに耐えられず、昨日、執事が辞めたばかりなのである。
語り部:そして、やめるのは、この執事だけでは無い。
語り部:執事の勤務期間は、長くて3日間、離職率が鬼ほど高い濃厚ブラック職場なのだ。


語り部:さて、エントランスで令嬢が執事を探している。
語り部:昨日、採用したばかりで今日が初出勤の執事のことを……今回は何日続くやら。

百々花:……あ、そうか。山崎は昨日やめたんだっけ。ホント役に立たない。ヘタレね。
百々花:誰か?! 誰かいないの?!

坂本:はい。

語り部:令嬢、百々花《ももか》の呼びかけに応じる形で、燕尾服を着た被害者……いや、執事が現れた。
語り部:見たところ大分若い執事である。姿勢正しく清潔感のある青年だ。細身、切れ長の目が彼の高貴さを感じさせる。

: ――(間)
坂本:お待たせいたしました。お呼びですか、お嬢様。

百々花:あなたが新しい執事?
坂本:はい。坂本と申します。以後、お見知りおきを。

語り部:深々と頭を下げる坂本。

百々花:名前なんてどうでもいいわ。
百々花(小声/脳内):(きっとスグ辞めるんだし)

百々花:それにしても遅い、遅すぎる!
百々花:私が呼んだら1秒以内には現れなさい。
百々花(小声/脳内):(これでいつも執事たちがビビるのよね。1秒で出て来れる訳が無いって)

坂本:なるほど。それは大変失礼いたしました。次回より1秒以内にお嬢様の元に参ります。

百々花(小声/脳内):(え、動じない……しかも了承している。全く出来る訳ないじゃない)

百々花:こ、今回は3分もかかってるのに1秒で来れるって言うの?
百々花:この私に向かって嘘も体外にしなさい。

坂本:申し訳ございません。今回は所用で遅れてしまいましたので、今後は大丈夫かと思います。。

百々花:所用、は?!
百々花:私の呼びかけより優先される所用って何?

坂本:いえ、お嬢様に申し上げる程のことではございません。

百々花:言うか言わないかを決めるのは、あなたじゃない、この私よ。
百々花:私に呼ばれて遅れる程の緊急な所用があったのか、って聞いてるの!

坂本:確かにお嬢様以上の所用はございません。大変失礼いたしました。

百々花:わかれば良いのよ。……まあ、いいわ。これから気をつけなさい。
百々花(小声/脳内):(最初から厳しすぎるのもどうかと思うし、ここは引き下がってあげるか。私も甘くなったものだわ)

坂本:はっ。承知いたしました。お許しいただきありがとうございます。
坂本:ところで、御用は何でございましょう?

百々花:あなたが遅れたせいで、学校に遅刻しそうだわ。もちろん車の用意は済んでいるのでしょうね?

坂本:誠に申し訳ございません。車のご用意はございません。

百々花:えっ?! 何故?! これは毎日のことでしょう。
百々花:30秒以内にエントランスに車を横付けしなさい。
百々花:鬼龍院の執事たるもの、もちろん、出来るわ、よ、ね?

坂本:え、そ、それは……

百々花(小声/脳内):(ふふふ……流石にここはビビってるようね。もう一押ししておくか)

百々花:何? まさか、この私の指示を聞けないとでもいうの?

坂本:申し訳ございません。車を30秒でエントランスに準備することは不可能でございます。

百々花:何よ。逆らう気?
坂本:いえ、滅相もございません。

百々花:じゃあ、何?
百々花:この私が学校に遅刻しても良いって言うの?
坂本:とんでもございません。お嬢様のことを遅刻させるなんてことは、鬼龍院財閥の執事として許されることではございません。

百々花:じゃあ、どうするの?
坂本:そ、それは……

百々花:それは?
百々花(小声/脳内):(あらあら、流石にビビって声も出ないみたいね。この執事も今日までね)
坂本:車でなければいけませんでしょうか?

百々花:え、え? どういうこと?
百々花:まーさーか。この私に歩いて学校まで行けってこと?
百々花:そもそも車でも時間ギリギリなのに歩いて通学なんて、どう考えても遅刻だわ。

坂本:いえ、お嬢様に徒歩通学を強《し》いることは決してございません。
坂本:恐れながら代わりの手段をご用意しております。

百々花:え、車でも徒歩でもないって、あと何があるのよ?

坂本:そ、それは、お嬢様にご足労《そくろう》をお許し頂きたく。

百々花:何よ? 回りくどいわね。学校に遅刻しなければ何でも良いわ。

坂本:ご了承頂きありがとうございます。

百々花:だから何よ!
百々花:さっきから、あなたの回りくどい言い方がイライラするのよ!
百々花:結論を先に言いなさい!

坂本:承知いたしました。申し訳ございません。
坂本:お嬢様には飛行機にて通学していただきます。

語り部:飛行機で登校する様、百々花に提案する坂本。
語り部:百々花は坂本の提案に目を丸くする。

百々花:え?! 何を言っているの?
坂本:飛行場に自家用ジェットをご用意いたしております。

百々花:じ、自家用ジェット? まさか!
百々花:あれは、お父様専用で許可が居るはずよね……
百々花:そしてお父様は海外に出張中。許可なんて貰えるわけがないわ。
坂本:そこは大丈夫でございます。既にご主人様には自家用ジェットの利用をご了承頂いておりますので。

百々花:え、えええ? あなたが、さっき言っていた緊急な所用って……
坂本:さすがお嬢様。ご明察通りでございます。
坂本:自家用ジェットの手配に時間がかかり、お嬢様の元に参るのが遅れてしまいました。
坂本:改めてお詫び申し上げます。
坂本:また自家用ジェットですが、ご主人様用では無く、お嬢様用に取り寄せたものです。

百々花:えええ?! 私用っ?!
坂本:ええ。百々花お嬢様専用のジェット機になります。

百々花(小声/脳内):(私用のジェット機なんて、何を考えているのかしら。この執事、初日からやることが滅茶苦茶だわ)
百々花:それにしても良くジェット機の購入許可がおりたわね。
百々花:この私が直接お父様にお願いしても中々許可がおりないのに。

坂本:そこはお任せください。
坂本:旦那様に許可を頂く算段《さんだん》は心得ております。

百々花:そ、そうなの。それは良かったわ。
百々花:(こ、これって絶対、坂本が、お父様の弱みを握っているってことよね。恐ろしい男……)

坂本:では、早速、飛行場までご足労をお願いいたします。

百々花:……わかったわ。
百々花:でも離陸はウチの飛行場があるから良いとして、学校に着陸用の飛行場なんてあったかしら?
百々花:飛び立てても着陸できなかったら、意味がないわ。
百々花:まさか、この私にパラシュートで着地しろとか言わないでしょうね。

坂本:まさか。大事なお嬢様に危険をさらす訳がございません。

百々花:だって学校に飛行場なんて無かったはずよ。

坂本:はい。ですので、学校の周囲の土地を買収し着陸用の飛行場を準備いたしました。

百々花(小声/脳内):(話が突飛すぎて、流石の私もついていけないわ……)
百々花:そ、そうなの。それはご苦労様ね。

坂本:いえ、そんな、執事として当然のことでございます。
坂本:さ、お嬢様。飛行場までは車で移動いたしますので、お乗りください。

百々花:え、ええ……わかったわ。

語り部:車のドアを開け百々花を誘導する。

坂本:こちらからお乗りください。

百々花:ありがとう。

:(運転席に乗り込む)
坂本:出発してもよろしいでしょうか。
百々花:いいわ。

坂本:では出発いたします。
坂本:飛行場までは5分間を予定しております。
百々花:そう、意外と近いのね。
坂本:はい。

百々花:ところで、1つ素朴な疑問があるんだけどいいかしら?
坂本:はい。なんなりと。

百々花:さっきは家で、車が無いから飛行機で。って言ってたじゃない?
坂本:はい、確かに車がご用意出来ないと申しました。

百々花:じゃあ、これは車じゃないの? それとも今乗ってるのは車じゃないの?
坂本:はい、お嬢様のご認識通り、車でございます。

百々花:そうよね。車よね。
坂本:はい。車でございます。

語り部:ここまで言っても気づかないのかと言ういら立ち
百々花:そうよね。車よね!
百々花:ここまで言ったら私の疑問わかるわよね?

: ――キョトンとする坂本
坂本:いえ、お嬢様の疑問が何のことかさっぱりわからないです。

: ――厳しい口調になる百々花
百々花:ちょっと考えたらわかるでしょう?
百々花:この車で直接学校に行けば良いんじゃなくて? 今、乗っている、この車で!

: ――ああそんなことかと平然と答える坂本
坂本:いえ、この車は飛行場を行き来するための車でございます。
坂本:もちろん、学校側にも登校用の車をご用意してございます。

百々花:いやいやいや、そんなのありえませんわ!
百々花:このまま学校に行きなさい!

坂本:いえ、それは出来かねます。

百々花:なんでよ?!
坂本:はい。学校に行く途中、渋滞につかまり遅れてしまうこともございますので。

百々花(小声/脳内):(これ以上話しても無駄ね……)
百々花:そう……じゃあ、もういいわ。
坂本:恐れ入ります。

: ――(間 車を止め百々花をおろすためにドアをあける)
坂本:飛行場に到着いたしました。どうぞ。

: ――すっかりペースを乱される百々花、思わず礼を言う。
百々花:あ、ありがとう。ご苦労様。

語り部:飛行場に着いた百々花と坂本は自家用、いや百々花用のジェット機に向かった。
語り部:そして、あたりを見渡す百々花。

百々花:それで、私の乗る飛行機はどちら?
坂本:あちらでございます。

百々花:あちら……え?
坂本:はい、あちらでございます。

百々花:……え、まさか。
坂本:何でございましょう。

百々花:あなたの指差す方向には、大型機しか見当たらないけど?
百々花:まさかとは思うけれど、私1人のために大型機を使うなんてことは無いわよね。余裕で300人は乗れるわよ。

坂本:はい。百々花お嬢様のご明察通り、あちらの大型機にご搭乗頂きます。
百々花:ええっ?! ちょっと待って頂戴。いくら何でも私1人に大型機はありえなくない? 小型機は無いの?

坂本:いえ、鬼龍院財閥のご令嬢たる者が小型機にお乗りいただくことは出来ません。……と言う訳で、それ相応の大型機をご用意させていただいております。
百々花:ご用意って……そんな簡単なものじゃないでしょう。

坂本:朝にジェット機を手配いたしましたところ、幸運にも大型機のみ購入可能でございました。私も一安心でございます。
百々花:一安心って、私しか乗らない大型機なんて落ち着かないにもほどがあるわ。

坂本:そこは、百々花お嬢様が過ごしやすいように内装には、こだわっております。
百々花:内装?

坂本:はい。プール、ジャクジー、サウナ、プレイングルーム、シネマ、カジノバーなど、お嬢様にゆっくりとくつろいで頂ける空間をご用意しております。
百々花:ただの通学に、そんなのいらないでしょ! それに、飛行機だったら数分で学校に着くでしょう。
坂本:ご認識通りでございます。ですので、夏休みなど、ご友人とバカンスに行かれる際にご利用いただけたら幸いでございます。

坂本:また、本来なら万一のために戦闘機とも思いましたが、可憐なお嬢様には似つかわしくないため候補から除外いたしました。
百々花:戦闘機?! 一体、何と戦うのよ?!

坂本:万が一のことがございますから。ですが、ご安心ください。百々花お嬢様用にミサイル発射オプションを搭載しております。
百々花:そんな物騒なっ!

坂本:いえ、お嬢様の身に何かあったら一大事でございますから。
百々花:はあ……もう買ってしまったから仕方ないけれど、今後、高額なものを購入する際には、私にも確認して頂戴。
坂本:承知いたしました。

百々花:はあ、こんな滅茶苦茶な執事初めてだわ。
坂本:もったいないお言葉、ありがとうございます。
百々花:いや、誉めてないから。

語り部:聞こえない振りをする坂本
坂本:では、早速、お乗りください。

百々花:はあ……わかった。わかったわよ。(諦め)

: ――(間 百々花、坂本搭乗)
坂本:百々花様は、あちらへどうぞ。詳細は客室乗務員がご案内いたします。
百々花:わかったわ。詳細は客室乗務員……って、あなたはどこに?

坂本:はあ、私はコックピットにおります。(なぜわかりきったことを聞くのだろうと言うトーンで)

百々花:まさか、あなたが操縦するの?!
坂本:ご認識通りでございます。

百々花:ええっ?! あなた飛行機の操縦ができるの?! 嘘でしょ?!
坂本:ええ。本来ならライセンス取得は17歳以上ですが、鬼龍院財閥の執事は特例として免許取得が許可されております。

百々花:えっ?! 17歳以上って坂本は何歳なの?
坂本:はい、私は15歳、今年で16になります。

百々花:年下っ?! ちょ、ちょっと待って。頭が混乱してきた。……って、年下?! 高校1年生?!
坂本:ご認識の通りでございます。最も私は高校に通っておりませんので、実質高校1年生……と言うことになりますが。

百々花:そうなの、中卒か。それで良く飛行機のライセンスなんて取れたわね。
坂本:いえ、確かにスクーリングは中学までですが、高卒認定は所持しております。

百々花:え?! おかしくない? だって高校にいってないのでしょう?
坂本:はい。ですが、高等学校卒業程度認定試験に合格しておりますので、高卒扱いとなっております。ただし、実際の認定は18歳に達した日の翌日からとなります。

百々花:いやもう、訳がわからないわ。
坂本:恐れ入ります。話が少々長くなってしまったようです。私は、ここで失礼いたします。安全運転で参りますので、どうぞご安心ください。

百々花:もう、朝から驚きの連続で、どうでも良くなってきたわ。
坂本:それでは、短い時間ではございますが、空の旅をお楽しみください。

語り部:百々花が席に座りシートベルトを締めると、スムーズに飛行機は飛び立った。
語り部:百々花の心配をよそに飛行機はスムーズに旅立つ。
語り部:何なら、百々花がいつも乗っている飛行機より揺れが少なく快適であった。
語り部:そして、百々花は客室乗務員からドリンクを勧められる。
百々花:いらないわ。どうせすぐ着くし。

語り部:そうでございますか。とお辞儀をして百々花の元を後にする。
百々花:それにしても、客室乗務員の数、多すぎよね。

語り部:10人以上は居るであろう客室乗務員を眺めて呟いた。
語り部:いや、ここだけ乗務員が居るなら、まあ許容範囲内であるがカジノバー、ジャクジー等にも多くの係員が待機していると思うと、いささか呆れる。たかが10分のフライトである。
語り部:でもまあ、せっかくだし坂本の言う通り、空の旅を楽しもう。
語り部:坂本は今までの執事とは大きく違い、今まで全てにおいて百々花の想定を上回っていた。普通の執事だったら、根を上げて帰ってもおかしくない。
百々花:一体、彼は何者?

語り部:思わず百々花の口から出る疑問。まだ会ってから数時間、いや、数十分にも関わらず坂本の存在が百々花の中で大きくなっていく。
百々花:ま、まあ考えていても仕方がないわ。いつもと同じ、執事と主人の関係。朝は押され気味だったけれど、今までの執事と同じ、思い切り通り振り回して差し上げるわ。

語り部:百々花は一人になって、やっと自分を取り戻した。鞄から文庫本を取り出し、ページを開こうとする。
語り部:すると、客室乗務員から間もなく着陸する旨を伝えられる。

百々花:わかったわ。……全く落ち着く暇もないわね。

語り部:ため息交じりに呟く百々花。少しして飛行機が着陸態勢に入った。離陸時と同じで揺れが少なくソフトランディングであった。
百々花:とても15歳が操縦している飛行機とは思えないわね。

語り部:飛行機が着陸して暫くすると坂本が百々花のもとに現れた。
坂本:百々花お嬢様、お疲れさまでした。搭乗中、不都合等ございませんでしたでしょうか。
百々花:いえ、とても快適でしたわ。ありがとう。

坂本:恐縮でございます。では、お車にご案内いたします。

語り部:飛行機を降りるとリムジンが横付けされている。この短い時間でどうすればリムジンが用意できるのか甚だ疑問である。
坂本:では、お乗りください。

語り部:坂本が百々花をリムジンの座席にエスコートする。
百々花:ありがとう。

語り部:百々花は苦笑いして車に乗り込んだ。坂本の完璧な振る舞いに突っ込みどころが無く、嫌がらせのしようが無いようである。
坂本:失礼いたします。

語り部:百々花に続いて坂本が隣の座席に座る。
百々花:あら、飛行機と違って自動車は運転しないのね。
坂本:飛行機は他に操縦できる者をアサインできませんでしたので。

百々花:なるほどね。
百々花(小声/脳内):(アサイン出来ないからって執事が操縦するなんて普通考えられないけれど)

坂本:恐れ入ります。

語り部:言われてみれば当然である。航空会社のパイロットでもあるまいし大型機のライセンスを持っている者なんて居ないだろう。
語り部:むしろ、坂本がライセンスを持っていることの方が不思議である。
語り部:車中、百々花、坂本ともに一言も話さず、ぎこちないほどに無音であった。
語り部:いつもであれば、百々花から執事への叱責《しっせき》で溢れるところである。

百々花:……坂本?
坂本:何でございましょう。百々花お嬢様。

百々花:明日からは自動車での通学にしなさい。飛行機で登校なんてありえないわ。
坂本:承知いたしました。

百々花:ところで、良く学校の隣に飛行場なんて作れたわね。騒音とかで住民からのクレームは大丈夫?
坂本:はい。そこは心配ございません。近隣住民ご納得の上、飛行場を建設しております。

百々花:だったらいいわ。もし何かあったら私にクレームが入るのですからね。
坂本:大丈夫でございます。百々花お嬢様にクレームが入ることは絶対にございません。

百々花:そ、そう……だったら良いわ。

語り部:住民への説明が無かったら、坂本のことを叱ろうを思っていた百々花。しかし、坂本の短時間での完璧な根回しの良さに言葉を失った。
坂本:百々花お嬢様、お疲れさまでございます。到着いたしました。
百々花:ええ、ご苦労様。

語り部:坂本のエスコートで自動車を降りる百々花。
坂本:一時間目は体育でございますね。こちら体操着でございます。
百々花:え? ああ、そうだったわね。ありがとう。
坂本:では、いってらっしゃいませ。

語り部:百々花はお辞儀をする坂本を背に学校の門をくぐった。
語り部(モブ女子高生):百々花様、百々花様よっ!
語り部(モブ女子高生):今日もお綺麗でいらっしゃるわ
語り部:百々花が登校すると一斉に女生徒達が振り返る。

百々花:ごきげんよう

語り部:百々花は慣れたように手を振り挨拶を返す。
語り部(モブ女子高生):キャーッ!

語り部:容姿端麗、品行方正、学業優秀と3拍子揃っている百々花は学園一の有名人だ。
語り部:ちなみに文武両道ではない。百々花唯一の弱点が運動、つまりスポーツ全般なのである。
語り部:まあ、何でもできるスペシャリストよりも、隙があって他生徒からの親しみを感じさせているのかもしれない。

百々花:ああ、1時間目は体育でしたわね。本当、憂鬱だわ。

語り部:成績が体育以外オール5の百々花。
語り部:出来ることなら体育を欠席したいとさえ思っている。

百々花:こんなことなら遅刻した方が良かったかしら……はあ。

語り部:ブツブツ独り言をつぶやきながら体操着に着替える百々花。
語り部(モブ女子高生):なんか今日の百々花様、はかなげで素敵

百々花:はああ、世の中から運動なんてなくなってしまえば良いのに……

語り部:とりまきは憧れの眼差しを送っているが、当の百々花は体育をサボれないかとくだらないことで一杯なのである。
語り部:今日の体育はソフトボール。

百々花:よりによってソフトボールなんて、特に嫌ですわ。

語り部:嫌じゃないスポーツなんてないくせに。

百々花:何かおっしゃいました?

語り部:い、いえ別に……
語り部:天の声に反応してしまうくらいには、百々花は嫌そうだった。

語り部(モブ女子高生):百々花様は、当然、ピッチャーで4番ですわ!
語り部(モブ女子高生):言うまでもないですわ!
百々花:い、いや、私なんかが、そんな申し訳ないですわ。

語り部:本心である。
語り部(モブ女子高生):さすが百々花様、おくゆかしい。

語り部:取り巻きたちは、いつも何を見ているのだろうか。
語り部:体育でのダメっぷりは周知の事実のハズなのに……

百々花:はあ、わかりましたわ……

語り部:トボトボとマウンドに上がる百々花。

百々花:じゃあ、いきますわよ。

語り部:ひょろひょろひょろ~
語り部:なんて心もとないスローボール。キャッチャーまで届いているのが奇跡である。

語り部:絶好球!
語り部:思い切りバットを振るバッター。
語り部:バシーン!
語り部:ストライクー!!!
百々花:え?

語り部(モブ女子高生):キャー! 百々花さまあ!!
語り部(モブ女子高生):湧き上がる歓声。ちなみに校舎では多くの生徒が窓から覗いている。授業はどうした。
語り部:ま、魔球……?!
語り部:驚くバッター。
語り部:もちろん魔球なんてことがある訳がなく、さっきも書いた通りタダのスローボールである。

百々花:ま、まあいいですわ。

語り部:その後も三振を積み重ねる敵チーム。ランナーも出ていたが、それはフォアボール、デットボールでの出塁だった。
語り部:いわゆる別の意味で奇跡のノーヒットノーラン。
語り部:そして、試合は終盤に差し掛かり、最終回7回裏ツーアウト満塁。
語り部:1-0で、百々花のチームが勝っている。
語り部:まさか最終回まで投げるとは思っていなかった百々花だが、ようやく最後のバッターを迎えるのだった。

語り部:ここまではマグレで抑えられていたが、今度こそぶっ飛ばしてやる!
語り部:相手チームのバッターは、ソフトボール部4番の金剛寺鉄子。あからさまに強そうな名前である。

語り部:ぶっ飛ばすは百々花ではなくボールであると信じたい。
百々花:ひ、ひえぇ……

語り部:百々花としては、体育の授業での勝敗なんて、どうでも良かった。どうぞ打ってください。お願いだから、ぶつけないで。と言う思いで一杯だった。
百々花:では、いきますわ。えーい!

語り部:ヒョロヒョロヒョロ~。
語り部:さすがに3打席目ともなると、ボールにも目が慣れど真ん中の絶好球である。
語り部:もらったー!!!
語り部:思い切りバットを振る金剛寺。
語り部:カキーン!!!
語り部:ピッチャー返し。ジャストミートした打球は、ものすごい勢いで百々花の方へ飛んだ!

百々花:きゃああああああ!!!

語り部(モブ女子高生):百々花様、あぶない!!!
語り部:百々花の脳内に走馬灯《そうまとう》が駆け巡る。
百々花:こんなことで死ぬなんてイヤー!!!

語り部:大嫌いな体育で絶命なんて、百々花の中で最悪なシチュエーションである。
百々花:きゃああああああ!!! 坂本ーーー!!!

語り部:バシーン!
語り部(モブ女子高生):きゃあ! あの方はどなた?! とてもお綺麗!
語り部:そこには、ボールを素手でキャッチした制服を身にまとった女子が居た。
語り部:体操着の生徒の中に、制服の女子1名。甚《はなは》だ信じられない光景である。
百々花:こ、こわい。助けて……

語り部:頭を抱えてうずくまる百々花。
語り部:百々花お嬢様、大丈夫ですか?
語り部:ボールを握ったままの女生徒が、百々花の耳元で囁いた。

百々花:え? ど、どうもありがとうですわ……
百々花:それにしても見ない顔ね、あなたはどなた?

語り部:こんな美少女が居ただろうかと百々花は考える。

坂本:坂本です。百々花お嬢様の執事、坂本でございます。百々花様、無事で何よりです。
百々花:ええ、坂本?! なぜ女装を?!
坂本:しっ!

語り部:唇に人差し指をあてる坂本。
坂本:ここは女子高ですし男性が足を踏み入れるのもどうかと思いまして。
坂本:そこで本学園の制服を借用いたしました。ですので、小声でお願いいたします。

語り部:照れる様子も無く真顔で答える坂本。ボールをキャッチャーに投げ返す。
語り部(モブ女子高生):どなたですの?! 百々花様のお知り合い?!
語り部:騒ぐ取り巻き。
百々花:ええ、私の執……メイドですわ。

語り部(モブ女子高生):こんなお綺麗な方がメイドなんて、流石は鬼龍院グループのご令嬢ですわね!
語り部:納得したようである。
語り部:坂本は、ニコッと笑って首をかしげて見せた。とても男とは思えないほどにはキュートである。

語り部(モブ女子高生):キャー!
語り部(モブ女子高生):わ、私に微笑んでくださいましてよ!
語り部(モブ女子高生):いえ、私ですわ!
語り部:真実を知らずにはしゃぐ取り巻き達。
語り部:こうして、うやむやのうちに試合は終わったのである。

百々花:坂本、ありがとう。助かったわ。でも、どうしてここに?
坂本:百々花お嬢様が私のことを呼ばれてから、1秒以内に現れなさい。とのご指示でしたので。お守りしただけのことでございます。

語り部:しれっと澄まし顔で答える坂本
百々花:あ、、、そう。
坂本:はい。

語り部:主人に忠実な執事なのであった。
語り部:百々花は坂本に敵わないようである。
:――終――

※本作の続編(フルバージョン)は小説サイトにてご覧ください。

《ニクキューPプロフィール》
 ライター紹介

《リア充爆ぜろ委員会シリーズ》
【VOL01】リア充爆ぜろ委員会(女声3名)
 →台本へのリンク
【VOL02】リア充爆ぜろ委員会(女声3/男声1)
 →台本へのリンク

《ゆりふわシリーズ》
【百合】【2人用声劇台本】ゆりふわ~ゆるゆるふわふわ百合物語~
 →台本へのリンク
【百合】【2人用声劇台本】ゆりふわ2!~ゆるゆるふわふわ百合物語~
 →台本へのリンク
【百合】【2人用声劇台本】ゆりふわ3!~ゆるゆるふわふわ百合物語~
 →台本へのリンク
ゆりふわ THE FINAL ~ゆるゆるふわふわ百合物語~【女声2名】
 →台本へのリンク

《まりんちゃんシリーズ》
【メンヘラ/女1男2不問1】メンヘラ少女まりんちゃん~ツトムの場合~
 →台本へのリンク
【メンヘラ/女1男2不問1】メンヘラ少女まりんちゃん2~タツヤの場合~
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《その他/ニクキューP主な台本》
【2~3人用声劇台本】悪役令嬢は年下執事に敵わない
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クレジット
・台本(ゆるボイ!)
【2~3人用声劇台本】ヤンデレ悪役令嬢は年下執事に敵わない
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
ニクキューP
ライター情報
猫と初音ミクを溺愛しているライターです。
コメディ、日常、メンヘラ、そして百合&ライトBL
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