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【女性1名】硝子の微笑み《AnotherSide》
written by ニクキューP
  • 百合
  • シリアス
  • 純愛
公開日2023年05月21日 21:06 更新日2023年05月24日 21:25
文字数
1937文字(約 6分28秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
バーテンダー
視聴者役柄
場所
とあるバー
あらすじ
本作は、以下台本のスピンオフとなりますので
先行して、ご確認いただけたら幸いです。

 ・硝子の微笑み

前作、「硝子の微笑み」は、バーの女性常連客が女性バーテンダーに
恋をして、彼女の本心を知りたいと言う話でした。

今回は、女性バーテンダー視点での作品です。
本編
★★★★★★★★★★★★
 台本をご覧いただきましてありがとうございます!
 本文中、「――」の記述がありましたら、ト書きですので音声化不要です。
★★★★★★★★★★★★

私は人間が嫌いだ。

だから、誰も私のテリトリーに入ってこないように、とにかく、いつも笑っている。

辛いときも、悲しいときも、私は笑う。バカみたいに私は笑う。

笑っていたら、他人は、私の心の中まで踏《ふ》み込んでくることはない。

私のことは放っておいて欲しい。

だけれど私は、人嫌いなのにBAR《バー》で働いていると言う矛盾《むじゅん》。

なぜなら、女友達から半《なか》ば強引に頼まれたのだ。

押しに弱い私は、頼まれ事を断るのが苦手だ。

だから、今日も変わらず、よっぱらい客を相手にするのだ。

口説《くど》いて来る客の対応も、今となっては手慣れたものだ。

だけれど。

カウンター越しに、突き刺さるような視線を黙って私に投げかける常連客がいる。

まるで私の心を見透《みす》かしたかのように、無言で私のことをジッと見つめているのだ。

私は彼女から取ったオーダのカシスソーダを作って、彼女の前に、そっと置く。

すると彼女が、その日、初めてクチを開いた。

『何で、そんなに笑うのか。辛いときは辛いって言ってくれていいんだよ。』って。

途端《とたん》。
大きな嫌悪感《けんおかん》が、私を包み込む。

私の心のシャッターが勢いよく閉まって行く。

心が壊れる。

ここで本音を晒《さら》すなんて、私の選択肢にはない。

だから、私は平静《へいせい》を装《よそお》って、いつも以上に微笑《ほほえ》んだ。

「だって、笑顔って相手を幸せな気持ちにするでしょ? 私は相手の笑顔を見ていると幸せな気分になれるの。」

彼女は、私の答えを聞いて、がっかりとした表情を隠《かく》そうともしなかった。

しかし、私は気づかなかったフリをして、丁度《ちょうど》話しかけてきた他の客のところに向かう。

つまり逃げたのだ。

これで良いのだ。

私は、私の心を守ることだけで、精一杯なのだ。

誰にも、私の素顔を見せることはない。

私の「心の壁」を壊すことの出来る人なんていない。

私を守れるのは、偽《いつわ》りの微笑《ほほえ》みだけだ。

本心からの微笑みではない、偽りの微笑みを無差別に投げつける。

これが私なのだ。

不意に、カシスソーダを飲んでいた彼女が、再び私に問いかけた。

『ねえ、どうしたら、鎧《よろい》を脱いでくれるの?』

鎧……それは、驚くほどに私の考える概念《がいねん》と合致《がっち》していた。

なんだ、この子は。

だめだ。

ここで、折れてしまってはダメだ。

心の動揺《どうよう》を悟《さと》られないように、私は再び微笑《ほほえ》んだ。

「あなたの前では、鎧《よろい》なんて着てないわ。」

彼女は大きく目を見開いた。

そしてまた、がっかりとした表情を隠そうともせずに私に向ける。

すっかりお見通しの彼女に動揺を悟られないように、輪を掛けて微笑むのが、今の私には精一杯だった。

彼女の言う、鎧で、堅く心を閉ざしている。

これが私なのだ。

例え自分が傷ついても、相手のことは傷つけない。

偽《いつわ》りの微笑みを彼女に投げかけることが、最適解《さいてきかい》なのだ。

これ以上、彼女が私のテリトリーに入ってこないように予防線を張る。

微笑みで、彼女と私の間に線を引く。

自分で自分を守るのだ。

私は人間を信用していない。

私は人間を寄せ付けない。

私は人間が嫌いだ。

今までも、そして、これからも私は心を隠す鎧を脱ぐことはない。

そして彼女は、カシスソーダを飲みほすと、力なく立ち上がり、よろよろと勘定《かんじょう》を支払い出口に向かう。

寂しそうな彼女の背中に、私の口から思わず言葉がこぼれ落ちた。

「そのルージュ似合ってる。素敵ね」

それは、私がつけている赤いルージュと全く同じものだった。

そう言えば、前に彼女からルージュの銘柄《めいがら》を聞かれたのを思い出した。

私の言葉を聞いた途端、彼女の顔は、みるみるうちに赤くなり、そしてうつむいた。

彼女は赤くなった顔を隠すように慌てて店を出る。

私は、彼女の後ろ姿を見送り、その純粋さを羨《うらや》ましく思うのだった。

「どうやって鎧を脱がせてくれるのか楽しみにしているわ。」

私は、そっと呟《つぶや》いて、カウンターに戻り、いつもと変わらぬ「偽りの微笑み」を常連客に投げかける。

いつか彼女に本当の微笑みを投げかける予感を覚えながら。

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クレジット
・台本(ゆるボイ!)
【女性1名】硝子の微笑み《AnotherSide》
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
ニクキューP
ライター情報
猫と初音ミクを溺愛しているライターです。
コメディ、日常、メンヘラ、そして百合&ライトBL
ゆるふわ台本多め
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